第11話 化け物、拡散される
※アドバイスを頂き、改行を2つ→1つにしています。
俺は自宅に帰って来た。
家の扉を開けると、薄暗いダンジョンに入場することになる。
俺の家は、窓から入っても、裏口から入っても、その先はダンジョンに繋がっている。以前にも述べたが、俺の家の"輪郭“を跨いだ瞬間、ダンジョンに入場することになるのだ。
俺やノドカ、キリメを除き、侵入者は俺達の許可が無ければ、必ず1階層からスタートするとのこと。
因みにダンジョンではなく、自宅に入りたい場合は、一度玄関を開けてダンジョンに入ってから、もう一度玄関を潜る必要がある。
つまり、自宅に誰かを招待しようものなら、俺の家がダンジョンに繋がっているとバレてしまうのだ。
「ただいまー」
俺は玄関を開けて、ダンジョンに入場する。
「おぉ、これはこれは。有名人のお帰りじゃ」
「ん……?」
最終階層で出迎えてくれたキリメは、ややお怒りのようで眼を細めて口を尖らせていた。
有名人って、何?
「キリメが無事に帰れたみたいで良かった。ノドカは大丈夫だったか? 取り敢えず、ダンジョンを強化したいから呼んでこないと」
「……はぁ、ノドカは上の階層におるぞ」
キリメは溜息混じりに言うと、俺と共に1階層へ上がる。
ポータルに入り、青い輝きに包まれると、視界に映る景色が一瞬で移り替わる。
吹き抜けの洞窟には、相変わらず朝の陽射しが差し込み、やや霧掛かっていた。
その中心に佇むのは、階層守護者であるスケルトンナイト。
それはノドカを腕の中に納め、ゆらゆらと揺籠のように揺れていた。
ノドカはというと、スマホを片手にダンジョンマスターらしく、部下の腕の中で寛いでいる。
彼女は俺とキリメが来たことに気が付き、パッと顔を明るくする。スケルトンナイトから飛び降りて走って来た。
「お、おい。ノドカ。俺は今、血でべっとりなんだが──」
赤鬼を殺した際に、大量の血を浴びてしまった。加えて、沢山の住民に見られてしまったのは、痛手だった。
そのまま俺の家に入ると怪しまれそうだったので、適当に走り回ってから帰宅した次第だ。
ノドカはスピードを落とすことなく俺の腹に突撃し、お構い無しに抱き着いてきた。服や顔を血で汚した彼女は、俺に笑顔を向けてくる。
「ど、どうしたんだ、ノドカ。やけにテンションが高いじゃないか」
「お前さんが配信に映っていて、喜んでおるんじゃ。ふんっ──」
「配信……?」
配信って何だ?
動画投稿サイトで行う生放送のことだろうか。
「もしかして、動画を撮られていたのか?」
「そんな甘っちょろいもんじゃないわい。配信、つまり生放送じゃ。お前さんは人間を助けたであろう?」
「あっ……あー」
「その人間が誰か、お前さんは知っておるのか?」
徐々に理解してきた。
配信と結び付く存在が居たじゃないか。俺が赤鬼から助けた、正にあの4人組パーティ「ミルキークィンズ」。彼女達は登録者数が80万人の人気配信者グループだ。
神委学校はダンジョン探索者向けの学校では、最大手だ。在校生には彼女達のような有名人も多く、学園1位の如月シズク先輩もその1人だ。
ミルキークィンズのリーダー、美妃トラコ。隣のクラスに居る彼女は「獣化」というスキルを所持し、常に虎耳を出して生活している。
彼女の功績は、類似スキルを所持した人への偏見の減少だ。人間の頭に耳が付いていたら、先ず警戒するだろうが、彼女のお陰でキリメは比較的怪しまれずに済んでいる。
俺はそんな彼女達を助けた。
「もしかして、あの子達。配信してたのか……?」
分かりきったことをノドカに問うと、彼女は自身のスマホを突き出してきた。
「えっ?」
まぁ案の定、配信されていたようだ。
彼女のスマホには、俺が赤鬼を切り裂き、食い破る姿が映っている。それも俯瞰した映像ではなく、彼女達の目線で、迫力満点の化け物のような俺が映っている。
しかしだ。
俺の知らない何かが、画面に映り込んでいた。
「お、俺の背後に映ってる眼玉は何だ!? 知らないぞ、こんなの」
化け物な俺の真後ろに、満月のように重なった大きな眼玉が浮かんでいる。
禍々しい眼玉だ。
それはミルキークィンズの4人をじっと見つめている。
画面を見る限り、この眼玉は俺の眼と非常に酷似している。白眼と、黄色い角膜に、中心の瞳孔は黒い。
俺と全く同じだ。
つまり、これは俺が出したモノの可能性が高い。
「キリメ。この眼玉は何だ」
「妾にも分からん。見るに、お前さんの"スキル"か"魔法"で間違いないじゃろうな」
「スキルか魔法……?」
俺は種族が好天的に魔族に変化した。その為、人間で得たスキルと、魔族で得たスキルの2つを所持出来るとキリメが言っていた。
つまり、魔族バージョンのスキルという訳だ。
魔法についてだが。
魔法の使用には『魔力水晶』というアイテムが必要だ。
だがこの魔力水晶は、なんと魔族の心臓部にしかないのだ。人間が使用するには、魔族の体内から生きたまま、心臓を抉り出す必要がある。
数年前に『KEI株式会社』 が劣化したコピー品を開発したようだが、まぁそれは追々気にすることにしよう。
さて、もう何となく察しているが、多分俺とノドカの心臓にも魔力水晶があるのだろう。
魔族に変異時、胸の辺りが持ち上がる感覚があった。あれは魔力水晶が形成されたと見ていいだろう。
「キリメ。どっちだと思う。スキルか魔法」
「スキルじゃないかのぅ。そもそも、お前さんに付いとるその黄色い眼は、スキルによるものかも知れんのぅ」
「なるほど……どう考えても肉を食った所為だよなぁ」
「人間なんぞ助けるからじゃ」
「悪かったって。ちょっと考え無しだった」
スキルについては棚から牡丹餅的な収穫だが、それと一緒に付いてきたデメリットがヤバすぎる。
数十分前に終了したミルキークィンズの配信は、再生回数は20万回を超え、今も尚拡散されているらしい。
コメント欄には、
:あれって魔族?
:あんな人間が居てたまるか。
:何処の徘徊者だ?
:黄眼の魔族なんて聞いたことないけど。
:魔王ダンジョンの配下なんじゃね? 流石に全員を把握してる訳じゃないだろうし。
:周辺にダンジョンが出来た。それが一番可能性高い。
:助けてるように見えるけど、違うん?
:どう考えても偶然。肉目当てでしょ。
:てか、魔族って肉食うんだ。
色々言われてるけど、「周辺にダンジョンが出来た」このコメントが一番不味い。素人でも辿り着いた答えなのだから、きっと公的機関は今頃討伐隊を編成していてもおかしくない。
「血で顔が分かり難いのが救いじゃな」
「ノ、ノドカ。お前はどう思う……? こんな化け物みたいなお兄ちゃん、嫌じゃないか?」
ノドカは首を傾げ、スマホを操作して色んな画面を見せてくる。それはもう嬉しそうに、俺の姿を映した映像が拡散される様を見せ付けてくる。
なんなら自身のSNSで拡散していた。
『クソカッコイイ魔族現る!! 尻尾がキュート!! # 拡散希望』
「ノドカさん? 君の所為で100人が拡散してるよ。後、クソって付けるの止めなさい」
まぁもう焼け石に水というか、そりゃ魔族がダンジョンから出て来たとあれば、皆んなこぞって注目するよね。
日本の未踏破ダンジョンは20も残っていない。そこに居る魔族達は、人間に見つからないようダンジョン内で暮らしている筈だし。
「ノドカは俺が有名になって嬉しいののか? ──じ、自慢の兄だって? そっかそっか。お前も自慢の妹だよ」
開き直って、ノドカの頭を撫でる。
今まで弱っちい兄だったから、本当は何でもいいから公に自慢出来る部分が欲しかったのかも知れない。そうだとしたら、これも悪くないか。
すると、キリメがジッと此方を伺っていた。どうしたのか、と聞いても彼女は何も答えなかった。
「……? なぁキリメ。ダンジョンを強化したいから、やり方を教えてくれ」
尋ねると、「ふん」と外方を向いたキリメが、モニターを出してくれる。
「手に入れたものを全て出せ」
「……わ、分かった」
今回入手出来たのは、以下の通りだ。
(細かいので、飛ばしてok)
『スライム』
⚫︎スライムの魔石×8 レア度1
⚫︎スライムの体液×6 レア度1
⚫︎スライムボール×2 レア度1
⚫︎スライムの酸×3 レア度1
⚫︎スライムの目玉×1 レア度2
『レッドスライム』
⚫︎レッドスライム(凝集体)の魔石×1 レア度3
⚫︎スライム(凝集体)の体液×2 レア度2
⚫︎スライムボール大×1 レア度2
⚫︎スライムボール赤×1 レア度2
『ペイルスケルトン』
⚫︎スケルトンの大盾 レア度2
物理防御力25
魔法防御力45
⚫︎ペイルスケルトンの魔石×1 レア度2
⚫︎ペイルスケルトンの肋骨×2 レア度2
⚫︎ペイルスケルトンの脆い骨×4 レア度1
『赤鬼』
⚫︎鬼神の膝当て レア度4
物理防御力 40
魔法防御力 40
追加効果:10秒間、攻撃力倍加。クールタイム1日。水耐性アップ。
⚫︎赤鬼の魔石×1 レア度5
⚫︎赤鬼の角×1 レア度4
⚫︎赤鬼の爪×1 レア度3
⚫︎鬼血×1 レア度2
「どうよ。なかなか良いの取れたんじゃない?」
特に赤鬼のドロップ品を取れたのは、凄く大きいと思う。
「これを使って、どのようにダンジョンを強化すればいい?」
曰く、ダンジョンの強化は『ポイント制』とのことだ。
基本的に素材や武具は、『レア度の2乗』分のポイントが得られる。
レア度2なら4ポイント。レア度3なら9ポイントだ。
そのポイントで強化出来るのは、
・階層守護者の強化
・階層全体のバフ
・階層追加
・魔物追加
大まかに上記の通りである。
「では先ず、どれを行いたい?」
俺はノドカと相談し、階層守護者であるスケルトンナイトの強化を行うことにした。
意外と沢山の素材を持ち帰ったが、全てレア度が低い。侵入者が来た時に備えるのであれば、1体を強くして時間稼ぎをさせた方が良いと判断した。
キリメが居れば、数日に一度だけ別のダンジョンからポータルを生成出来るとのことだからな。
「スケルトンナイトの強化じゃな。階層守護者の強化は、武具と魔石でのみ可能じゃ」
「他の素材は使えないのか」
「他の素材は、宝箱に詰めて階層全体を強化出来るぞ」
なるほど。
あくまでダンジョン。侵入者にも渡すモノが必要なのだ。
「じゃあ、取り敢えずスケルトンナイトを強化していくか。な、ノドカ」
ノドカは、漸くダンジョンマスターとしての仕事が出来ると、張り切っていた。
キリメと2人でモニターの前に並び、色々と教わっている。そんな彼女達を、俺は見守ることにした。
ポケットの中でスマホが何度か振動していた。
それを今、確認してみる。
3人からチャットが届いていた。
如月シズク、白鷺メイ、厄静キョウカからだった。
<作者より>
ダンジョンマスターモノって、強化ポイントの仕組みとか詳しく記載すべきだと思うんですが、必要ですかね……?
一応作中でダンジョンの強化は初めてなので、次回である程度記載しようとは思うのですが、あんまり細かくてもなーって感じです。
ただ、成長過程は見せるべきだと思うので、配分に気を付けて書いていく予定です。
分かりにくい箇所だったり、気になる箇所があったら、言って貰えると助かります。
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