第13話 強化


 ナキトとキリメが帰宅した3時間後──


 神委学校高等部B棟3階の教室に、見慣れぬ影があった。突然教室の扉を開けたそれは、気怠そうに背中を預けて言う。




「ダンジョン省、緊急対策支援部実働課の不知火ソウカですぅ」




 長い黒髪を引っ提げ、そこから覗かせる眼は大きく垂れている。重たい瞼を決して持ち上げず、直立していることすら煩わしそうに"彼女"は続けて言う。




「えっとぉ……シズクちゃん。如月シズクさん居ますぅ?」



 

 教室は閑散としている。それは授業中だからだ。教師は黒板に向かい合い、ポカンと口を開けてチョークを落とした。

 ダンジョン省と自称していた女は、名刺を出すでもなく、ましてや来客用のネックストラップを付けていない。本来なら直ちに通報する案件であるが、さも当たり前のように侵入する彼女が不審者だと思えなかった。




「ソウカさん……またそうやって──」



 教室の後方、如月シズクは席を立つ。



「シズクちゃん居るじゃん。はい、お仕事だよぉ」


「今ネットで拡散されてる"アレ"……ですよね」


「そうそう。流石だねぇ。ぶち殺しに行くよ」




 如月シズクは、不知火ソウカと共に教室を出る。2人は数年来の仲だ。如月シズクが探索者ランクを上げ、所謂ランカーとして一部界隈に名を馳せた4年前、係長に就任した直後の26歳の不知火ソウカと出会った。




「ソウカさん。私だけ、ですか?」


「いいや。ウチと同じ……いや、上位互換って呼ばないと怒られちゃうか。彼女の場合は──」


「キクもですか」


「そうそう、"神委"家のね」




 それを聞いた如月シズクは、溜息を吐き頭を抱える。一方の不知火ソウカは、腕を上げて楽しそうに2階へ降りていく。

 廊下にはもう、付き人を従えた神委キクが待ち受けていた。



 ◆ ◆ ◆


 

 天城ナキトの自宅にて──



 俺はスマホを取り出すと、白鷺メイ、如月シズク、厄静キョウカの3人からチャットを確認する。


 先ずは白鷺メイからだ。彼女は俺を非常に嫌っているが、パーティに入れてくれた恩義もある。彼女の許可が無ければ、上半期課題のクリアは難しかった。


 さて、なになに……?




『学校なんで休んでんの』




 だって。うーん。


 何かパーティに関する催しものでもあったのだろうか。俺に知らされていないだけで、パーティ間での決め事とかあったかな。


 昨日は酷い目に遭わされた訳だけど、如月シズク先輩に助けられた。


 文句の一つでも、言いたかったのかな。良い気になるな、みたいな。


 分からないので「ごめん」と、謝罪だけしておこう。



 で、次に如月シズク先輩から来たのは、




『今日学校に居なかったけど、大丈夫!? ナキト君の家の近くに魔族が出現したみたいだよ!! 討伐隊に私が出るから直ぐに安全になるけど、ノドカちゃんは家から出ない方がいいかも!!』




 すっごいマメな性格だ。めっちゃ有難いのだけれど、その魔族は俺なんよ。


 知られたら嫌われるだろうか。


 彼女の戦いは何度か見ているけれど、人型相手──人間モドキという擬態する魔物等、にも躊躇が無い。




『有難う御座います。ご安全に!!』




 と、返信しておこう。



 最後。厄静キョウカからだ。


 彼女とはクラスメイトなので、面識は本の僅かにあるのだが、どうして先ず俺のアドレスを知っているのかについて問い正したい。


 メッセージはスタンプだけ。それも、イケメン風の男が髪を払っている、意図が不明なタイプのスタンプだ。


 しかし、彼女達をついさっき助けたばかりの俺に、このタイミングでメッセージ。


 バレたか。いや、そんなこと……。


 白鷺メイとは付き合いが長く、如月シズク先輩とは高校からの仲だが、何度も家に来てくれている。


 俺のことを良く知っているのなら、普通は思い至らないだろう。俺が魔族であるということは。


 しかし、厄静キョウカなら。俺を殆ど知らない彼女なら、思い至る可能性があるのかも。


 と、取り敢えず、『どうしたの?』と白々しく返そう。



 さてと。メッセージを一応、返し終えた俺は、ダンジョンを強化するノドカ達の元に戻る。


 彼女達は、スケルトンナイトの強化を行っているところだ。


 一先ず、1体を強くする。そうすれば、多少の時間を稼げる筈だ。




「ノドカ。どんな調子だ?」


「おぅ、お前さん。階層守護者に魔石と武具を全部与えたところじゃ」


「強くなったか?」


「ま、程々に進化したぞ」




 モニターを見ていたノドカが、あれを見て、と指をさした。


 その先には、大きな盾を所持したスケルトン種が佇んでいた。


 強度が低そうな骨が、太く頑丈になり。ボロい布切れは、皮の鎧に変化していた。


 名を、スケルトンウォーリアというらしい。




⚫︎スケルトンウォーリア 67pt(次回100pt)

耐久性:D

魔力量:E

攻撃性:D

俊敏性:E

強さ:探索者ランク6級相当

弱点:打撃系統、光属性魔法、水属性魔法(微)

備考:矢に対して絶対的な耐性有り。


所持武器:シルバーナイフ、大盾

装備:鬼神の膝当て


特殊効果:1分間、攻撃力1.5倍。クールタイム5分間。




 アナライズの結果は、こんな感じだった。


 スケルトンウォーリアの名前の横に『67pt(次回100pt)』とある。


 キリメが教えてくれたルールはこうだ。階層守護者に与えられるのは、魔石と装備品だけ。レア度の2乗分したポイントが得られる。


 今回集めた魔石と装備品は、合計67ポイント分だった。つまり、そこに記載されているのは、合計ポイントだ。100ポイントに達すれば、また強くなる。


 因みに、スケルトンナイトは探索者ランク9級相当の強さだったが、6級相当に変化している。


 8級にするには10ポイントが必要で、7級は20ポイント、6級は50ポイント必要だったそうだ。


 5級は100ポイント必要らしい。そのタイミングで、更に進化するということか。


 『鬼神の膝当て』に付随する特殊効果は、階層守護者用に若干変化している。この辺りも、また追々分かってくるだろう。




「良い感じじゃないか、ノドカ。良かったな。お前の騎士が強くなって」




 するとノドカは嬉しそうに笑い、俺にお礼を伝えてきた。喋れない彼女なりの、スキンシップによるお礼だ。


 彼女はキリメにも礼を伝えるべく、ゾンビの如く両腕を伸ばして迫っていく。


 しかし、ノドカは赤鬼の血を付着させている。そんな彼女によるハグは、罰ゲームでしかない。




「ノ、ノドカや。血がぁ、血を拭いてから……あぅぅ、汚いのじゃぁ……」




 キリメはダンジョンマスターであるノドカに逆らえないらしく、ハグを受け入れるしかなかった。



 ◆ ◆ ◆



 俺の現在のステータスについてだが、



⚫︎天城 ナキト

耐久性:A-(Sは高過ぎたの変更)

持久力:A

魔力量:B

魔力操作:F

攻撃力:B→B+

防御力:C+

俊敏性:B

治癒力:C


探索者ランク6級→5級


※攻撃性→攻撃力に変更。防御力を追加しています。




 このようになっていた。


 殆ど戦闘を行っていないのにも関わらず、攻撃力が上がっている。


 キリメ曰く「最初はぐんぐん成長するぞ」と、言っていた。



 『魔力操作』

 『もう一つのスキル』

 『魔法』



 この3点が現在の課題だと思う。


『魔力操作』は、魔力の消費や魔法の使用に大きく関わってくる。


 今のところ、全力で拳に魔力を纏わせる。みたいなことは出来るが、あまりに力み過ぎているというか、無駄が多い。


 それに拳だけでなく、同時に脚や腕にも魔力を纏わせる必要だってあるだろう。そう教本に書いてあったし。


 だから、その辺りの練習をしよう。


 『もう一つのスキル』や『魔法』は、己の身体に問い掛けてみるしかない。前者は"眼"に纏わるスキルの可能性が高い。


 もう一度、肉を食えばいいのかな……。




「お前さん、お前さん。これからどうするんじゃ」


「勿論、ダンジョンへ行く。これだけじゃ、全然足りないからな」


「それは分かっておる。いつ、何処のダンジョンへ行くのか聞いておるんじゃ」




 陽の光が出ている時は、外へ出ない方がいいだろう。少なくとも、この魔族化した身体を何とかするまでは。


 


「今日の夜だ。Cランクダンジョン『恐れ渓谷』に行こう」


「Cランクとな。これまた一気に難易度が上がったのぅ。大丈夫なのか、お前さん」


「俺のステータスなら大丈夫なんだろ?」


「妾はそう思っておる。まぁお前さんのスキルを確認したいし、鬼の肉を食いに行くかのぅ。ノドカもそれで良いか? ──おぉおぉ、可愛いやつじゃのぅ」




 イチャつくキリメとノドカは良いとして、後12時間以上ある。その時間を使って、鍛錬をしよう。


 魔族の力と宴土ミナタから受け継いだ力。存分に利用させて貰うからな。




<作者より>


 改行や場面の切り替え、それっぽくしました。登場人物が徐々に増えます。

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