第14話 討伐隊の結成

 緊急対策支援部の不知火ソウカと如月シズクは、神委学校高等部B棟2階にて神委キクと対面していた。




「よくもこの私を待たせたわね、不知火。それと──如月シズク」




 神委キクは由緒正しい神職の家系──神委家の三女である。


 数十年前、神委神社の鳥居に世界で初めてダンジョンが生成され、人類の魔素への適合に際して、当時の神委家当主によって神委学校は創設された。


 現在の彼らは、世界初のダンジョン──未踏破Sランクダンジョン『英雄の霊祭』の入り口を守護する一族として知られている。


 その三女である神委キクは、事故で下半身が不随になり"車椅子"に座っている。染めた金髪をツーサイドアップにし、桃色の瞳は神委家の特徴である。


 彼女は格上である如月シズクを敵視し、睨み付けていた。




「キク、何だか久しぶりだね。元気そうで良かった」


「何それ嫌味? 如月シズク」


「違うけど、嫌味に聴こえたかしら……?」


「アンタはいつだってアタシを見下してる癖に、よく言うわ!! 言っておくけど、アタシはアンタよりも強いから!!」


「見下してないってば……でもそれ。聞き捨てならないかも。今度やり合ってみよっか。勿論、1対1でね……?」





 如月シズクは神委キクを睨み返した後、車椅子を押す"男子生徒"に眼を向けた。神委キクの従者として仕えて約9年──彼は神委家の次男である神委ナラクだ。妹のキクの為に2度留年し、今年20歳で高校2年生である。


 因みに、金髪で桃色眼のイケメンである。




「如月シズク様。ご活躍はいつも拝見しております。もうご就職先はお決めになりましたか?」


「あら。有難う、ナラク君。それが未だでね。今度、相談に乗ってくれないかしら。良ければ2人きりで」


「はい。お望みとあらば──」


「ちょっとナラク!? アタシの許可なく喋んなよ!! こんな泥棒猫なんかと……っ!!」


「別に私はキクのお気に入りを取るつもりはないよ。あ、それと模擬戦の話だけど、どうする? やる?」


「このっ、白々しく言いやがって──」




 不知火ソウカは彼女達の険悪っぷりを知っている為、一先ず口を出さない。というより、不知火ソウカはどちらかと言うと、楽しんでいる口である。


 現在地が、教室の真ん前の廊下であることを加味し、彼女は「そろそろかな」と腕時計を眺める。すると、教室から教師が顔を出し、如月シズクと神委キクに注意するのであった。




「さて。シズクちゃんは私の車でぇ……キクちゃんとナラク君はどうするぅ? 全然乗れるけどぉ」


「要らないわよ!! ナラク、アンタが出しなさい!!」


「承知致しました。お嬢様」


「そっか、残念。じゃあ、現地集合ってことで。魔族と鉢合わせたら、各自の判断で戦っていいし。全ての責任は私が取るからねぇ」


「ふんっだ。アンタ達なんか必要ないかもね」



 ◆ ◆ ◆



 神委学校を出た不知火ソウカと如月シズクは、大きなワゴン車で目的地──Cランクダンジョン『恐れ渓谷』に到着した。


 そこは赤鬼の死骸が清掃されたばかりで、生々しい血痕が地面に残されている。また、派手に破壊されたダンジョンの入り口である廃屋は倒壊してしまっていた。




「はいはい、ご苦労さん。緊急対策支援部でぇす。目撃情報は集めてくれたかなぁ?」




 不知火ソウカは現地を封鎖している警察官から話を聞く。




「ふーん、東に行ったんだぁ。じゃあ、そっち側の住民にも聞いておいてよ。後スキル教えてぇ、スキル。私が適当に部隊編成するから、上司にも伝えといてねぇ──」




 如月シズクは魔族の逃げた方向に目を向け、思案する。




(あっちはナキト君の家がある方向……万が一鉢合わせたら不味い。ノドカちゃんは戦えないだろうし、私が護らないと……)




「ソウカさん。私、向こう側担当したいです。いいですよね? ね!?」


「え、なんでぇ? 好きな子でも居んの?」


「ちっ、違いますって!! そういうのじゃなけて。だから、その──」


「冗談冗談。別にいいよぉ。でも単独は心配だなぁ。他の隊員が来てからぁ──」




 不知火ソウカが言い終える前に、如月シズクは「有難う」と言い残して行ってしまった。




「えー……もぅ。皆んな強いからって単独行動ばっかりぃ……。ここがダンジョンの外だってこと忘れてないかなぁ」




 ダンジョンの外は魔素の補給が限られ、体内魔力だけで戦う必要がある。特に魔法銃を使用して戦う如月シズクと、スキルを使用して戦う神委キクは、戦闘が激化した場合、体内魔力量の勝負になる。絶対的に魔族の方が体内魔力量は多く、その点で言えば苦戦は必至だろう。


 不知火ソウカは半ば諦め、一人で警察官と連携を取り、魔族の討伐に挑むのだった。


 それはそれとして、彼女はスキル「透過」により、民家へ侵入していく。




「あっ、ちょっと。勝手に民家に入られると困ります」


「えー、いいじゃん。けちん坊」

 


 ◆ ◆ ◆



 現在は13時過ぎになる。


 俺は階層守護者であるスケルトンウォーリアを相手に、特訓をしていた。




「うぉりゃああっ!!」



 

 雄叫びも程々に、俺はスキル「爪」を発動させた。魔力を全身に纏わすことで、次点の行動に備え、身体が無防備になる時間を減らす。またその際、手に多くの魔力を割き、攻撃の威力を下げないようにも注意する。


 そうして、スケルトンウォーリアの剣を躱し、切り裂いた。それは所持した盾を構えるが、俺の取り柄である高い攻撃力を前に、腕ごと盾が吹き飛ばされる。胴体を切り裂いてフィニッシュだ。




「ど、どうよ……っ!! 今の良かったんじゃね!? ノドカ、キリメ。どうだった?」




 スマホで戦闘を録画してくれていたキリメは、黙って指で丸を作った。


 一方のノドカは俺の身体を殴り、自分の騎士であるスケルトンウォーリアを粉々にしたことを怒るのだった。



 俺達のダンジョンは、強化を施したことで「Gランク」から「Eランク」へ2段階ランクアップした。


 魔石以外の素材の一部は、ポップする魔物に変換した。それにより、スライムやスケルトンがダンジョンを動き回るようにやり、賑やかになったのだが、物凄く頼りないのは変わらない。


 ノドカは残り物の素材を投入し、ダンジョンを改造して遊んでいる。それで操作の仕方を学んでくれれば、安心して任せられそうだ。


 結局は俺の眼に纏わる第2のスキルは、よく分からなかった。でも、やはり視力が良くなっているのは確かだ。スケルトンウォーリアと戦闘を重ねる度、動きが良く見えていった。最終的にポップする魔物を交えた戦闘にも、難なく勝利するようになった。


 それでも俺の探索者ランクが5級のままなのは、キリメ曰く弱い相手と戦っているからだそうだ。


 つまり、本当に強くなるには、強者と戦う必要がある。


 だから俺は、これから『恐れ渓谷』に向かうのだ。





<作者より>


 如月シズクが前話で「キクちゃん」と発言してましたが、「キク」に変更しております。


 如月シズクは、白鷺メイにも神委キクにも嫌われてますね。彼女達のスキルは、後々明かします。

 如月シズクは銃に関するスキルで、神委キクは前話で言及した通り、不知火ソウカの上位互換スキルになります。


 ちょっと短い話でしたが、許して下さい。

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