第26話 学校で問題になっているあの魔法
お菓子は、ケーキにクッキーに果物にとそこそこの種類が揃えられていた。焼きプリンにフルーツタルトまであった。10人の生徒たちはわいわい騒ぎながら独占したり食べ比べをした。
髪を染めるファッションというのは私は知らなかった。白髪染めとしてそういう技術は昔からあったけど、カラフルに、実際には存在しないような色すら使って髪の色を変えるというのは新しい発想だ。
「それは昔からあったの?」
「ザラッラ先輩も興味あります?」明るい青髪の生徒は自分の髪を
私は素直に感心した。彼女の髪の色は塗料の群青や藍色とも違う。夏の空のような明るい青だ。自然の色ではあるのだけど髪としてはすごい違和感で、不健康というか、形容しがたい異質な印象を与える。「人間の髪にこれだけ固定観念があったんだねえ」私は彼女の頭を観察した。太陽の光を受けているが普通の髪の毛のように白く反射していない。のっぺりと光を吸収している。素焼きの表面のようだ。「うーん。面白い」
髪染めを売っている店とやり方を聞いておいた。メイドの方を見た。
別の生徒が口を開いた。「ザラッラ゠エピドリョマス先輩、あの、掲示してあった被験者の募集は何の実験ですか?」
「あー、あれね」私は朝の助手との会話を思い出した。「簡単に言うと、安全に楽に出産ができる魔法の開発中で、そのための協力者を集めているところ」
「やっぱり出産は先輩でも大変でしたか?」言ってきた女生徒の顔は笑っていた。これは完全に突っ込み待ちのボケだった。
「いやいや、ギュキヒス家の出産ともなればその辺のメイドに金を握らせて代わりにいきんでもらって……って、そんなわけあるかい」割とスベった。妙な間を置いたあとの愛想笑いが生まれて死にたくなった。勢いはつけたつもりだった。貴族生徒との昼食の口直しだったので前の気分を引きずっていたのかもしれない。「まー、楽ではないよ」
「出産の革命もありがたいですけど、ザラッラ先輩のほかの魔法についてもどんどん作って欲しいです」
「あー、あれね」私はその場の全員の顔を見た。男2人が邪魔だな。「みんなもう知ってるのね。全員、使った?」声に出して返事はないし、勢いよく手を上げるということもない。使ったことのある女生徒は小さく
今度は女生徒全員が頷いた。男2人はきょとんとしている。何の話なのか、説明があると思って待っていた。
そんな男を見て、女生徒たちは黙っている。まあ、教えるわけはないよな。
「出産はねー」私はこれまでの歴史で何人もの女性が言ってきて聞いてきた話を繰り返すつもりはなかった。大変なのはみんな分かってて、本当に大変だということは経験者にしか分からない。「産むのが大変なのはみんなも分かってると思うけど、産んだあとの身体って、実はものすごく大変でね。なかなか回復しない」その場にいる生徒たちが傾聴する姿勢になった。「産後の肥立ちが悪くて亡くなる話も珍しくない。うまくいかないと女性の体にすごくダメージが残るんだよ。で、あの魔法だけど、繰り返し言ってるけど、出産を経験に作った魔法だけど、産後の肥立ちの事前練習みたいなところあるんだよ。充分に安全にしたつもりだけど、それでも危ないことは危ないよ」
割と間を置かずに質問が来た。黒髪で髪の長い、私の隣に座った生徒だった。「前から先輩に聞きたかったことが2つあります」
「なに?」
「今回の募集のように、あの魔法も実験台になった人はいたんですか? 募集があった記憶がありません。もう1つ、実験で気になったのが、あれって自分専用の魔法ですよね?」
「いい質問だ。本当にいい質問だ。まあ、そう思うよね」後ろの質問は答えにくいが、いずれ聞かれると覚悟はしていた。「一般からは募集してない。実を言うと自分を実験台にして開発したんだ。そのほかには知り合いの何人か、身内だけで検証した。みんなに教える前に、生徒の何人かにも協力してもらったよ。そこから情報漏洩しちゃったけど、それは織り込み済みだから責めることではないしね」私は一同を見回した。「協力してもらった生徒は何人かいるけど、本人が自慢しているからこれは言ってもいいか。1人は8年生のパリョーさんね」
パリョーという女生徒は有名でもなんでもないが、自慢しているので一同の中でも知っている人はいる感じの反応だった。
私は唇を舐めた。「さて、もう1つの質問だけど。私はあの魔法を他人にかけることもできる。けど、話はそれだけ。普通の人があれを自分以外に使うのは無理」
女生徒のうち数人は
ここで何の魔法の話をしているのかというと、2年前に私が開発した『生理を1日で終わらせる魔法』のことである。
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