第十章

 この金土日の休みで、私は風邪を引いた。血を吐いたのでもらった三日の休み、正確に言うと血を吐いたのは金曜なので、その日の早退を含めて三日の休み、あれ、つまりそれはただ金曜を早退しただけにすぎなかった。むしろ金曜日を早退ではなく休業扱いにされて損をしただけだった。私はベッドの中でそれに気付いて泣き出したくなった。その三連休がハリボテだったことが悲しいというよりは、そのあまりに簡単なハリボテを看破できなかった自分が悔しかった。私は口から熱い息を漏らして、涙も一緒に流し出した。熱の時は涙がボロボロ出る。その分を取り戻そうと、枕元に転がしておいた経口補水液のペットボトルを取って、横着して寝ながら飲もうとした。まだ二口ほどしか飲んでいないそれは横になりながら飲むには難しくて、胸元や首筋、顎にぽろぽろこぼれた。私はその結果を受けてようやく反省して、起き上がってもう一度しっかりとそれを飲んだ。私は帰り際にこの経口補水液を買った後の財布の中に五円玉が二枚と一円玉が二枚しかなかったことを思い出して悲しくなった。未だ流れ続ける私の涙は視界をぼやかして、天井の角を眺める私を邪魔した。段々私の部屋の壁は曖昧になった。ぼんやりと広がっていく私の部屋、、、涙を拭うと、急に、それは恐ろしいほど急に、私の部屋は判然とした。そのはっきりした境界線を私に提供して、この部屋には誰もいないことを強調した。私は寂しかった。これは今に始まったことではなかった。この部屋に急に誰か入ってきてほしかった。例えば母親、例えば父親、例えば人懐っこい犬、私の足の間に凛として座る猫、、、高校の時好きだったあの子、、、そういうものだった。寂しさとは。寂しさとはそういうものだった。私は誰かに抱きしめてもらいたかった。




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