第十五章

 全て私が悪かったので、もう死のうと思った。今まで何度も死のうと思ったことはあるけれども、今日のそれは今までのどれよりも深く、切実で、私に染みわたっていた。私は私である意味がわからなかったし、しかもそれは今わからなくなったわけではなくて、わからないことが今わかっただけなのが余計に私の心を悲しませた。死ぬには手頃な場所を知っている午後十一時、私はその屋上にいた。迷わずあの左端に行って、身を乗り出して下を見た。その瞬間風が私の横を撫ぜて、髪が靡いた。それはまさしく風に舞う蒲公英の種、いや違う、私は何でもなかった。何に例えようにも、私はあまりにもちっぽけで、それは先程と同じく、ちっぽけであることが今に始まったことなのではなくて、私はずっとちっぽけで、それに気付いたのが今だというだけだった。これはとても情けないことだった。しかしこれに早く気付いてしまった人はどうするのだろうか、私には死ぬしかないように思われた。私はその人達をかわいそうだと思ったが、私の方がずっとかわいそうだった。

一回両手だけで柵をつかんで、体を少し逸らせて仰角四十五度の空を見た。星は一つだけ光っていた。名前はわからなかった。二つ目の星を見つけたが、それの名前は飛行機だった。これは少し私を悲しくさせた。

私は私のことについて最期に考えてみた。というより、私の死について考えてみた。それは私が今し得るなかで最善の選択だった。論理的かつ合理的で、その冷たさと同時に私を優しく包む温かさを持っているという点で完璧だった。なぜ死ぬのか、それはわからない、私の中では、愛に理由を求めるほど無礼なことはなかった。けれども私の不躾な欲望が、八歳の子どものようにその理由を知りたがった。理由と言えば、、、特に思い付くのは私の絶望、それは何に起因するのか、私は考えてみた、それは生まれた環境、入った大学、、、大学生である時までは幸せだった、けれども働き始めてからのこの絶望を急速に育てる土壌がそれまでに出来上がっていたという意味では、生まれた時からこれらが絶望的に嚙み合っていたと言わざるを得ない。私はそういう意味で不幸だった。

違う!私は間違いなく不幸ではなかった。不幸にさせられたのだ。誰に?この社会に。今すぐにでも殺してやりたい。どう殺せばいいのかは知らない。私は大学生までは幸せだった。寂しさを素晴らしい香辛料にして、美しい一皿の上の調和を生み出していた。けれども、それにチーズをかけて、鉄板の上に置いて、炙って、焦がして、燃やして、最後に生卵を乗せたのは間違いなくこの社会だった。私はそれが許せなかった。とんでもなく許せなかった。被害者の代表として、この世のすべての人類に手紙を出してやりたかった。私はやはり死ぬことにした。誰が私を殺すのか。それはもはや私ではなかった。私は死を前にして、ある一つの真理に到達していた。この世に自殺は存在しなかった。私を殺したのは、社会で、上司で、電車で、夏だった。私はそれに気付いたので、これから飛び降り他殺をすることになった。柵を乗り越えて、風が凪ぐのを待った。それは私の好みだった。何もない場所に、空気を切り裂くように飛び降りたかった。風は少しして、私に情けをかけるように止んだ。私は喉で息を少し握って、ふっと飛び降りた。

何の手助けもなくなった。私は重力の恣に下に落ち、胃液や内臓の浮き上がるのを感じた。私は自分が構造としてもこんなに不安定なものだとは知らなかった。当初の私の予想とは裏腹に、私は均質な空気の層を引っ張りながら歪めて落ちていった。それも悪くはなかった。私を中心に、原因に、少しでも世界が歪んだことが嬉しかった。


あああああああああああああああああああああああああああああ







ああああああああああああああああああああ






ああああああああああああああ




ああああああああああ




あああああ


あああ

ああ

死にたくないよ

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プラトニック・スウィサイド 石田くん @Tou_Ishida

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