7,つかの間の休息

 時刻は午前7時30分、第一都心区は通勤の時間帯。

慌ただしく駅に駆け込むヒトや自営業の店を開けるヒトなど、行動はそれぞれ。

ブリューナクは24時間体制で動いており、機械の目撃情報があればすぐに向かう。

だが動けるのは第一から第四までが限界であり、残りは巡回中に発見して鎮圧する。

かつては第八にも拠点を構えていたが、機械の集団侵攻で真っ先に狙われ壊滅。

今ある拠点は第一都心区の本拠地のみ。


(しかし休暇と言われたものの、何もやることがないな...)


 日付が変わるまで気を失っていたクロニは、ネザーの勧めで三日間の休暇を貰った。


『あの量の機械を鎮圧したんだ、総長には俺から伝えておく。できるだけ身体を休めるといい』


 だが機械は見つけ次第鎮圧せよという絶対のルールがあるため、剣は常時身に付けている。

機械がいなければ休みと変わらないが、戦い続けてきたクロニは休暇の使い方を知らない。


(休み...休みといえば商店街に行くことか?)


 自分で言っておきながら首を傾げる。

最後まで理解できないまま、クロニは商店街へ向かった。



== == == == ==



 第一都心区では唯一の商店街、【カバースコア通り】。

早朝に仕入れた鮮度の高い肉類や魚介類、真心込めて育てた野菜、果物など、売店によって様々。

朝から晩まで人だかりが絶えず、観光地としても有名になっている。


「クロニ様か!?魚買ってくかい?クロニ様にだったら安くするよ!」

「おお、クロニ様!よかったらウチの果物、見ていってくださいよー!」

「そうだな、せっかくなら見ていこう」


 幾度となくヒトを守り続けてきたクロニは住民からも信頼を得ている。

人混みのなかにいても目立つその美貌から、特に男性が多く応援してくれる。

その気持ちにこたえる理由もあり、クロニは商店街で売られている品物を順にみて回っていく。


「クロニ様、よかったらこの果物、試食してください!」

「ありがたくいただこう」


 立ち寄った売店の一つに果物を取り扱うところがあった。

それ自体はあまり珍しくはないが、商品があまり見ないものばかり。


「ん...美味いな。私は甘すぎない果物が好みでな。気に入った」

「ほんとですか!?ありがとうございます!」


 クロニが口に入れたのは"ニッカ"という、第三都心区だけで栽培されている果物。

洋梨のような形をしており、食感はリンゴに近い。

口に入れてすぐは酸味を感じるが、咀嚼を繰り返すたびほんのりと甘さが広がっていく。

第三都心区の文化では朝食に必ず出てくるのだが、ニッカを食べる文化はあまり広まっていない。

クロニもまたその一人であり、ニッカを食べたのはこれが初めて。


(ふむ...ブリューナクにお土産として買うべきか...?)


 売店の前で腕組みをしながら考える。

飲食のルールは決まっていないため、取り上げられることはない。

しかしブリューナクは毎日忙しいため、かえって迷惑になるかもしれない。

クロニが目を閉じて悩んでいた時―――どこからか現れた一つの声を耳にする。


「すまない、ニッカを10個ほど買わせてほしい。お金はこれで丁度だ」

「はい、たしかに。お買い上げありがとうございます!」


聞き覚えのある青年の声に、クロニはハッとして目を開く。

隣にいたのは深緑のローブを纏った姿。

左手に握られた紙幣を差し出し、右手で果物の入った袋を受け取る。


「それにしても不思議な格好ですね。顔も見えません」

「キカイの顔をしていたらどうするんだ?」

「ふふふ、冗談が上手いですね」


 軽く会話を交えて、は商店街を抜ける間の道を通っていった。

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