第49話 3日ぶり
私は魔法を唱え終えてしばらくベビーベッドを見ていた。私の魔法はすぐに効果が見えるようなものではない。それに意識を失ってしまう副作用がある。とはいえ子供の脳は柔軟でかけられる前と殆ど違いはない。腹が減ったら泣き、うんちをしたら泣き、眠くなったら泣く。元々本能しかないので影響は微々たるものだ。
すやすやと息をしているのをしばらく見ていた。ネゾネズユターダ君が長椅子から立ち上がってこちらに寄ってきた。
長椅子の横に寄せた毛布の下に私と彼の杖が見えた。彼は2本の杖と一緒に寝ていた。
「魔法は成功した?」
「うん」私はまた自分の子供に目を戻した。窓からの日光がちょうど顔に当たって眩しい。「よく寝てる」
彼が寄ってきて私の横に立ち、一緒にベビーベッドを覗いた。「んー、女の子の方はさすがに赤ん坊に戻った感じがする」
「元々赤ん坊だったんじゃないの?」私は意味が分からず聞いた。
「ちょっと喋ってたんだけど、なんか知性が抜けた感じ」彼は笑ってほっぺをぷにぷにした。「気のせいかな?」
「え、ちょっと待って。まだ娘の声を聞いてないんだけど」
「言葉は少なかったよ。たぶん、その、叩かれたりしたからだと思う。これで治ったなら安心だよ」彼は寝ている娘から手を離した。
私は彼の肩を掴んだ。「なにしてくれてんの? 騙したの?」
「騙してない。いいことをしたんだよ。2歳児らしくなかったもん」
「2歳児らしさって何よ」肩を揺する。
彼は笑顔で揺さぶられるに任せていた。「2歳児らしさは2歳児らしさだよ。子供見てれば分かるよ」
「ネゾ君、絶対、私のことナメてるでしょ。この分野で」
「分野じゃないって。それに今の方がちゃんと子供らしい。安心して寝てる」彼はベビーベッドに目を向けて、私にも見るように
私は促されるままに自分の娘を見た。安心しているかどうかは私には分からないが、唱える前に比べて障害が消えたのはなんとなく分かった。本当は脳の中の話なので見て分かるはずがない。それでも私には分かった。ネゾネズユターダ君にもそれが見えていた。「まあね」
隣でベビーベッドを見る彼が私に体を寄せてきた。
私も昨日、一昨日とセックスしていない。すぐに乳母が戻ってくるはずだし、部屋の外には見張りがいるはずだ。このまま2人で後ろのベッドに横になるのはあまりよくない。私は自分からも彼の方に体を寄せた。密着すると立ったままキスを始めた。お互いの唇と舌の感触を楽しみ、体に腕を回して触れ合った。エッチを始めてもおそらく最後までできない。部屋の外に子供を出すわけにもいかない。外にどんな敵がいるか分からない。
ネゾネズユターダ君が果物の実をもぐように私から離れると長椅子へ速歩きをした。こういう
力が強いといっても私を運ぶほど強いわけではない。私は自分からベッドに数歩、移動した。彼に腕を回しながらだったので私が彼を運んでいるようにも感じた。とにかく2人でベッドへの数歩の距離を詰めた。そこで勢いに任せて倒れ込んだりはしなかった。ベッドの横で唇を離すとお互いに一気に服を脱いだ。それからベッドに横になった。お互いの体に手を這わせながら彼は私の全身にキスをし、私は彼の肩に噛み付いて背中に爪を立てた。
始まってしまうと私の口からは絶叫が漏れた。
レシレカシの部屋には『防音』の魔法がかかっているので外に音が出ない。しかしここはもちろんそんな措置はされていない。
私の声を聞いた彼が冷静になった。扉の外を気にして私から離れ、また杖を取りにベッドから下りてしまった。
「そんなの気にしなくてもいいのに」私は肌が離れて冷たくなっていくのを感じながら言った。
さっきまで天井を照らしていた朝日は今は床を照らし、白く照らされていた壁も今は普通の明るさになっている。夜明けから朝へと時間が変わっていた。
「『防音』は無理だから『静音』でいい?」
「しょうがないからいいよ」
彼は『静音』を唱えた。空間の音量を減らす魔法なので、ベッドの上にかけると自分が聞く自分たちの声や音も小さくなる。それはもちろん興醒めでもあったけど、自分の声を遠慮なく出せるというメリットもあった。
魔法を唱えた彼はベッドに戻ってきて私を抱き直した。
子供を起こさないというメリットもあった。
子供が泣いていても気づかないというデメリットもあったけど、そこは幸い、私の魔法の副作用もあって、ぐっすり寝ていた。
私たちは久し振りにお互いの体を堪能した。
よしよし。調子が戻ってきたぞ。あー、気持ちいい。朝のエッチは最高だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます