第4話 二匹目のテイムモンスター
バウバウ=バウの落下パフォーマンスのお陰でレーゼの気がそれたのか、留守番をしているはずなのに木登りしていたことを、それほど怒られずにすんだ。
──レーゼって、こういうちょっと抜けてるところが可愛いのよね。
私が、にこにこしながらレーゼの料理をしている姿を見ていると、はっとした様子を見せるレーゼ。
このレーゼの様子だと何か忘れていたことを思い出したのだろう。
そのわかりやすさに、私が一層にこにこしながら見ていると改まってレーゼが話しかけてくる。
「エルファネットお嬢様」
「なあに?」
「村に行ったときですが、村長より明日ご挨拶にお伺いしたいと御伝言を預かりました」
「あーそうね。よろしいのではなくて」
「ありがとうございます。それでは準備を進めます」
言われてみれば、これでも私は領主たる伯爵家の娘だった。実質は、追放の身の上だが。
なんにしろ、そんな相手が村の近くに来ているのだ。当然、村の長たる人物なら、様子見に来たいだろう。
──向こうとしても出来るだけ変な因縁とかつけられたら面倒だろうしねー。適切な距離を置いた、穏やかな関係を築けるようにしなきゃ、よね。村との関係が、私のテイムモンスター育成計画の邪魔にならないためにも。
私はぐっと拳を握りしめ、爛々と瞳を輝やかせながら、強く決意する。
そんな私の様子を嬉しそうに見ているバウバウ=バウと不安そうに見ているレーゼだった。
◆◇
「──エルファネット=リィ=ハーゼンクロイツ様。その、この度は突然の訪問をお許し頂きありがとうございます。──こちら、この村の特産品となります」
「ありがとうございます」
バウバウ=バウに名をつけ訓練を始めた日の翌日の午後。レーゼの話どおり、村長が訪れていた。ただ、なんだか視線が定まらずに、その言葉も途切れがちだった。
──まあ、その原因は私にあるんだけどね。
事の発端。それは、その日の午前中だった。
再び私たちはバウバウ=バウの木登り訓練をしていた。しかし今回はレーゼの監視の目が厳しく、私が一緒に木登りすることは禁止されてしまったのだ。
今日は訓練ダメかーと、諦めかけたその時だった。
バウバウ=バウが自信満々に一声鳴くと、尻尾をフリフリ軽快に自力で木を駆け登って行ったのだ。
どうやら昨日習得したつむじ風を使いこなして木を登ったようだった。
すぐにてっぺんの枝につくと、誇らしげに一声鳴くバウバウ=バウ。
その軽快な姿に、私だけでなくレーゼまで思わず拍手してしまったほどだった。
そのまま私の教えた通りに木の枝の上で大人しくしはじめるバウバウ=バウ。
偉い偉いとそんなバウバウ=バウを褒めあげる私。
レーゼはものすごく不可解そうな顔をして、そんな私たちを見ていたが、しっかり教育されているレーゼは私が危ないことをしない限りは一切邪魔をしないので、ただただ見ているだけだった。
そうやって、バウバウ=バウがガンガン風属性を上げている時に、実はもう一つ、イベントがあったのだ。
そのイベントの結果が、今村長に相対している私の肩に乗っている、この子だった。
そう、なんと森でもモンスターのテイムに成功したのだ。
二体目のテイムモンスター。その名も、ポイズンスパローの、ピチュピチュだ。
見た目は毒々しい赤と黒のスズメだ。そのピチュピチュが村長の向かいに座った私の両肩を、さっきから行ったり来たりしていた。
私がテイマーだという事はどうやら村長にも伝わっているようだった。しかし、それでもこれだけ間近にモンスターがいることで、落ち着かないのだろう。
そのせいで村長の視線はピチュピチュを追ってしまって定まらず、ピチュピチュの仕草の度に、言葉も途切れてしまうようだった。
そんな村長と私が時候の挨拶を交わしたあとのこと。
一瞬、迷った様子を見せる村長。
「どうかされましたか」
「──その、こんなことをハーゼンクロイツ様にお話ししてもよろしいのかわからないのですが、どうにも困ったことがございまして……」
「どういったことでしょう? お聞かせ下しい」
私はにっこり微笑んで話を促す。形ばかりではあるが一応、私もまだこの地の領主の血族であることに間違いはないのだ。
この地に住まう民からの陳情には耳を傾ける義務があった。
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