3,第八都心区
「クロニ・オーラル様ですね。ようやくですか」
「ああ。行ってくる」
「お気をつけて。ここから先は無人区ですので」
外に出たクロニが向かっていたのはブリューナクが隔離している地域の一つ、第八都心区。
あまりの危険度に出入り口を完全に封鎖し、交代で見張りを置いている。
既にヒトはおらず機械が蔓延る世界と化しており、ブリューナクに認められた者しか立ち入ることは出来ない。
数多くの戦績を残した"ライセンス"を持つ者のみ。
見張りにライセンスを見せ、クロニは第八都心区に足を踏み入れる。
やっと帰ってきた故郷は、雑草に覆われた廃墟が建っているだけの世界。
あの頃の平和など、どこを見渡しても面影すら感じない。
「そこかっ!」
早速現れた機械3体を素早く視認し、攻撃されるよりも速く純白の剣を振るう。
E機構ならばどれだけ集まろうともクロニには関係ない。
一振りで全ての核を切断し、先へと進んだ。
== == == == ==
隔離地域に入ってから30分が経過。
報告が多かった第四都心区の倍以上に迫る勢いで機械が襲撃してくる。
しかも鎮圧した18体は丸一日かけて発見した総数であるため、短時間でこれだけ機械が現れる第八都心区の脅威は計り知れない。
だがクロニはブリューナクのエースであり
E機構、D機構が束になろうとも構わない。
廃れたビル群を抜け、小さな山に登る。
成長した今見れば丘と呼んでもいいほどの小さな山だが、子供の頃はとても大きく見えていた。
頂の光景を見るために疲れても歩き続け、その背中を両親が見守っている。
推定5分ほどで山頂に辿り着くが、その間にも機械は襲い掛かる。
「機械め、私の大切な思い出を汚すな!」
怒りにも似た感情で、正確に核を斬る。
森林を抜けた先、夕日に照らされた小さな野原。
ここが頂の光景、幾度となく見てきた変わらない空。
「父さん、母さん...久しぶり」
クロニは剣を鞘に収め、野原に座って二つの丸い墓石を懐かしそうに眺める。
機械の集団侵攻によって第八都心区は壊滅し、両親もその時に巻き添えとなって死んだ。
ブリューナクに加入してから年に1回は来ていたが、第八都心区が隔離地域に指定。
ライセンスを得るために、これまで以上に戦果を求めるようになった。
「聞いてほしい。私は今、ブリューナクっていう組織にいるの。父さんと母さんの仇を...機械を鎮圧する組織。たくさん努力して、部隊長になって、ライセンスを貰って、ようやく会えた」
ゆっくりと二人に語りかける。
「私は...命を賭けるのは好きじゃない。でも、二人を私から奪った機械は、絶対に許せない。次ここに来たときは、機械のいない世界になったときだから。約束する」
クロニは両親の前でそう誓う。
ヒトが平和に暮らせる世界になるまで、彼女は剣を振り続けるだろう。
この第八都心区も機械の手から救い、かつての光景を取り戻す。
両親との会話を終え、名残惜しそうに立ち上がる。
袖で目を拭い、流れてきた水を止める。
その表情は普段の凛々しいものに戻っていた。
別れを告げ、本拠地へ戻ろうと背を向けた―――直後。
「っ...!?」
大地が悲鳴を上げる。
上下に揺さぶられる衝撃と同時、眼下に見えるビル群から爆発。
建物の一つが崩れ落ち、ガラガラと地面が割れるような崩壊音が轟く。
無意識のうちに剣を引き抜き、山を駆け降りた。
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