バグ役令嬢 ~バグで複製された悪役令嬢になった私は一体何役令嬢なのでしょうか~

@yumebon

第1話『目覚めたら悪役令嬢…?』

「ん、ううん…」


私、桜井 結愛(3X)は某大手ゲーム企業に勤めるプログラマーである。

決してホワイトとは言えないが超絶ブラックとも言えない、まあ所謂普通の会社員生活といったところだ。

日々の生活にはそれなりに満足、今日も明日に備えて眠りについた。

眠りについた…はず…だったのだが…


「………」


見知らぬ、天井。

いや天井どころか今自分が寝ている場所すら違う。

すわ誘拐か?とも考えたが誘拐されたにしては待遇が妙に豪華だ。

それに…


「なんだか身体が軽い…?」


普段寝ているベッドよりも大分広く感じる。

…いや、これは…


「子供の姿になってる………!?」


一体何事かとハッと飛び起き、鏡を見る。

そこに映っていたのは…


「エ、エリカ様!?」


エリカ・キュービック

Dearing Saint Story(ディアリングセイントストーリー)…通称ディアストのヒロイン…

ではなく

ライバルポジション…所謂『悪役令嬢』と呼ばれる立場の人物だ


「つ、つまりこれは…俗に言う『異世界転生』って奴では!?」


ついテンションが上がってしまった。

しかし無理もない話だ。

なんてったって物語の中でしか起こり得ないと思っていた出来事が自分自身に起きたのだから。

しかも転生した対象が私が推しに推してやまないあの『エリカ様』ともなればオタク的テンションは爆上がりと言えよう。

…勿論、問題も山積みなのだが。


まず、彼女の作中でのポジションから説明しよう。

『悪役令嬢』…所謂ヒロインのライバル…あるいは噛ませ役である。

作中でも、第一王子の婚約者として登場したものの、当然ながら婚約を破棄され、展開によってはラスボスにまでなってしまう。

そしてどのキャラのルートでも主人公にちょっかいをかけては返り討ちに合ったり周りの人に諌められたり…

とまあよくあるパブリックイメージ的な『悪役令嬢』そのままと認識してもらって構わない。


だが彼女が一味違うのはその登場した『時期』だ。

そもそもディアスト自体かなり昔に発売されたゲームであり、発売された機種も『DreamStation(通称ドリステ)』と20年以上も昔のハードなのだ。

その時代のギャルゲー/乙女ゲーと言えばまだジャンルとして成立したばかりと言っても過言ではない黎明期…

つまり彼女は全ての悪役令嬢の祖と言っても過言ではないのだ!!!

…まあディアスト自体はかなり…いや相当マイナーゲームだったために『ある部分以外の』認知度はほぼ0と言っても良い上に、ゲーム自体もあまり売れずに開発会社もいつの間にか倒産してしまったのだが…

…ともかく!世間が認めずとも私の中では悪役令嬢の祖なのだ!


話が逸れたが、先述した通り私が彼女の人生を歩むのであれば問題が少なからずある。

王子からの婚約破棄、ヒロインとの対立、嫉妬に駆られての魔力暴走…からのラスボス化。

その辺りの展開を上手く捌きつつ理想の生活を送る必要があるのだが…

…それに、ここがディアストの世界だとすると…最大の問題が一つ


「エリカ様?」

「ひゃいっ!?」


おっと、つい思考に耽ってしまった。

そのせいでメイドが接近していたのにも気付かないとは…不覚。


「その…大丈夫ですか?」

「え、ええ!勿論大丈夫ですわ!ちょっと考え事をしていただけよ!」

「それなら良いのですが…その、今日はいつもよりお早いお帰りでしたし、何かあったのかなと」

「ほ、本当に大丈夫ですわよ!この通り身体もピンピンしてますし…」

「は、はあ…では私は失礼致しますね」


そう言うと彼女は部屋から去っていく。

…ドアをすり抜けながら。


(嫌な予感は的中するものね……)


そう、これがディアスト最大の問題点だ。

このゲームは………非常にバグが多いゲームなのだ。

良く言えば『挑戦的』、悪く言えば『詰め込み過ぎ』…そんな言葉がこのゲームには相応しいだろう。

このゲームのシステムは『リアルタイム戦略バトル乙女アクションRPG』。

…なんのこっちゃ?と思った人も多いだろう、正直これに関しては私も未だに何のことか分かっていない。

まあ簡単に説明すれば、アクションRPGとノベルゲームが合体したようなジャンルなのだが…

兎にも角にもバグが多く、ちょっとしたバグから進行不能になるバグ、プレイヤーに有利に働くものもあり、不利に働くものもあり…

このバグの多さのせいでゲーム自体は一躍有名にはなったが、有名になったのは『バグだけ』であり、なんならバグのせいでゲームを途中で投げ出す人も多く…

まあ、そんなこんなでこのゲームが素晴らしいシナリオであるという事を知る者は極少数なのだ、多分、恐らく、きっと。


「今のメイドの挙動も多分ドア貫通バグよね…というかこの世界におけるバグってどういう扱いなのかしら…」


などとぶつぶつと呟いていると、にわかに廊下の外が騒がしくなる。

一体何事だろうか?と考えていると、ドアが勢いよく開けられる。

その先に立っていたのは…


「あ、貴方…不敬にも私の姿形を真似た上にあろうことか私の名を騙るなんて…一体何者なんですの!?衛兵!この不届き者を捕らえて下さいまし!」

「………!?!?!?」


エリカ・キュービックその人だった。

………だとすると


「…私って、何役令嬢なんでしょうか?」

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