第20話 自分の幸せとみんなの幸せ

 その夜の彼は元気で、続けて2回戦したあと休憩を挟んで3回戦まで進んだ。気がつくと私は仰向けになり手足を広げて大の字になって、下から彼に突かれていた。終わって一息ついて彼を見た。私はここから4回戦に挑戦するのもありだった。しかし彼はもう終わりの様子だったので私は股間をシーツで拭いた。そこで、確かにこれからメイドのところに行くのは悪いなと思った。拭き終えるとベッドの上にボサっと横になった。

「やっぱり明日の朝にする」

「うん」彼は私の髪を撫でた。

 彼が頑張った理由が、嫉妬なのか、メイドに気を遣って私を止めるためだったのか、分からなかった。

 どうでもよかった。夜はいつもすぐに眠る。もう何年も眠れない夜とは無縁だった。

 すぐにでも寝てしまいそうだったが私は寝る前の雑談で話を振った。「“お姉ちゃん”をやめて“きみ”にするって言ってたけど……」

「うーん……」彼も半分寝ていた。

 気がつくと朝だった。

 私はがばっとベッドから身を起こした。

 ネゾネズユターダ君はまだ寝ている。家の中では物音が聞こえ、とっくに朝の準備をメイドたちがしているのが分かった。

 全裸のままベッドから下りると寝室を出てキッチンへと向かった。朝の空気が肌に気持ちいい。

 ダイニングで朝食の準備をしているメイドが私を見た。変なリアクションをせずに、「おはようございます」と言った。

「3人のうちでいま暇なのは誰?」聞かれた方は戸惑っていた。3人がそれぞれ仕事をしているのでそんなことを聞かれても困るのだろう。「いいわ、あなたで」近づくと彼女の手を取った。「1階の宿直室と3階の寝室、どっちがいい?」

 起きてきたばかりの私にそんなことを言われても意味が分かるはずがなかったが、それでも彼女はザラッラ゠エピドリョマスのメイドだった。ちょっとの間のあとで理解して、「3階の寝室で」と言った。

「よし」私は彼女の手を引いて階段に向かった。

 たったったと2階に上がり、さらに3階に上がった。3階は久し振りだった。寝室のドアを開ける。ベッドが2つ並んでいる。普段使われる部屋ではないが、当然のように整えられていた。

 私は彼女を引いて寝室に入れた。彼女の方を向くと、「よし、やるわよ」と言って、着ているエプロンを外そうとした。

 無理だった。メイド服は複雑で私では脱がせられなかった。

「あー、ちょっと、2人共、3階に来てー!」

 うちのメイドは優秀なので、こういうときでもバタバタという音は立てない。ほとんど無音で朝支度をしていた2人が3階に上がってきた。私に連れてこられたメイドの方はうつむいて動かないでいた。2人が寝室に入ってきた。

「この子の服を脱がしてちょうだい」

「かしこまりました」

 私は裸で立ったまま、メイドが脱がされるのを見ていた。エプロン、キャップ、そしてドレス。ストッキングとブラとパンツ。途中から本人も自分で脱ぐのに協力しようとしたが、こういうとき本人が動くと邪魔である。私はじっとしてなさいと彼女に命じた。彼女ははいと返事をして脱がされるがままになった。2人のメイドがテキパキと彼女を全裸にした。

 全部が済むと2人のメイドに礼を言って下がらせた。2人は寝室から出ていき、ドアを閉めていった。

「あー、私、毛がない方が好きなんだけど、『永久脱毛』していい?」

「あ、はい」

 彼女は恥ずかしがって身をよじり、手で胸と股間を隠そうとしていた。

「足は軽く開いて、手は横に」私の指示に対して彼女は素直だった。私は自分の右手に『永久脱毛』の魔法をかけると、彼女のへその下に手を当てた。そこから下に向かって右手を当てていく。私のこのときのテンションは完全に事務的な前準備の心理で、性的な気持ちがまったくなかった。彼女にも私の平常心が伝わったようで、恥じらいを消してじっとしていた。私が手を当てたところの毛が産毛も含めて抜けて毛根を付けたままパラパラと床に落ちていった。鼠蹊部そけいぶから股間にかけては手のひらではなく、人差し指と中指で凹凸に合わせて撫でていく。毛は次々に落ちていった。これまでにも何人かにやったことがあるけど、やっているうちに楽しくなってくる。触れたところからすべすべの肌が現れ、触れてないところと境界線がはっきりする。私は指で塗り薬を広げるように下へと境界線を移動させていった。「お尻の方もやるからベッドで四つん這いになって尻を上げて」

 彼女はあまり躊躇しなかった。ベッドに向かって進むと、手を付き、膝を上げ、四つん這いのままベッドの上を前に進んだ。ふくらはぎより先をベッドの外に出しているのは落ちた毛をシーツに落とさないための配慮だろう。

 私は彼女の後ろに回って、毛の残った部分に触れていった。彼女は両手を付いて下を向いたままで、振り返ったりはしなかった。

 ま、下から自分の腹越しに私の様子は見えるんだけど。

 この『永久脱毛』の魔法も私のオリジナルだけど、人には教えていない。解除を忘れて頭を掻いたりするとトラブルになりそうだからだ。それでも人に使うのは結構楽しい。これだけを仕事にしてもいいくらいだ。

 うちのメイドは朝から下半身も綺麗にしている。見られていい感じだ。お尻の最後まで指で触れてすべての毛を落とした。デリケートな箇所ではさすがに彼女も我慢できずにちょっと反応してしまったけど、協力的だった。全部落として、肌に貼り付いた数本の毛を息を拭いて飛ばした。ふっ。彼女がびくっとする。我ながら変態っぽいな。貴族がメイドの尻の割れ目に沿って人差し指で撫でるとか、なかなかできない体験である。

「腋毛も落としていい?」

 私が聞くと四つん這いのまま彼女はこくりとうなずいた。

 上に毛が落ちるのを避けるためベッドから下ろし、両手を上げた彼女の脇の下に右手を当てた。彼女はくすぐったがって身をよじった。「変なところ触ると危ないからなるべく我慢して」私は彼女の腋にも手を当てて毛を全部落とし、『永久脱毛』の魔法を解除した。両手をり合わせた。この魔法を解除したあとはついこの動作をやってしまう。

「あ、ちょっともう一度だけ四つん這いになってもらっていい?」私が言うと彼女は素直に従った。これは現状を本人には教えなかったが、彼女の体に触れると追加で『陰部を回復する魔法』を唱えた。性器と肛門がピンクのプルプルに回復した。「よし。完璧!」私はガバっと彼女に襲いかかった。

 詳細は省略する。慣れてない彼女はちょっと受け身すぎた。悪くはなかったけど今後の成長に期待という感じ。どうしても私に遠慮してしまうのは分かる。ベッドでそういうのは忘れて欲しかった。今回はほぼ初回だったけど、そのうちお互いに楽しめるようになると思う。この日は私が一方的に味わった形で終わった。

 くたくたになった彼女を見下ろして私はベッドの横に立った。裸のまま手を引く。「ほら、このあとは水浴びしに行くわよ」

「ちょっと待ってください。何か羽織るものを……」

「そのままでいいわよ。1階に行くだけなんだから」

 私は来たときと同じように彼女の手を掴むと、寝室から出て階段を下りた。手を離して自由に歩かせようと思った。しかし引かないと彼女は遅れてどこかに隠れようとする。結果として私はぐいぐいと1階まで引っぱることになった。リビングには着替え終えたネゾネズユターダ君が所在なくぼーっとしていた。裸で下りてくる私とメイドをちらりと見て、見ただけで、それ以上のリアクションはなかった。私とメイドは寝室に入り、そこから水浴び場に入った。

 ひょっとしたら彼女はここを使うのは初めてかもしれない。掃除はしているだろうけど。

「ちょっと冷たいけどね」私は手桶に水を汲んで、私より低い彼女の頭にかけた。当然しぶきが私にもかかった。「ひゃー、冷たい!」私は笑いながら、水をかぶって小さくなっている彼女を抱きしめた。肌と肌の間が熱っぽくなった。水を汲み、私の頭から2人の間に水が落ちるように被った。くっついているところの熱と、流れる水の冷たさに感覚がおかしくなった。私はやっぱり冷たそうにしている彼女を見て、もう一度くっつきながら水を被った。「ははは。気持ちいいでしょう?」

 それまで彼女は腕を自分の胸の前に折り畳んで小さくなっていた。そこから急に手を広げ、私の背中に手を回し抱きついてきた。私の胸に顔をうずめる。そのまま密着した状態で、「冷たくてあったかいです」と言った。

「そうでしょう?」ざばーっと私はまた水をかけた。それから彼女の背中を私の手のひらで磨いて汗と汚れを落としていった。やがて彼女は私に抱きついていた手をゆるめたので、離れて、水をかけつつ手で表面の汗を切っていった。彼女もおそるおそる私の体の表面の水を手で落とした。

 タオルは2枚、籠に入っていた。気が利くメイドたちだ。

 私はそれを取って彼女にかけてやった。拭いてあげようとするが全然うまくできない。「おーい、体を拭くの手伝って!」私は言った。

 メイド2人が水浴び場に入ってきた。2人は私の体を拭き、裸の彼女は自分で自分の体を拭いた。

「そっか。自分でできるんだな」と私は感心してしまった。

 このあとクローゼットでメイドに服を着せてもらうのがいつもの流れだ。そうすると朝の準備をする人間が足りない。私は体を拭いてもらいながら、クローゼットの方を見た。今日の服の候補が外に出ている。「メイドが足りないな。あと2人くらい増やそう」私は言った。「募集しておいて」

「かしこまりました」私を拭いていたメイドが返事をした。

 それから3人が微妙な表情で互いに目配せをした。

「え? 何よ? 足りないでしょ? 多い方が仕事は楽でしょ?」

「ええ、そうですね。……その、採用の2人もお嬢様はお相手されるんですか?」

「それは別に、そのメイドの気持ち次第ね。抱いて欲しいっていうならもちろん抱くわよ。その気がないなら無理強いはしないわ」まだちょっと髪は濡れていたが私は水をしたたらせながらクローゼットへ移動した。「あと、明日は2人のうちどちらかとやるから、2人で相談して決めておいてちょうだい」

 メイドたちは嬉しそうな諦めたような、変な顔でうふふと笑い合うと、1人は私の着替えを手伝いに着いてきた。

 水浴び場に残った2人の会話が聞こえてきた。「お嬢様が2人増やせとおっしゃるなら増やしましょう。お嬢様を独り占めしようというのが間違いなのですわ」「お嬢様はそういう気持ちを全然分かってくれませんね」

「聞こえてるわよ」私はクローゼットから声をかけた。「あなたたちの気持ちは分かるわ。あと2人だけ。ただ足りないから増やすっていう話なんだから。これからも私の世話はあなたたちにお願いするわ。安心してちょうだい」分かってないと言われるのは心外だ。私はちゃんと分かっている。「ちゃんと分かってるから」

「はい。ありがとうございます」メイドたちの返事は明るかった。

 ちゃんと伝わったかなー。

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