2,抗争
都市【アステール】の中央、第一都心区にそびえる巨大な城。
アステール第四都心区から帰還したクロニは、最初に教官のいる部屋へと向かう。
「失礼します」
ノックを三回、両扉の片方を静かに開け、教官の顔を見る。
クロニにとって恩人であり師匠、戦闘指南役教官ネザー・アトロフェネル。
白髪の生えた中年男性にも関わらず、堂々としたその振る舞いからは威厳すら感じる。
彼が着ている濃紺の軍服、その左胸にある
今なお現役で前線に立つヒトの象徴。
「第四での警備ご苦労だったな、クロニ。あそこにはけっこうな数がいただろ?」
「E機構が13体、D機構が4体、C機構が1体。全て鎮圧に成功し、部下に処分を任せています」
弟子の報告を聞いたネザーは満足げに数回頷く。
第四都心区でかなり多くの報告があったため、玄人ですら無事に帰ってくるのは難しいと推測されていた。
報告された機械全てを鎮圧し、無傷での帰還。
ネザーの蒼い双眸は、我が子を見守るように優しかった。
「あの頃よりも逞しくなった。成長したんだな、クロニ」
「お褒めの言葉をいただき恐縮です、教官」
「はっはっは、実力がつくと馬鹿真面目になるのか?ここは公的な場所ではない、少しは肩の力を抜け」
「分かりました...ありがとう、師匠」
第三鎮圧部隊を率いる部隊長、クロニ・オーラル。
弱冠17歳にして最年少での部隊長昇格、19歳でB機構を単独鎮圧。
部隊を含めブリューナクのエースとして最前線を張っている。
"機構"とは、機械の危険度や鎮圧難易度などの総評を表す階級。
最低Eから最高Aの5段階に分かれており、B機構1体で都心区の一つが壊滅するレヴェル。
A機構ともなれば被害の想定が不明、過去5年間でたった2度しか報告されていない厄災。
ブリューナクはこれら機械の全てを鎮圧し、ヒトに平和をもたらすために活動をしている。
だが、機械がどこから現れたのか。
なぜヒトを狙うのか。
どうやって生まれているのか。
一切が謎に包まれたまま、ブリューナクは後手で戦い続ける。
「...それにしても、物騒な世の中は変わらんよなあ」
溜め息をこぼしながら、ネザーは何も変わらない現状を見つめる。
いつから続いているのか分からないこの戦争。
ネザーの生まれる前から既に始まっており、最低でも50年は続いている。
どれだけ低く見積もっても50年。
進展などない。
「師匠らしくないよ、その姿。いつも堂々としてないと、私まで自身無くすから」
「そう、だな。いつか終わりはくる。そう信じよう」
話に区切りがついたところで、クロニは退室しようと後ろを向く。
そのとき、ネザーはある事を思い出してクロニを呼び止めた。
「そうだ、お前に渡すものがあるんだ。B機構の件ですぐに渡そうと思っていたが、上から経験を積むまで渡すなと言われてな...お前が待ち望んでたやつだ」
ネザーが机の引き出しから取り出したのは、星型のバッジ。
銅で作られたバッジの中心に、ブリューナクのシンボルである狙撃銃が彫られている。
数多くの戦績を残した者に与えられる"ライセンス"。
加入した時からクロニが求めていた特権のある勲章。
「これを...私に?」
「この場にいるのはお前だけだろ?早速つけて見せてくれ」
おそるおそる手に取り、ネザーと同じ左胸の部分にバッジをつける。
蛍光灯の輝きで、ライセンスが鈍色の光沢を放っていた。
「良かったな、クロニ。長かっただろう。やっと両親に花を供えられるな」
「師匠...本当に、本当にありがとう...今までの努力が全部、報われた気がする」
クロニはネザーと固い握手を交わし、部屋を後にする。
任務が終わった直後にも関わらず、再び外へと出る。
部隊の誰も呼ばずに、たった一人で。
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