第十三章

 私はなぜかとても早くに終わった業務、しかしそれは私をたしかにいつもと等しく疲れさせたけれども、の後、駅から家まで歩いていた。元気に跳ね走る茶色毛の犬と、それのリードを握る中年の女性、それが西日に射されるのが美しくて、思わず右に曲がってその二人が通った道の方に行った。西日は朝や昼と違ってたしかな優しさをたたえていて、自然の雄大さを感じた。少し遠回りだが元の道に戻らずとも帰れると思ったので、いつもの帰路と平行なその道を歩き始めた。しかし中々左に曲がれず、私の家の横を通り過ぎたのは明らかだった。小さなため息をつきながらそのまま歩いていくと、道は左にひしゃげたように曲がり、今来た道の延長線上にはずいっと川が入ってきた。その川と並行にまだ道は続いていた。ひしゃげたすぐあとには橋が架かっていた。その奥の川の両側に植わった桜並木は青々とした葉を西日に濡らして、艶めかしく輝いていた。私はそうあるべきだと思った。何がとはわからないが、そうあるべきだと思った。




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