第12話 ダンジョン配信 ※別視点
※前話(11話)に収録予定だったものです。
<3人称視点>
Y◯utube
ダンジョン攻略配信『学校の課題を終わらそー!! まったり雑談しながらやってくよ』
4人組配信者グループ『ミルキークィンズ』は、80万人越えのダンチューバーである。ダンジョン探索者向けの学校──神委学校では、SNS等で注目される如月シズクを初めとした生徒が多数在籍している。
『ミルキークィンズ』の4人は本日、Cランクダンジョンの攻略配信を開始した。
:おはがぅ〜
:お、始まった
:Cランクでまったりは草
:カナちゃんが居れば大丈夫しょ
:これ何処のダンジョンだろう
「おはがぅ〜!! トラコだよ〜」
美妃トラコは両手を顔の隣まで持ってきて、爪を突き立てるような構えを取る。
彼女のスキルは「獣化」。常に虎の耳が頭の上にあり、白い肌には黒い縦縞の紋様、鋭い爪を内包した手、猫眼など、虎に近い特徴を有している。
彼女は鋭い爪と牙をカメラ──小型ドローンの前で披露した。
「ト、トラコちゃん待って。もう始まってるの!?」
「僕、まだ髪のセット途中なんだけどぉ」
「全くあんたってやつは……」
トラコ以外の3人が、それぞれ言う。
:いつも通り、グダグダで草
:ダンジョン内でセットするな
:おはがぅ〜
:トラコちゃん、可愛い
「いいじゃん別にぃ。それにさ、こういうナチュラルな部分を見せれば、こいつら喜ぶんよ」
:それはそう
:バレてて草
「はーい、早速探索開始ぃ〜」
美妃トラコのマイペースに振り回され、ダンジョン配信及び攻略が開始された。
『恐れ渓谷』
それはこのダンジョンの名称である。
ダンジョン名の通り、左右が崖で挟まれたV字型の渓谷がゴールまで続く。谷底──約10メートル幅で道が形成されており、水量の少ない川が緩やかに流れていた。
上流に向かって歩くのが、このダンジョンの進み方だ。
難易度に眼を瞑れば、確かに雑談を交えた攻略配信に適しているだろう。
空は真っ青な快晴。ダンジョン内は明るくて、見晴らしがいい。
しかし、そこに出没するのは凶暴な鬼だった。
渓谷の崖で鉱石を掘る鬼がちらほら見受けられる。
その他には、竹馬を履いているような脚の長さを誇るモンスターや、川にはスライムの他に、ワーム型のモンスターが現れる。
「よいっしょ!!」
式沢カナを先頭に据え、彼女達4人は歩いていく。
銀のドレス風の鎧を身に纏い、大盾とメイスを持った彼女のスキルは「筋力倍加」である。小柄な外見に似合わず、巨大な盾と先端に重量のあるメイスを所持しているのは、スキルを活かす為だ。
式沢カナはメイスを振い、立ち塞がる敵を単独で撃破していく。
:やっぱりカナちゃん強ぇ
:スキルが強すぎるんだよなぁ
:シンプルが1番だよな
「僕さ、先月同じクラスの女の子を食べたんだけどさ。やっぱりリンが過去一だなって思ったよ」
厄静キョウカ── ショート髪をしたボーイッシュな彼女は、短剣を2本腰に刺している。スキルは「回収」であり、投擲物を手元に戻すことが可能だ。彼女は近・中距離を担当するアタッカーである。
そんな厄静カナは、細身でメガネを掛けた七色リンに肩をまわした。
「ちょっと止めて。あれは一夜の過ち」
「おいおい、そんな酷いことを言わないで欲しいな。相性が良かったと君も思うだろ?」
:イチャイチャし始めた
:百合営業助かる
:キョウカちゃんのアレはガチよ
:普通に警察沙汰もあったもんな
「ストップストップ! バンされちゃうよぉ。ここからは、この可愛いトラコの顔を見てね」
:いや、カナちゃん映して
:1人で戦わせてるのヤバすぎてわらう
:カナ映せー
:カナカナカナカナ
「う、うううっさいわね、お前ら。ちょっと胸が大きいからってカナばっかり!!」
「僕。カナを持ち帰るのが夢なんだよね。ガードが固くてさ」
「あんた、いつまでその話してんの」
「あ、あはは……」
ダンジョン配信はいつも通り進み、前衛の式沢カナの安定感もあり、順調に敵を撃破していった。
すると、七色リンが言う。
「トラコ。あっちに宝箱。あんた、偵察して来て」
スキル「探し物」により、彼女は特定のアイテムや宝箱等を探し出すことが出来る。一定距離まで近付く必要はあるが、ダンジョン探索において非常に便利なスキルである。
「お宝!?」
「多分ね。結構いいの入ってると思う。崖の中腹に隠し部屋があるわ」
「了解!!」
:お、お宝発見か!?
:宝の見逃しが無いから、結構いいよな
:レア度幾つならいいん?
:4だぞ。概要欄見ろ
美妃トラコは「獣化」により、身体の構造をより獣に変えて行く。体色の変化も激しくなり、四足歩行に適した形態となった。
「行ってくる!」
「トラコ、気を付けて。君が傷付いたら僕は──」
「はいはい、有難う」
美妃トラコは後脚を使って飛び出し、瞬く間に崖を登っていく。七色リンが指定した場所に行くと、中に入り込めるスペースがあった。
彼女はそこへ入って行く。
:大丈夫かな
:エリート系の魔物が守護してるかも
:わくわく
本の1分足らずで美妃トラコは、隠し部屋から飛び出して来た。
「トラコちゃん!?」
「何か様子がおかしい」
美妃トラコは出て来るや否や、崖を大きくジャンプし、川に着地する。水飛沫を上げて、3人の元へ帰ってきた。
:なになに!?
:ヤバい予感
刹那、隠し部屋の入り口が内側から破壊され、砕け散った大岩が転げ落ちた。
「──っ!? な、何!?」
「皆んな構えて。敵よ」
トラコは帰還すると直ぐに人型化し、迫真の表情で告げる。
「皆んな。赤いやつ、居た!! 一旦逃げよ!!」
すると、破壊された隠し部屋の内側から赤い大きな手が岩肌を掴み、グイッと鬼の顔が現れる。その形相は険しく、彼女達を睨むと眉間に皺を寄せた。
⚫︎赤鬼
強さ:探索者ランク1級相当
:赤ってマジ!?
:カナちゃん、いけるか!?
:一旦態勢を立て直そ!?
:逃げた方がいいよ、絶対。ランクCの赤色でしょ
「引くよ、皆んな」
リンの一言で全員の意思が固まる。走って撤退する。
だが、赤鬼は逃げる彼女達に怒りを表し、棍棒を振り上げて追って来た。
「お、追いかけて来るよ!?」
「大丈夫。ダンジョンから出れば、追って来ないから」
「そうだね。それから対策を考えて、討伐しよう」
赤鬼の脚は彼女達よりも遅く、4人はダンジョンの入り口まで無事に戻れた。
:まだ追って来てるじゃん
:脚おっそ
:これなら、キョウカちゃんのヒットアンドアウェイで何とか倒せそう
「ダンジョンから一旦出るよ。いいね」
「うん。リンちゃん」
そうして、彼女達はダンジョンから退場する。
廃屋と化した木造の家の、今にも崩れそうな扉を開けて外に出る。
心地良い陽光に迎えられ、4人は息を吐く。
「ふぅ、危なかったぁ」
「トラコちゃん、お疲れ様」
「怪我はないかい、トラコ。良ければ、服の中を見せて欲しいな」
「ごめんトラコ。危ないと知ってたら」
「ううん、リンのせいじゃないよ」
:無事で良かった
:で、あれどうするん?
:入り口で居座られたら、どっちにしろ戦わないと
:最悪、緊急対策支援部に連絡だよね。次来る人にも危険が及ぶし
「だって。確かに入り口に居座られたやらやだよねー。緊支部に言う?」
「待って。その前にやれる事はやるよ」
「何するの?」
「5分後にカナが入場して、入り口に待機してるか見て来て。待機してるなら、直ぐに撤退して」
「うん。リンちゃん」
「アレが居るなら、キョウカが地道に削って、私達でも倒せるか確認しよう」
「いいよ。何せ、君の頼みだからね」
:リンちゃん、流石
:頼りになるぅ
:あんまり刺激するのも、良くないんじゃない?
「それじゃあ、カナ。おねが──」
言い切る前に、突如ダンジョンの入り口が吹き飛ばされた。
「え──っ!?」
「なっ!?」
赤鬼はダンジョンの入り口を破壊した後、巨大な脚をコンクリートの地面に踏み出した。
それは入り口を潜り、唖然とする彼女達の前に姿を現す。
下顎から牙を突出させ、怒りを露わにした双眸が彼女達を見下ろす。
刺々しい金属の棍棒を振り上げ、躊躇なく叩き付けてきた。
ドゴォォォンッ──
地響きが鳴り、コンクリートの地面が割れる。更に赤鬼は、よろめいた七色リンを狙う。
が、それを式沢カナが大盾で守る。
「きゃあっ──こ、こいつ。凄く強い。私のスキルでも受け止め切れない」
:ヤバいヤバいヤバい
:何で出て来るんだよ
:魔素濃度が上昇してるってマジなんだ
:逃げた方がいいんじゃないの!?
「カナ、耐えて。民家に被害が出る。トラコ!! 脚の速いあんたが1人で助けを呼んで来て」
「そ、そんな。置いて行ける訳ないじゃん」
ウォオオオッ──!!
雄叫びを上げた赤鬼は、式沢カナに棍棒を振り下ろす。
彼女の大盾はそれを防御する度、力負けをして揺らめいてしまう。
「キョウカ、援護して。私も何とか」
「やってる!! やってるけど──」
赤鬼に近付くことは憚られた。あのパワーで攻撃されれば、魔力による防御も意味をなさないだろう。
厄静キョウカの短剣が赤鬼に命中するが、強靭な皮膚を前に傷は浅い。赤鬼は一瞬の怯みもなく、カナに棍棒を振り下ろし続けた。
「も、もぅっ……もうダメっ!! 保たない──リン!! なんとかして!!」
「トラコ早く行きなさい!!」
「わ、分かった……!!」
その時だった。
突然、赤鬼が苦しみ始める。
グゥアアアアッ──
「今度は何っ!?」
赤鬼は腕を背中に伸ばし、掻き毟るような仕草をする。身体をその場で回転させた赤鬼が、彼女達に背中を向けた時、それが見えた。
赤鬼の大きな背中に組み付く、灰色の化け物──
それは爪を何度も突き刺し、切り裂き、更には抉った肉を食べていた。
「なっ、なんだこの化け物は──!?」
「こいつ、一体何処から現れたの!?」
:!?!?!?
:徘徊者!?
:え、こんなタイミングで!?
:逃げて〜
:マジで逃げた方がいい。こんなイレギュラー、誰の所為でもない
「取り敢えず逃げよ!! もう倒せそうだし、徘徊者は流石に応援呼ばないと無理よ」
「そうだね。直ぐに緊支部に連絡を──」
彼女達は撤退を開始するが、ただ1人だけ尻餅を付いていた。
厄静キョウカ。
彼女は脚を震わせ、"誰かに似たそれ"を見ていた。
既に死亡している赤鬼を何度も切り裂き、抉った肉を食する。
赤鬼以上の化け物。
「だっ、誰──!?」
厄静キョウカが呟くと、それが彼女の存在に気付く。
2人の眼が交差した。
刹那、悪魔の背後にぼんやりと何かが浮かび上がる。
大きくて丸い何か。
「眼……?」
やがてそれの輪郭は整い、キョウカを見下ろす。
化け物の背後に、禍々しい眼が現れた。
縦長の黒い瞳を持つ、黄色い眼玉。毛細血管が浮かび上がり、化け物と一緒にキョウカを見つめている。
「ひぃっ──」
恐怖が臨界点を突破した彼女は、漏らしてしまった。
「キョウカ、何してるの!? 行くよ!!」
「何なのよ本当に、コイツ──」
:悪魔っぽい
:あの後ろの眼玉、何?
:怖すぎるって
:化け物やん、逃げてくれ
:あのキョウカちゃんが、こんなに
3人は立ち上がることの出来ないキョウカを担ぎ、この場から撤退する。
幸いなことに化け物が追って来ることはなく、大事には至らなかった。
その場に残された化け物は、改めて肉を頬張るのだった。
<作者より>
えー、冒頭にも書いた通り、本来は11話の内容です。何故か、忘れてました。
後、ステータスにていてです。
忘れている方もいらっしゃると思いますが、『攻撃上昇率』なるものがありまして、ドヤ顔でこの設定作りましたが、面倒なだけですよね。
一応内部データというか、厳密にはそんな感じの設定はあるが、ステータスには記載しません。
また、ナキトさんの耐久性『S→A』に変更します。Sはどう考えても高杉ました。
申し訳御座いませんが、今後とも宜しくお願いします。
あっ、今回の話。配信関連の小説によくあるヤツですね。スレッドの乱立は本編では書きません。
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