第21話 メイドたちに魔法をかける
今日の服はシャツとパンツにした。気になっていたデザインだ。シャツは襟も付いた男物っぽい形だけど、胸の中央と脇の下、体の前面に3本の楕円の穴が開いている。中央からは胸の谷間が見えるし、左右からは横乳がいい感じにちらちら見える。下着が着けられないデザインだけど、私の体型に合わせて裁断してあって、上着だけで胸の形を支えるようにできている。胸の下の編み紐で締めると胸は見えるのに揺れたりこぼれたりしない絶妙の締め付けになる。
下のパンツもシャツのデザインに合わせて、腰から太股にかけて両側に大きく穴が開いていて、そこから足の付け根が色っぽく外に出ている。
私は鏡の前でポーズを変えて鑑賞した。「うーん、いい感じ。ポケットと間違えてここに手を入れちゃいそうだけど」腰に手を当てるポージングをすると穴から素肌に直接触れた。
「髪は朝食後に結いますね」メイドは言った。彼女は私の髪をタオルで挟んで乾かしつつ、簡単に後ろで束ねた。
まだ完全には乾かない。「分かった」
私は髪を背中くらいまで伸ばせるだけ伸ばしている。10代の頃はショートカットだった。未婚の女性は髪を長くする風習があり、それに反発したからである。そして結婚して子供を生むと短くする風習があるんだけど、そこで子供を生んでから長髪にして、未婚だから伸ばしているんだけどなんか文句あるとばかりに校内を歩いている。案の定、年寄りが私の髪の長さにケチをつけてくることがよくあった。いい感じに釣れる。
着替えてリビングに行くと座っていたネゾネズユターダ君が私を見た。「うわあ。いい服。かっこいい」
私は上機嫌になって彼の座っているところに擦り寄っていった。彼は本心から言っているのが分かるので本当に居心地がいい。彼の前に座って背中をくっつけた。「いいデザインでしょ?」
「うん」
彼は上着の脇の穴に手を入れて私の胸をつかみ、指で乳首をいじった。反対の手はパンツの腰の穴から入って内股に触れた。「なんだかこのためのデザインみたい」
「たぶん違うと思うけどね」私は笑った。「隠れていて露出は少ないんだけどセクシーっていうのがいい」
彼は私の耳を噛んだ。そして首筋にキスをした。
メイドたちはクローゼットと水浴び場にいて、ダイニングやキッチンには誰もいない。私は寝室からメイドたちが出てきて朝食の準備に入るのを待った。ネゾネズユターダ君といちゃつきながら。
ここでお姉ちゃん問題について説明しようと思う。
私が彼と会ったときはお姉ちゃんで問題なかった。最初の2年間、私は彼の家庭教師のように帝国時代の資料の探し方や読み方を教え、図書館や大学の施設の利用方法も教えた。お姉ちゃんすごーい、お姉ちゃんこれ教えてー、と彼はお姉ちゃんと私を呼びながら色々と話し掛けてきた。
関係が変化して彼も大人になってくると、周囲の私たちを見る目が変わった。特にネゾネズユターダ君が私をお姉ちゃんと呼ぶと一部の人はあからさまにニヤニヤしたり眉を
私は内縁の妻として、“おい”とか“お前”とか呼ばれるのも嫌ではなかったので真剣にそれも考えたのだけどネゾネズユターダ君が無理だった。頑張って呼ばせてみてもお姉ちゃんをお前と呼ぶのは彼にとって心理的ハードルが高かった。いまになって考えるとその呼び方はそういう“プレイ”そのものであったと思う。夫婦プレイという遊びである。
「恥ずかしいけどさー、僕にとってお姉ちゃんは、今でも心のどこかで憧れの綺麗なお姉ちゃんなんだよね。恋人になった今でもさー」とは彼の照れながらの弁明である。
私としては、自分が憧れのお姉ちゃんになるなど
とにかくそんなこんなで、まずは試しで“
そんなこんなでいちゃついていると寝室からメイドが1人だけ出てきた。こちらに目礼するとそのまま階段へと歩いていく。
「待って。メイド服はあとでいいわ」私は言った。「まだ学校に時間はあるから、先に済ませたいことがあるわ。2人もここに呼んでちょうだい。朝食はあとまわしにしましょう」
一瞬戸惑ったが彼女はかしこまりましたと言って寝室に戻った。しばらくして体にタオルを巻いた1人も含めた3人が出てきた。並んでリビングで直立する。
私は立ち上がり、いちゃつきでズレた胸の位置を修正しながら彼女たちの前に立った。壁を押すように両手を突き出して手のひらを3人に見せた。「あなたたちに『肌をすべすべにしてシミとシワを取る魔法』をかけるわ。私の両手を全員
メイドたちは互いの顔を見合わせた。こういうときは言葉通りに行動するものと分かっているので、3人はよく分からないまま私の両手に手を伸ばした。
「掴み方は適当でいいわ。指を握るでも手を掴むでも。離さないように気をつけて」
3人はそうした。私のそれぞれの手に3つずつの手。私の人差し指を赤ん坊のようにぎゅっと握ったり、小指の外側から
ネゾネズユターダ君は黙って見ている。彼もこれを見るのは初めてのはずだ。
「いいわね。唱えるわよ」私が言うと、私の手を握る3人の手に力がこもった。ごくりと1人は唾を飲んだ。「『
成功するとメイドたち3人の手に魔法が発動した。
3人は互いを見ている。変化していないことにどう反応していいか困っているようだ。
「百聞は一見に如かずよ。いい?」私は
された本人以外の、私に手を使われたメイドともう1人がそれを見て「うわあぁ」と感嘆の声を漏らした。
当人は、「え? え?」と困惑しつつ、触れられた自分の首に自分の手で触れた。もちろん自分で自分に触れてもこの魔法は効果がある。「なにこれ!」
私は腰に手を当てて、えっへんと胸を張った。「時間をあげるから、宿直室でお互いの気になるところを撫でてあげなさい。10分もあれば充分なはずよ。気に入ってるシワがあればそのままでいいからね」
一瞬で状況を理解した3人はばたばたとすごい勢いでダイニングの方に駆けていった。宿直室はダイニングの隣のキッチンのさらに奥にある。きゃあきゃあと歓声を上げていた。
「10分じゃなくていいわ。気になるところはやっちゃいなさい」
はーいという黄色い返事が聞こえた。うちのメイドからあんな声が出るとは。
続けてバタバタと激しい物音が聞こえた。うちのメイドにしては珍しく行儀が悪い。
全身に触れるだけなら10分で足りるけど、複雑なメイド服を脱いだり着たりすることを考えると10分は無茶だったな。一旦は全裸にならないといけないし。
ほどいてほどいて、とか、待って待って、とか、かしましい声が絶え間なく聞こえてくる。
私はドヤ顔を浮かべながらネゾネズユターダ君の方を向いた。「この魔法は何回か使っているけど、女の子のこのリアクションを見たくて使ってるところあるわ」近づいていって横に腰を下ろす。「こっちまで笑顔になっちゃう」
「あの魔法はみんなには教えてないよね?」
「あれはオリジナルじゃないのよ。帝国時代の女神への祈りになっていて、中身がよく分かってないの。魔導書を読めば誰にでも使えるから、学んだ人が自己責任で唱えるべき魔法よ」
彼はふーんと相槌を打った。キッチンの奥の宿直室からはメイドたちの騒々しい声が続いている。すごいすごいとはしゃいでいた。
私はネゾネズユターダ君が何か言いかけてやめたのに気づいた。「当ててあげる。『うちのメイドはみんな美人だからそんな魔法は不要なのに』って言おうとしてやめたでしょう?」
「当たり」彼は私の体に腕を回した。「彼女たちを君の前で
「もっと綺麗になって出てくるわよ」
「僕は上のメイド服を取ってくるよ」ネゾネズユターダ君はそう言って私から手を離すと3階へと上がっていった。
階段を上がる足音を聞いていると、宿直室の喧騒が外に洩れてきた。私もソファから身を起こした。ダイニングに入ると、そこでキッチンからやってきた3人のメイドたちとはち合った。
3人とも笑顔で溢れている。顔が輝いているが、すべすべの肌のせいだけではないだろう。
「終わった?」
3人は声を揃えて言った。「はい!」
「それじゃあ魔法を解くから3人とも両手を出して」3人はかけたときと同じように私の手を掴もうとした。「いや、解除は1人ずつやるからそれぞれ前にこう」私は両手を突き出すポーズをしてみせた。
3人が半円になり私に向かってそれぞれ両手を突き出した。私は順番にその手を掴み魔法を解除していった。この魔法は魔力消費が意外に激しい。3人同時で、ちょっと時間もかかったので私の体にも負荷がかかった。だけどメイドたちの笑顔を見ると報われる気がした。
私は1人のメイドの前髪の下に手をすべりこませて持ち上げて額を見た。「顔にも全部やったのね」
「はい! もう全身すべすべです!」
ネゾネズユターダ君が3階の寝室からメイド服を抱えてダイニングにやってきた。「持ってきたよ」
「ありがとうございます」タオルを巻いたメイドが受け取った。
「すごい。本当にすべすべだ」彼は素直に感心した。
分かりやすいのはタオルを巻いて肩や足が見えている彼女だけど、他の2人も全身くまなく
「お嬢様、これは、これは、まさに」1人が感無量といった様子で絶句する。昨日の『生理痛軽減』に感激していた女生徒を私は思い出した。「これはもう奇跡です! お嬢様は何かの神の生まれ変わりですわ!」
「大袈裟な」私は昨日と同じようなリアクションをしてしまった。「それじゃあ、朝食の用意をお願いね」
「はい!」
3人ともキッチンへと向かった。1人はそのまま宿直室で着替えるのだろう。
スキップでもしそうなメイドたちを見ていたらネゾネズユターダ君が頬にキスをしてきた。「神さまだ」
「ちょっと私、調子に乗ってるかな?」
「いいんじゃない? 彼女たちの様子を見たら、調子に乗る資格は充分にあると思うよ」
私は彼の言葉にニヤリとした。キスを返す。「ありがとう」
キッチンから朝食が運ばれる。私やネゾネズユターダ君がダイニングにいても邪魔なだけなのでリビングに退散した。彼はこの魔法の詳細について質問してきた。私はどの魔導書に書いてあるかを説明して、これまでの使用実績について語って聞かせた。
「あの、お嬢様」ダイニングからメイドが1人、顔を出した。
「なに?」
「明日までに毛の処理はしておいた方がよいでしょうか?」
「ああ、いや、私が順番に魔法でやってあげるわよ。そのままでいいわ」
「分かりました。ありがとうございます」メイドはダイニングに下がった。顔を出してから引っこめるまで笑顔で口角が上がったままだった。
ネゾネズユターダ君が、「本当に綺麗になってるね。心配になる。危ない目に遭ったりしないかな?」と言った。「うちのメイドだと分かっているなら大丈夫かな?」
「大丈夫」私は彼に体を預けた。「うちのメイドには『単純な欲望の対象にならない魔法』をかけてるから」
「それは初耳。どういう魔法?」
「説明が難しいけど、こいつならいけそうって初対面の人間に思わせない魔法ね」
「初対面ってことは、そうじゃない人には効かないってこと?」
「デート4回目くらいから効果はなくなるわよ。妥当だと思わない? もちろん一緒に住んでるあなたにももう効果は無いわ」
間があって、彼が色々思い出そうとしていた。「……僕は彼女たちをそういう風に見たことがなかったけど」ネゾネズユターダ君は私に腕を回した。その先のセリフはさすがに甘すぎると思ったのか口にしなかった。私もそのハグで勘弁してあげた。「彼女たちが結婚できなかったのってそのせいもあるんじゃないの?」
私はそこには遠慮しないので断言する。「私のメイドは私のものよ。奪うというならそのくらいの試練は当然だわ」
彼は何も言わなかった。そのかわりに私を抱きしめる腕に力をこめた。
そのまましばらく
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