第5話 村長からの依頼

「実は──」


 最初はためらいがちだった村長だったが、一度話し始めると滔々と訴えるように話し始める。

 よほど困りきっていたようだった。


 それによると、どうやらかつて魔石を採掘していた廃坑山。

 そこに見たこともないモンスターが住み着いてしまい困っているとのことだった。


 ──廃坑山は火と地の属性が強くて、ちょうどピチュピチュの育成にいこうと思ってたのよね。


 私はちらっと、隣に立つレーゼを見る。ピチュピチュも名付ける時に、バウバウ=バウと同じ様に名付けバグで進化先の解放と成長特化をさせていた。

 成長特化させたのは、体力と防御。そして解放した進化先は神鳥ガルダ。


 ピチュピチュの育成には、火の属性も帯びた廃坑山が最適だったのだ。


 ──ただ行きたいってレーゼに言っても、危ないからと禁止されちゃうよね。けど、民からの陳情に対応するためなら、レーゼもダメとは言えないはず。


 私は穏やかな笑みを浮かべたまま村長に答える。


「お話はわかりました。とてもお困りの様子、私もハーゼンクロイツ家の者として看破はできません」

「ではっ!」

「エルファネット様っ」「レーゼ、控えなさい」「……はい」


 私はレーゼに釘を指すと村長に向き直る。


「とても有意義なお話しをありがとうございます、村長殿」

「はっ、何よりでございます──」


 来たときよりも深く頭を下げてから帰っていく村長。レーゼも、言葉を飲み込み表情を消している。


 ──それにしても廃坑山にいる、見たこともないモンスターの情報を村長から貰うって……あれ、何か記憶に引っ掛かるわね……もしかして……


 私は何か引っ掛かるなと記憶を探る。


 ──あ、これ。メインシナリオだわ。しかも主人公の……どういうこと? え、まさかの主人公ルート?


 考え込む私の肩の上でピチュピチュがチュンチュンと鳴いていた。


 ◇◆


「慎重にいくわよ、みんなー」


 廃坑の入り口。

 私のかけ声に、バウバウチュンチュンと元気よくお返事してくれるテイムモンスターたち。


「お嬢様、本当に無理はなさらずですよ。お約束ですからね」


 心配そうに廃坑にまで私についてきてくれたレーゼが告げる。


「はーい。レーゼも、こんなところまでありがとうね」


 短弓を構え、ショートソードを佩き、軽鎧をまとった凛々しい装いのレーゼに私は感謝を告げる。

 レーゼは伯爵家の使用人の嗜みとして、一通りの武芸を修めていた。


 ──もし、本当にこれが主人公用のメインストーリーなら、この先にいるのが私を殺すモンスターってことよね~


 廃坑に踏む入りながら、そんなことを考えていると、私の横にいたレーゼが前に向かって鋭く踏み出す。


「敵ですっ!」


 そのまま腰に佩いたショートソードを抜き放ち、横に振るうレーゼ。

 金属同士が打ち合わされる甲高い音が洞窟内に響き渡る。


「ソードスケルトン? じゃあ、やっぱりもう──」


 レーゼが剣を打ち合っている相手は、剣を構えたガイコツのモンスター、ソードスケルトンだった。幾度かの甲高い剣戟の音の後に、レーゼのショートソードがスケルトンの胸部にある核を貫く。

 カタカタと音を立てて、スケルトンの骨がバラバラに崩れ落ちていく。


「おおー。レーゼ、お見事です」

「恐縮です、お嬢様。既にモンスターが徘徊している様子。ここからは私が先頭に」

「わかりました。頼りにしていますね、レーゼ」

「はっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る