忘れること
ヤマシタ アキヒロ
第1話
忘れること
若い頃は忘れものが多かった
近ごろはもの忘れが多くなった
人の名前を忘れる
道具の名前を忘れる
本のタイトルを忘れる
喋ったことを忘れて
同じ話をくり返す
忘れることは
できれば避けたい
痛恨事である
と同時に
忘れることは
歓迎すべき
吉祥事でもある
よく言われるが
われわれは忘れることによって
心の新陳代謝を図っているのである
年を重ねるにつれ
人間は抱える荷物が多くなる
それらを一々背負っていては
とても身が持たない
余計な荷物は
さっさと下ろすにかぎる
いやなことを忘れる
失敗を忘れる
悲しいことを忘れる
心の傷を忘れる
忘れることは
われわれが天から与えられた
恩恵ですらある
時に
大きすぎる荷物を
背負わされたとき
われわれを助けるのは
愛でもなく 思いやりでもなく
「忘れ去ること」なのである
忘却とは忘れ去ることなり
この
われわれは残りの人生
大過なく
切り抜けて行こうではないか
(了)
忘れること ヤマシタ アキヒロ @09063499480
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます