第50話 朝食前のとりまとめ

 汗だくで息を切らせベッドに横になったとき、ネゾネズユターダ君は『静音』の魔法を解除しようとした。範囲中からの解除は杖なしでできる。というか私でもできる。しかし私は彼に向かって指を立て、もう1回をおねだりした。彼はそれに応えて頑張った。2回目も最高だった。

 完全に体調が戻った気がした。2回目が終わってからしばらく裸でくっついていた。あーよかったと言ったが自分の耳にも聞こえなかった。音を消される空間の中で汗と肌の熱だけをお互いに交換した。私は彼の後ろから手足を回して胸を押しつけ抱き付いて、おとなしくなった彼のものをなんとなく触って握ったり撫でたりした。『静音』の魔法を彼は解除しなかった。3回目に向けて彼が固くなろうとしていた。首を回して私にキスをした彼が、私の後ろの何かに気づいた。

 私もそちらを見た。部屋の扉があった。ノックで揺れているような気がした。

 彼が魔法を解除し音が戻ると、扉をノックする音が聞こえた。激しい音だった。私は服を着ずにベッドのシーツの中に潜った。彼はズホンだけ履いて上半身裸のまま自分の杖を持って扉の方へと向かった。

 魔法で匂いを消せればよかった。といっても、消したとしても匂い以外の色々な様子で何をしていたかはバレバレだったと思うけど。

 私はシーツの中で余韻に浸っていた。ニヤニヤしていた。別にそれだけがすべてではないがベッドの彼は最高だった。幸せを感じて溜息が出てしまう。水浴びしたいタイミングだ。扉に向かう彼の背中を顔だけ出して見ていた。

 彼は杖のスタックに何か魔法を込めてから、『施錠』の魔法を解除した。乳母と、昨日も見た記憶のある何人かの使用人が中に入ってきた。襲撃のような物騒なものではなく、心配して駆け付けたということだった。無事ですか何かありましたかと必死だった。声に危機感があった。まだ城内に私たちの命を狙う勢力があるということだ。

 立ち話が続き、2時間後に朝食と共に事後処理の話をしようと決まった。それだけ決まるとみんな部屋を出ていった。興味はなかったが私にも関係があるのでよろしくと念を押された。

 乳母はそのまま入ってきて息子の様子を確認した。ちらっと見るなり、「何かしましたか?」と聞いてきた。

 私はシーツから腕だけを出し胸を隠した状態になっていた。「障害があったから魔法で治したの」

「そうですか」安心したような声を出した。乳母がどんな変化を感じ取ったのか分からないが、よい変化だと思っているようだった。娘のベビーベッドに移動して中で寝ている様子を見た彼女は膝の力が抜けてその場に座り込んだ。あああと安堵あんどの声を漏らした。

「どうしたの?」私は上体を起こした。胸が見えてしまうけどまあいいだろう。

 乳母は私の方を向かなかった。へたり込んだまま、泣きそうな声で、「よかったです」と言った。「子供らしさが戻っています」

 私も彼女の言っていることが分かった。私が魔法を唱えるまでの娘には、警戒心や不安感といったものがただよっていた。そういったものはうまく説明できないけど子供を見てなんとなく分かるものだ。そして今はそれがない。すやすやと眠り、無邪気に成長している。

 たとえとして適切かどうか分からないが、人に慣れている動物とこちらを警戒している動物の違いに似ている。雰囲気が違う。

「幼児退行しているから喋れなくなってるかもしれない」私は言った。「すぐに元に戻ると思うけど」

 ネゾネズユターダ君は着替えていて私を見てもいなかったし、そんな態度はまったく出していなかったけど、私の言葉を聞いて思っていることはもちろん分かった。知った風なことを言っている自覚はあった。なんだかなー。こういうことでマウント取られたくないな。ほんと。彼もそんなつもりはないんだろうけど、つい劣等感を覚えてしまう。

 メイドがいないので彼にもいくらか世話係をお願いしなくてはならない。私は彼に着替えを持ってくるよう頼み、ほかに水差しや水浴びの用意も頼んだ。

 さらに若い使用人を何人か連れてくるよう頼んだ。乳母には乳母の仕事がある。この城の中で信用できる手伝いを見つけるのは時間がかかりそうだが、このままでは回らなくなる。新人に近いメイドから何人かに声を掛ける必要があった。

 事後処理の会合前にあれこれしながら、私は昨日の午後から今までにどのようなことがあったのかの話を聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る