第3話 いつもの夜とちょっと違う朝

 4年前に関係を持ってから、最初は遠慮していたけど、そのうち毎日夕食後にセックスをするのが習慣になってしまった。今では動物のように食事が終わると体が次の準備を始めてしまう。食卓から立ち上がったときのネゾネズユターダ君の股間はすでに膨らんでいた。

 私たちはお互いの体をさわりながら寝室へと移動した。


 10代の頃からセックスは好きだったけど、子供を2人生んだあとはもっと好きになった。感度がおかしくなった。出産で身体に変化があるというのは知っていた。自分にこんな変化があるとは予想していなかった。

 1人目の出産までも充分に気持ちよかった。しかし2人目の出産を終えてセックスすると“まあまあ”どころではなくなった。これを知るの今までのセックスはまだ快楽ではなかったと思う。今ではセックスが始まると意識が飛んで時間も曖昧になった。最中はどこか別の世界にいて、終わると幽体離脱からベッドに戻ってくるような感じだった。彼にその間の私の状態を聞くと、夢中になって汗だくで普段とは違う声で叫んでいるそうである。目の焦点も合っていないらしい。実際、私も寝室の天井を見た記憶はないから、どこか別の世界を見ているんだと思う。

 彼の肌が自分の肌に触れて、彼が私の中に入ってくると、私自身は快楽に飲み込まれて何も考えられなくなってしまう。そこから意識が戻るまでの時間が1分なのか15分なのかも分からない。2時間かもしれない。

 一方で、毎晩するのがしんどくなってしまったというのも事実である。そんな幻覚魔法や麻薬や酩酊のようなトリップを毎日毎晩するともたない気がしてきた。これまでの4年間には毎晩以上に猿のようにやりまくっていた時期もあったけど、これからも同じペースで続けられるとは思えない。少しペースを変えていく必要があると感じている。嘘ではない。

 繰り返すが嘘ではない。

 寝室に移動しながらお互いの体をまさぐっているとそういうことは忘れてしまう。ドアを開けるとお互いすぐに裸になる。そうじゃないと服が汚れる。服が床に落ちた頃には私の体も彼の体も熱くなっていて汗が吹き出している。彼の股間は固くなっているし、私も受け入れ態勢は万全だ。ガバっと肌と肌をぶつけた頃にはむさぼることしか考えていない。私の口からは変な声が漏れる。お腹に押しつけられた彼を感じる。あとは、昨日までと同じように前後不覚になって私は彼の腰に足を回して抱きついているし、次に気がつくとすべて終わって深呼吸をしている。彼は果てて私の横に転がっている。

 あー、幸せだけどしんどい。しんどいけど幸せ。これじゃすぐ3人目もできちゃうなー。なんてことを考えながら私は彼の胸や腰や股間をさわさわしながら寝る。彼はくすぐったそうに、けど幸せそうに私の体を触り返してくる。ふふふ。あはは。前だったらよーし2回戦となったところだけど、最近は1回で終わる。それはやっぱり出産後の変化かもしれない。


 翌朝、起きたときはいつものように汗で体がべとべとしていた。朝は涼しいので不快ではない。そもそも慣れてしまった。このあとの水浴びも習慣なので、この不快感もその流れの一部のようなものだ。

 横では彼がまだ眠っている。目覚めが近い。先に彼の股間が起きていた。毛は生えていない。毛がない頃からずっとしていた。お互いつるつるの方が気持ちがいいので、私はそのまま彼の毛を処分して状態を維持していた。私は彼の起床直前で大きくなったそれを触りながら寝顔をじっと見ていた。

 最近では大人っぽくなってきて、昔の面影は消えつつあった。喉仏も出てきたし、顎も大きくなってきた。一方でニキビや体毛は無いままだ。肌は少年の頃のツヤを保っている。これは私が維持させている部分もある。手や足はゴツくなってきた。これは数ヶ月単位で、気がついたらいつのまにかそうなっていた変化だ。肉体労働しているわけではないのでそれでも貴族っぽいしなやかな手だが、子供の手とは随分違ってきている。髪は第二次性徴を迎えて巻きぐせが出てきていた。色も茶色に変化している。巻きぐせのために普段の前髪は眉毛のはるか上だが引っぱって伸ばすと眉毛の下に届くくらいの長さがあった。瞳は鳶色。唇は大きくて気持ちいい。

 彼が起きた。ねぼけたような声を出す。

 私は彼から手を離した。「おはよう」

 彼の寝起きはいい。おはようと返事をしたときには体を起こしている。元気な股間を意にかいさず、ベッドを回って私の側まで来た。私の手と腰をとってぐっと立たせた。そして軽く唇にキスをすると、私の脇の下に手を回して寝室の隣の水浴び場までエスコートした。

 水浴び場は室内だが胸の高さまである大きな水瓶と石造りの床が備えてあり、手桶ておけんだ水を頭からかぶれるようになっている。この時間には乾いたタオルもかごに準備されていた。冬や私が妊娠しているときは水瓶にお湯が用意されているときもある。しかし今は水だ。ちょっと冷たい水をざーっと浴びる方が気持ちがいい。

 彼がまず自分の頭に水を浴びせ、それから手桶で水瓶から水を汲むと私の頭に最初の一杯をざーっとかけた。

「ひゃー」冷たい。私はいつも震えてしまう。そして彼の体に抱きつく。

 身長もちょっと前に越されてしまった。とはいえ、まだその差は数センチだ。彼はこれからぐんぐん伸びるだろう。しかしまだ私に並んでいる。

 冷たい水を浴びたあたたかい彼の体にくっつくとまた欲情してしまう。彼の股間も元気なままだ。ちょっと前ならこのまま朝の行為を始めるのが習慣だったのだけど、2人目の出産後は毎朝というわけではない。私と彼の体調次第といったところ。今日は私に昨日の疲れが残っていたし、彼の彼も水を浴びておとなしくなってきたので、しない流れになった。

 もう何回か水を浴びて全身をさっぱりさせると、彼がタオルを手に取り、背後から私の頭に被せた。そして髪の水を吸わせ、肩、腕、背中、腰と私の体を拭いていく。私は両手を左右に広げてされるがままになっている。腰まで拭くとタオルを広げて今度は私の体の前も拭いていく。胸から脇の下、腰から下半身、足まで拭いていく。

「よし」彼は言った。

 私は左右に広げた手をぱたんと落とした。

 彼は使用後のタオルを水浴び場のかごに戻し、2枚目の自分のタオルを取って拭き始めた。私はその間に寝室を通ってクローゼットに移動した。

 メイドが今日の服の候補を3つ並べている。私は真ん中の、緑に白のフリルの付いて形はかわいいのに胸元の開いている上着と、両側に深いスリットが入って足がセクシーに出る淡いピンクに金の刺繍の入ったタイトなロングスカートを選んだ。下には膝上の黒のタイツも合わせた。2人のメイドが着せてくれた。着たあとで鏡の前でチェックする。足を頭の高さまで上げるとスリットから足がこぼれて最高にエロい。股間が危ない。胸元もちょっとかがんだり真横から覗き込むと乳首が見えるあやうさだ。頬が緩んでニヤニヤしてしまう。

「なんかまた今日はどうしたの?」

 すでに制服に着替え終えたネゾネズユターダ君がクローゼットにやってきた。

「ちょっと周りを悩殺したい気分になったの」私は笑顔を止められずに、足を地面に下ろすと彼の前でくるっと回った。長いスカートの裾が広がる。

「かわいいよ」彼は言った。

 私はメイドに上機嫌で「朝食にするわ」と伝えた。彼女たちは頭を下げ退室した。


 朝食はシリアルに卵だった。果実を絞ったジュースも添えられていた。私はそれをパクついてから、ネゾネズユターダ君に「ちょっと朝の通用門を見に行くんだけど、一緒にどう?」と言った。

「朝の通用門?」彼は私の目的を聞かずに、「いいよ」と答えた。学校の授業までには時間があった。

 制服の彼と並んで、スリットから両足を交互に披露しながら歩いた。現在時刻は日の出から1時間といったところ。街に朝市が立つ頃だ。

 レキシカシ魔法学校は増築に増築を重ねてダンジョンのようになっている。中央とか本棟にあたる建物が何かすらよく分かっていない。しかし建物として一番目立つのは正門から正面に立っている中央塔で間違いない。じゃあそこが本棟なのかというと、授業も研究もそこで盛んなわけではないし、一番偉い人がそこにいるわけでもないので、そういうわけでもない。警備主任がいるので軍事的な司令塔と監視塔の役割になっている。そもそも中央塔という名前なのに場所が中央ではない。

 話が脱線してしまった。

 私の住んでいる家から石畳の広場を通って中央塔の裏を回り、500メートルも歩くと事務棟と通用門がある。ここには朝市と同様の人混みが毎朝発生する。

 魔法学校は珍しいものや怪しいものなどを収集している。その買取の持ち込みが行われるのである。

 薬草とか鉱石とか、正体のはっきりしたものはちゃんとした仕入れがあり適正価格で取引されている。そういうのは専門のスタッフが専門の窓口から粛々と仕入れている。

 朝にここに持ち込まれるのは正体が分からないゴミである。

 持ち込む方も値がつかずにお持ち帰りになることが大半だと承知している。その上で、ワンチャン、一攫千金を狙って、なんだかよく分からないものを毎朝売り込みにやって来る。

 それが魔法学校の朝の通用門である。

 そこまでの10分ほどの朝のウォーキングを彼とこなした。

「今日は何があるの?」彼は私の足をちらちら見ながら言った。

 太股から足の付け根に朝の冷たい風が当たる。この感覚は嫌いじゃない。「妊娠した犬猫の募集は正規でもやるけどさ。朝のうちに噂だけでも流した方がいいかと思って」

「なるほど」

 私は彼の腕を取った。「それに、ああいう無意味なものって大好き」

 彼は笑った。私が基本的に無駄なこと、役に立たないことが好きだということを彼は分かっている。それを知っているからこその笑顔だった。

 朝の通用門は今日に限らず私はよく通っていた。

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