第43話 “ダトベ城の虐殺” その3
そのとき立っている位置から、ネゾネズユターダ君が左、私が右、という割り当てがなんとなく決まっていた。
今思うと投降してきた魔法使いの杖を私が借りるという手もあったかもしれない。実際、彼は私に自分の杖を差し出すつもりでちょっと口を開きかけたらしい。私もネゾネズユターダ君も無くても平気という態度だったので言い出すタイミングを逃したそうだ。
魔法使い20人に囲まれていた。私はレシレカシ魔法学校の純粋培養魔法使いなので、他の魔法使いが魔法を使うところを見たことがなかった。戦場にも行ったことがないし、家にいた頃にも私の前で魔法が使われることはなかった。唯一、私が見た魔法は子供をあやすための幻覚魔法で、それを見よう見まねで再現したことが留学のきっかけになった。何が言いたいかというと訓練所や軍隊にいる普通の魔法使いの詠唱速度を知らなかった。
ネゾネズユターダ君は幼少期に見ている。しかし彼が見た魔法使いの実力というのもその後のレシレカシの魔法使いの実力で上書きされていた。自分より優秀な魔法使いを何人も見てきたし——念の為言っておくけど彼より優秀な魔法使いというのは私のことではない——成績の悪い魔法使いでも油断ができないと思っていた。
20人もいたらまともにやって勝つのは無理なのだ。つけいる隙は簡単だ。ここにいる魔法使いや兵士はホセデレズバの命令があるまでは動けない。先に1回、さらにホセデレズバがやれと命じてそれに応じて反撃の魔法を唱えるまでにもう1回と、私たちには2回のチャンスがある。その2回で相手を無効化する必要がある。私たちはそう考えていた。
まさか訓練所の普通の魔法使いが、杖のスタックに魔法を1つずつ組み込んでそれを発動させ、次を唱えるにはまたスタックを組み上げるという方法で魔法を使っているとは思ってもいなかった。1つの魔法と次の魔法との間には2分弱の間隔を必要としているだなんて私たちには想定外だったのだ。訓練所の魔法使いにとっては、杖は方向を決めるための補助器具以上の意味を持っていた。
ホセデレズバと茶番のような会話をしながら、私とネゾネズユターダ君は不意打ちのタイミングを合わせていた。いつでもいい。理想的にはタイミングを外して相手が反応できないのがベストだ。
「ほかに命を捨てるものはいないようだな」ホセデレズバは立ったままだった。私との交渉の綱引きを終えて安心していた。「その馬鹿の首には報奨を与えるが、そいつばかりを狙うなよ」
周囲の兵士たちからはははと笑い声が上がった。
「血飲み族は好きにしろ」——これはネゾネズユターダ君に対するこの地方の
また兵士たちがはははと笑った。
「お待ちください。ホセデなんとか様」私は一歩進んで膝をついた。手を合わせて腕で胸を寄せた。「お願いします。命だけは……」
そのポーズから人差し指と中指の二本を立てて、右側の兵士と魔法使いの列の端から後ろへ向けて範囲を指定していく。
ネゾネズユターダ君も杖を立てると左側に向けて振っていった。詠唱を聞いてびびる。
私は右側の端から端まで指を振ると『睡眠』の魔法を唱えた。かけられた者たちの目がとろーんとなる。眠くなってから眠るまで時間差がある。私はそれを待つことをしなかった。本来の有効射程距離3メートルの魔法に延長効果を付与して、まだ立っている1人目の魔法使いに狙いを定める。『発狂』の魔法が発動する。私はすぐに指を次の魔法使いに向けて、同じく『発狂』を唱える。3人目に唱える前に私は
その頃には頭の後ろで青白い閃光が走り、私の側の視界の壁も真っ白に点滅した。そしてものすごい爆発音。
何度も言うが
音だけで部屋の高い位置にある窓が割れ、
自分の声も聞こえない中、私は立ち上がって3人目以降も順番に『発狂』をかけていった。10人目に唱え終えた頃に兵士も含めた右側の全員が睡魔に耐えきれず
ネゾネズユターダ君が左側をやった勢いでぐるっと回った。私が眠らせた兵士に杖を向ける。
「『光電球』はやめて」私は言った。
彼は首を縦に振り、範囲拡大した『炎の壁』で右側の全員を焼き殺した。眠りから覚めた兵士たちが絶叫し、その悲鳴が謁見の間に響き渡った。
私は玉座の方を確認した。不意打ちは成功していた。ホセデレズバは立ったままだった。音に驚いて目が見開かれていた。私がお願いしますと膝をついてから20秒かかってなかった。降伏した魔法使いも
少しずつ、部屋に肉の焼ける臭いが漂い始めていた。
ネゾネズユターダ君が近づいてくる気配がした。私はホセデレズバから視線を外しそちらを見た。ちょっと笑顔の彼が片手を上げている。テンション高いな。私は彼の方に寄ってその手にハイタッチした。パーンといういい音が響いた。
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