6,事後報告

「っ...ここは...?」


 陽の光に照らされた彼女は目を覚まし、ゆっくりとまぶたを開く。

ブリューナク本拠地に設置された治療室のベッド。

心電図や輸血設備は用意されてないが、クロニには目立った外傷はない。

後頭部への攻撃により脳にダメージが届いたための失神。

今は痛みもなく、脳が揺れている感覚もない。


 クロニが起き上がると同時にスライド式の自動ドアが開き、ヒトが入ってくる。

栗色のポニーテールを揺らした看護婦姿。

鼻歌交じりに入ってきた彼女のことはクロニもよく知っている。

狙撃部隊、医療部隊、技術部隊の三つに所属するブリューナクの優秀な一員。

名をユシル・サーナイト。


「あら、目を覚ましたのね。でもあんまり無理しちゃ駄目よ?外傷はないとはいえ、脳にダメージがあったのは本当だから」

「救出してくれたことは感謝する。だがどうやってここに運んできたんだ?ユシルは"ライセンス"を持っていなかったはずだ」

「あなたが第八都心区の入口まで歩いてきて倒れたんじゃなかったの?見張りのヒトたちは後ろで物音がして振り向いたら、あなたが倒れてたって言ってたけど」


 違う。

そう言いたかったが、クロニは口から出そうになった言葉を戻す。

路地裏で彼と戦うも敗れ、そこで気を失った。

もしも本当に入口まで運ばれたのなら、おそらくは彼だ。


『今のが正当防衛だったとしても、手を出したことは償う』


 償いとして、安全な場所まで運んだのかもしれない。

やはり彼は、今まで出会ってきた機械とは違うようだ。


「それとね、建物の一つが急に倒壊したからライセンス持ちのヒトが確認しに行ったの。そしたら核を破壊された機械がたくさんいたの!」

「ああ...そうだったな」


 墓参りに向かう際、次々と機械が襲い掛かってきたのを思い出す。

数だけが多く苦戦はせず、一振りですぐに鎮圧することができた。


「E機構が38、D機構が11、C機構が4、それとB機構が2!クロニはとても強くなったんだね」


 ユシルの報告を受けたクロニは違和感を覚えた。

第四都心区の倍以上の機械がいたのは覚えている。

だが殆どがE機構であり、C機構と思われる機械とは戦っていない。

そもそもB機構とクロニはほぼ互角であり、仮に時間が空いていたとしても2体も鎮圧するのは至難の業。


「本当にB機構がいたのか?」

「みたいだよ?核だけが正確に、判別は簡単だったみたいだし」


 クロニの武器はこの純白の剣のみ。

ユシルは特待生としてブリューナクに加入した一人であり、報告内容はいつも正確。

彼女が斬られているではなく壊されているといった時点で、それはクロニが仕留めたわけではない。

かといって彼のことを話すとブリューナクは警戒を高めるだろう。

まだ彼については謎が多いため、クロニは心の内にしまっておくことにした。


「...建物が倒壊したのはB機構と戦ったからだ。"機能"を持っているから、それくらいはできると思っていた」

「うんうん、さすがクロニ!ネザー教官も喜んでたよ。ライセンスを昇格できるかもって推薦してるみたい」


 数多くの戦績を残した者に授与される星形の勲章、ライセンス。

そのライセンスは四段階に分かれており、"クリスタ"、"プラチナム"、"ディアモンド"、"パテシバ"と名付けられている。

プラチナムへの昇格は自身より官位の高い者が推薦し、ブリューナク総長がそれを認めれば昇格できる。

クロニの場合だと教官のネザーが推薦しているため、あとは総長が承認するだけ。


「たった一日で昇格か。なんだか気恥ずかしいな」

「クロニはいつも通り堂々としてたほうがいいよ。そのほうが安心する」

「確かにな」


 これは自分の実力ではない。

しかし彼のことを報告するわけにはいかない。

ライセンスに恥じない実力を身に付ければいい。

クロニは自分の意志を、より一層確固たるものにした。


「そろそろ戻ろう。ユシルには世話になったな」

「本当はもう少し安静にするべきだけど、まあいっか。今後とも頑張ってね」


 クロニはベッドから立ち上がり、ユシルのいる医療室をあとにした。

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