第28話 彼氏の友達と散歩

 そばに立っていたネゾネズユターダ君の友達には私も見覚えがあった。

 1人は彼と国違いの同じ南西蛮族ばんぞく、1つ下の6年生だ。色黒で巻き毛。ネゾネズユターダ君とは見た目は違うけどルーツは近いと感じる。

 もう1人は7年生で貴族生徒だ。眼鏡が似合う成績優秀な優等生だ。彼と私はネゾネズユターダ君とは別の縁で彼が幼い頃に出会っている。学内でうろうろしているのを見かけて、『鬱病を治す魔法』と『パニック障害を治す魔法』をかけたのだ。その魔法のせいもあって彼は私のことは覚えていない。横に立って、くっついている私たちを見てやれやれという顔をしている様子は真面目で勉強熱心な16歳にしか見えなかった。

 話をするのは一ヶ月ぶりくらいだった。私は2人と挨拶をして握手をした。最近の学校のことや、私がいないところでのネゾネズユターダ君の話などをして、妊婦の被験者募集という話題も出た。午前中のうちに学生の間ではそこそこ話題になっているようだった。妊娠と出産に関係する魔法の開発という説明を繰り返した。

 ネゾネズユターダ君は『遠隔子宮』のことをこの2人にも話していないようだった。3人でこの実験はなんだろうという話になっても、彼が喋るのを我慢したということだ。

 2年前に開発した魔法についてはどうだろうと思った。うまく聞く方法は思い付かなかった。

 4人で立ち話をしていて、気がついたら私とネゾネズユターダ君は手をつないでいた。余った方の手で身振り手振りをしたり顔に手をやったりするのだけど、一方の手はつないだままだった。

 私と彼は一緒にいるとお互いの体に触れていることが多い。腰に手を回したり、腕を組んだり、くっつき方は様々だけど、今のように第三者もいるときは手をつなぐ。お互いの身長がほぼ同じ今の時期だからこそという気持ちもあった。手と肩の高さが同じ今はこういうのが自然にできる。

 自然にしていたけど、2人の男子生徒は居心地が悪そうだった。私たちを見てというより、私たちを見ていく周囲の人がついでのように一緒にいる彼ら男子2人をちらっと見ていくわけで、それに気まずくなってしまったようだ。

「話をするのはいいんですけど、もっと人のいないところに行きません?」巻き毛の生徒が周囲を見た。「どうも落ち着かなくて」

「そうだね。実演場に歩きながら話そうか」ネゾネズユターダ君がそちらを示した。

 私と巻き毛の南西蛮族の生徒、ヒピョゴダ君が中央に並んだ。「そういえば彼女ができたって言ってたけど、順調?」

「ああ、はい。仲良くやってます」私に頭を下げてきた。「彼女がザラッラ先輩に恋愛相談していたとかで」

 私は空いた方の手をぶんぶんと振った。「そんなの全然気にしなくていいよ。大したことしてないし。うまくいってて安心したわ」それから慌ててフォローする。「そうはいってもうまくいかなくなったら無理しなくていいからね。失恋相談にだって乗るんだから」

「いやいや、縁起でもない。俺も彼女とはうまくやっていきたいです」彼は笑いながら首を振った。

「それはよかった。私からも伝えておくわ」

「よろしくお願いします」彼は真剣なトーンで言った。「なんかこう、女の人って、うまくいってると思ったときに急に情緒不安定になったりするじゃないですか。彼女もそんな感じで……」

 道は広くて固く舗装された道路になっていた。最新の舗装技術だ。各種実験のための物資を運ぶためのものである。魔法学校の物理魔法実習は実演場と呼ばれる広場で行う。実演場は構内の離れた一角にあり、高さ5メートルのつつみに囲まれている。さらに周囲は木が植えられて林になっていた。レイアウトの目的は周囲の建物を爆発から守るためなので物騒であったが、そこに目をつぶればのどかな森林公園のような景観だった。人が多くないので生徒や先生の散歩や息抜きにもよく使われていた。

 4人で横に並んで広い道を歩きながら、私は木漏れ日に目をつぶった。「ヒピョゴダ君は卒業後は国に帰るんでしょう? そりゃあ彼女としたら情緒不安定にもなるわよ」

「卒業っていってもまだまだ先ですよ。さすがに考えすぎじゃないですか?」

「彼女も自分が考えすぎだってことくらい分かってるわよ。だから君に何も言わないんでしょ」

 彼は顎に手を当てた。「なるほど……」

 私はニヤニヤしてしまった。年のせいかもしれないけど、お姉さん、素直で真面目な男の子は大好きだ。別に性的な意味ではなく。

 というか、彼氏と手をつないで歩いていたら性的な意味でむらむらきてしまった。昼食後の緊張と緩和と昼下がりの陽気がよくない。この流れだと実演場の外れの林の中でちょっとという展開になりかねない。私はいいんだけど、これからそこで実習というネゾネズユターダ君のことを考えるとねえ。欲望に忠実な魔法使いとはいえ、そこは自重すべきところですよ。

 あと、この服だと事後に着替える必要がある。そのことに気づいて我慢した。

 外側を歩いている眼鏡の貴族生徒7年生が話しかけてきた。「うちもそうなんですけど、貴族がここに寄付する理由ってなんだか分かりますか? 先輩」

「実利はほとんどないと思うよ。私みたいな問題児をいざっていうとき預けられるとかじゃないかなあ」

「うーん。やっぱりそうですよねえ。俺もそれくらいしか思い付かなくて」

「教員に言わせると、問題児を預かる代金で、民間から優秀な子供を集めて研究をする運用ってことみたいよ。貴族生徒1人の代金で、魔法使い10人を育成する、みたいな」

「身も蓋もない話ですねえ」

「私もよくは知らないけどね。ただの研究員だし」

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