4,ヒトか機械か

 クロニが見たものは、瓦礫の塊となったビル。

そこから何かが這い出てくる様子もなく、周囲にも気配はない。

だが、一瞬でここまでの破壊行為ができるのはB機構以上。

かつて単独で倒した敵と同格か、さらに強いか。

もしもA機構が潜んでいれば、クロニ率いる鎮圧部隊全員を呼ばねば太刀打ちできない。

僅かな気配も逃さぬよう、慎重に進んでいく。


「――――――」

「誰だっ!」


 相手が油断したのか、それとも誘いなのかは分からない。

クロニの視界の端に見えた、ビルの間の影。

肉眼で確認できたが、気配は微塵も感じなかった。

だが正体が何であるか確認する必要がある。

生き残りのヒトか、B機構以上の機械か。

クロニが気付いたときには、既に裏路地へと足を運んでいた。


「...動くな。手を挙げてこちらを向け。さもなくば切り伏せる」


 路地裏を進み曲がり角を右に向けば、影の持ち主はすぐに見つかった。

深緑のローブを身に付けた何か。

背中を見せているため、ヒトか否かは判別できない。

しかし眼前の標的は逃げる素振りすら見せず、ゆっくりとクロニのほうを向く。


「剣...?あなたは誰だ?」

「発言を許可した覚えはない。手を挙げるか、身の潔白を証明しろ」


 まだ若い、20代くらいの澄んだ低音の声が返ってくる。


「手を挙げれば、見逃してくれるのか?」

「ヒトであることが分かればいい。例えば...そのフードをめくる、とか」


 深く被っているフードにより、口元しか見えていない。

A機構は人語を喋ることができるため、発声で判別はできない。

それに先程の破壊行為があるせいで、クロニは彼がヒトだという可能性は殆ど考えていなかった。

彼は例に応じてフードをめくり―――クロニが動き出す。


 色の抜けたような白髪、こちらを見透かしているような蒼の双眸、無表情を形作る閉ざされた口。

ヒトにあるそれら全てが、金属の機体フレームに備えられていたのだ。

機械はより人間に近い形であるほど危険度が高いといわれている。

眼前にいる彼は見た目からしてA機構であることは確定。

それでもクロニは、剣を振りかざしながら突貫した。


「機械め!私の故郷を汚すな!」


 剣は全力で振り下ろすも軽々と躱され、地面に深く突き刺さる。

それでもクロニは追撃を見せ、瓦礫を吹き飛ばしながら斬り上げる。

女性とは思えない腕力に彼は驚いたような表情を見せたが、上体を逸らして追撃を回避。

焦る素振りもなく、ローブ姿のまま先程のように立ち止まっている。


「これがA機構...私の攻撃を容易く躱すか」

「A機構?なんだそれは」

「しらばっくれるな!!貴様のような存在がどれだけヒトを殺してきたか、私は知っている!」


 構えを変えて再び彼に襲い掛かる。

無数の薙ぎ払いは全て大振りだが、この路地裏では後退するしか回避は出来ない。

彼は躱すとともに一歩ずつ下がり、少しずつ行き止まりへと吸い込まれていく。


「待ってほしい。僕はあなたに危害を加えるつもりはない。どうか剣を収めてくれ」

「私ではない、お前たちは世界からヒトを消そうとしている、それ自体が危険なんだ!」

「ここを故郷と言っていた。悪いことをしたなら謝るし、すぐにここから出ていく」

「この、っ...!!」


 彼の言葉に怒りを感じ、クロニはさらに素早い横薙ぎを放つ。

左右の廃墟を斬り、力任せに振り抜いた剣がローブを掠める。

間髪入れずに同等の速度で再び振り下ろし、一撃で仕留める。


 だがクロニは分かっている。

眼前の機械がA機構であること。

こんな攻撃では核には届かない。

彼の伸ばした右腕が、自身に向けられた純白の剣に近付く。

鈍く光る機体に装着された、青い手袋をはめた右手。

ブリューナクのエースが放った一撃を、彼は片手で受け止めた。

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