第4話 ダンジョンマスター②
「はい? じ、人格……?」
察するに、機械の初期設定か?
え、機械型の魔族ってそんな感じなん?
でも、敵意は無さそうで安心した。
俺はノドカと顔を見合わせ、試しに言ってみる。
「や、優しい、とか?」
『それはどういう人格でしょうか』
そうやって返ってきた。
もっと具体的に言う必要があるみたいだ。
「うーん、じゃあ……相手のことを思いやり──」
すると、ノドカが激しく腕を叩いてくる。彼女は自身のアイテムボックスの中から、漫画を取り出していた。
どうしてそんなもの入ってんだ。
って、以前聞いたことがある。
ノドカは人付き合いが苦手だ。だから、話題作りの為に学校で漫画を取り出しては、誰かから話し掛けられるのを待っているそうだ。
しかし、ノドカよ。その漫画はとてつもなくマイナーなのだ。読んでいる人は滅多に居ない。更に偏見で言うと、教室で本を読む生徒は、優等生かボッチしか居ない。ノドカは誰が見ても後者だ。話し掛けられる筈がない。
とまぁ、そんなノドカだけど。学校自体は楽しいらしい。この前なんて、男の子とコミュニケーションが取れたって、俺に無言で話してくれた。凄くカッコいい男の子らしい。よし、殺そう。
欠席も多いけれど、楽しいと言ってくれて俺は安心して送り出せている。
さて、
「でかしたぞ、ノドカ」
俺はノドカから漫画を取り上げると、その中で登場するヒロインを指し示す。
「こいつ。この子のような誰にでも優しく出来る──ぐぅぇっ!! ノ、ノドカぁ……」
漫画を取られたことにムカついたノドカが、俺を殴る。
彼女は俺から漫画を取り返し、ロボットに渡した。彼女も作中の人物を指し示しているようだ。
『この人格で宜しいでしょうか?』
うん、と彼女は大きく頷く。
ロボットは漫画を読み始めた。
かなりの勢いで読み進めていく。
『もっと参考資料が必要です。持ってきて下さい』
一瞬で読み終えたロボットが言う。
ノドカは走って家に戻って行った。
低ランクのアイテムボックスでは、漫画全巻を入れることは出来ない。必ず持たせている回復アイテムもある為、容量に空きが少ないのだ。
ノドカはダンボール箱を両手で担いできた。ドサッとロボットの前に置く。
全21巻。マイナー漫画の癖に、意外と巻数が多い。安売りしてる時に、家で退屈してるノドカに買ってきてあげた。
『有難う御座います』
無機質な声を発して、ロボットは漫画を読み進めた。
俺とノドカは一度、家に戻ることにする。ロボットが2週目を読み始めたからだ。
「そういや朝ご飯がまだだったな。食べるか」
適当に卵とハムを焼き、インスタントの味噌汁、そしてご飯を用意し、ノドカと食べた。
「今日は学校休むべ」
昨日の一件もあって、特に白鷺メイとは会い辛い。如月シズク先輩に実質敗北した腹いせを、俺にしてくるに違いない。
丁度良いし、休もう。
「ノドカも……まぁ休みでいいよな」
数時間が経過し、俺達はまたロボットの元へ戻ってみる。
「は!?」
ノドカも思わず、「へ?」と極小の声を漏らした。
それ程、驚くべきことが起きたのだ。
ロボットの姿形が、まるっきり変わっていた。
巫女服のような、セーラー服のような装いで、黄色い髪色とケモノの耳を生やし、モフモフな尻尾を付け──
それは正に、漫画のキャラにそっくりなキツネっ子になっていた。
身長も縮んで、152センチのノドカと大差ない。
「おぉっ!? 待っておったぞぉ」
と、そのキャラと同じ喋り方をする。
「お、お前っ!! 見た目が……ってか。ノドカが指定したのってコレ??」
おいおい、ノドカ。お前、これが一番好きだったのか。
「なんじゃ、不満なのかぁ? だが、もう変更は出来ぬからな」
いやだったら、可愛いヒロインに成り切って欲しかったんだが。
「変身は一回キリじゃ。なっはっは──」
笑い方まで、そのまんまときたか。
唖然としていたノドカだが、ロボットに向かって走っていく。飛び付いて、それを抱き締めた。
「おぅおぅ、可愛い奴じゃのぉ。気に入ってくれたんか?」
うんうん、とノドカが頷く。
ここ数ヶ月で一番テンションが高い。俺が誕生日を祝ってあげた時よりも、テンションが高い。なんでや。
「お、おい! えっと……そこのロボット!」
「おいおい、お前さん。妾にはキリュメス・ディナハト・ローズクイーンという名前があるじゃろ?」
「それは漫画のキャラの名前だ。お前の本当の名前を教えろ」
「んー? 無いに決まっておろぅ? 嫌ならお前さんが付ければ良かろぅ?」
付けろって言ってもなぁ。
そういうのは苦手だし。
まぁ、適当でいいか。
「ほな、キリメな」
キリュメスで、キリメだ。
「ふむ。お前さんがそう呼びたいのなら、それでも構わなんぞ? ノドカはどぉ思う?」
うんうん、とノドカも頷く。
「おー、そうかそうか。似合っておるか」
くそ、俺の妹を手懐けてやがる。
そしてノドカも、簡単に手懐けられてやがる。
っていうか、名付けたのは俺なんだけど。
「キリメ。取り敢えず、説明をしてくれ。ここはダンジョンでいいのか? お前と戦う訳じゃないよな? 言っておくが、俺達は弱いぞ?」
キリメはノドカの頭を撫で、妖艶に笑う。その行動や表情、所作に至るまで、ロボットのそれではない。漫画に出てくるキリュメスのままだ。
いや実際のキリュメスは知らんが、多分それっぽい。
本当に成り切っているらしい。
「お前さんらは、ダンジョン生成に巻き込まれた。妾はナビゲーターと思ってくれればよい」
「ナビゲーター? 一体何のナビゲーターだよ……」
「それは勿論、ダンジョン運営のだよ」
「ダンジョン運営……!?」
聞いたことがない単語だ。
俺達がこのダンジョンを管理する、という意味か?
「いや待て、ダンジョンの守護者はどうした? 俺達がどうしてダンジョンを管理するんだ。いや、それより──お前は"魔族"じゃないのか!?」
未踏破ダンジョンの守護者──それが魔族の筈だ。人間のように意思を持ち、言葉を話す。スライムやオークなどの自然発生する魔物とは、全く異なる存在だ。
つまり、本来はキリメがダンジョンの守護者じゃないのか? 所謂、ダンジョンボス。キリメを殺せば、ダンジョンクリア。踏破済みとなる。
俺の問いに対し、彼女はニンマリとした笑みで返してくる。何処か悪戯めいて映ったのは、模したキャラクターの所為だろうか。
「な、何だよ……答えろよ」
「ぬはは。"便宜上"、魔族と出ただけじゃないかのぅ。少なくとも、妾は人間ではないからの」
便宜上。
いちいち怪しいな。
つまり、探索者ランク等の数値と同じ。この世界の概念というかシステムというか、そういうのが、ナビゲーターとして存在するキリメを魔族と判定した。らしい。
「ダンジョン運営って……じゃあ、俺達は具体的に何をするんだ」
「ダンジョンマスターとなり、ダンジョンを強くするだけじゃ。それ以外にない」
「でも、ダンジョンってことは人間が攻めてくるんだろ? 人間とは戦えない……俺達は弱いし、それに──」
「ああ、それに関しては大丈夫だと思うぞ? まぁなってみてのお楽しみじゃな」
口に手を添えて、クスクスとキリメは笑う。いい加減、ノドカは彼女から離れて欲しいのだが。
「大丈夫って、全然大丈夫じゃねぇよ……」
完全にミスだ。
こんな怪しい人格を設定するんじゃなかった。
「うむうむ。納得してくれたようじゃな?」
「いや、してねぇよ」
「ダンジョンマスターはどっちが成るんじゃ? お前さんか?」
「おーい、話を勝手に──」
「早よぅ、決めんか。男じゃろ」
「ロボットには言われたくねぇよ」
ダンジョンマスター。つまり、主にダンジョンを運営する者のことだよな。
「負けたらどうなる。ダンジョンを攻略されたら、どうなるんだ」
「ダンジョンがお主らの物では無くなる。他のダンジョンもそうじゃろ?」
未踏破ダンジョンは、魔族が守っている。
では、踏破済みダンジョンは。
魔族が居なくなり、自然にポップするモンスターだけになる。
「お前さんらの家がどうなるかは、流石の妾も知らないがのぅ」
「じゃあ、お前は? 負けたらお前は居なくなるのか?」
「そうじゃな。残念ながら……」
キリメはそう言うが、残念そうにしていない。一応ロボットだから、死の概念を持ち合わせていないのかも知れない。
とはいえ、あまりいい気はしないが。
「分かった。分かったから、ノドカ。いい加減その魔族から離れなさい」
ノドカはキリメに顔を押し付けながら、首を横に振る。
なんて強情な奴──
俺はノドカを引き剥がし、改めてキリメと対面する。
「話は聞いていたな。ダンジョン運営をやるから。てか、やるしかないんだろ? 家がダンジョンの中にあるんだから」
まぁ負けても、宴土ミナタが用意した家が無くなるだけだし。
軽い気持ちで引き受けておこう。
「うんうん、それでこそ妾の主様じゃ──しかしのぅ、"その魔族"とは、ちとあんまりじゃないかのぅ?」
「魔族は人類の敵だ。即ち、お前は俺達の敵でもある」
ノドカが俺を見上げてムッとしているが、無視だ。てか、漫画のキリュメスも敵だっただろうが。
「ほう。それは"良いこと"を聞いた──では、始めようか。ダンジョンマスターは、どちらが務める?」
「当然、俺が責任を持っ──うぐっ!?」
ノドカは俺の前に出て、溝落ちを殴った。そして、ものすごい勢いで手を挙げている。
「おぅ可愛い奴じゃぁ。では、ノドカで決まりか?」
「ちょっと待て!! え? マジで言ってんの?」
ノドカは鼻息を荒げている。マジで言ってるっぽい。
「お、おお前。ほ、本当に良いんだな?」
ノドカは眉を立てて、うん、と力強く頷いた。
「はぁ……まぁこういうの地味に好きだもんな。お前」
「決まりじゃな。ダンジョンマスターは変更不可じゃから、そのつもりでな──ノドカ」
何やら大掛かりな儀式でもするのかと思えば、キリメは表情を明るくして言った。
「設定完了したぞ」
そして、彼女は続けてこうも言った。
「今日からお前さん達は人類の敵だ」
<作者より>
さて、始まりました。
が、先に少し謝罪させて下さい。
「ダンジョンマスター、一人じゃなくね?」
→ダンジョンマスターはノドカ、唯一人です。ナキトは副マスター的な位置付けですが、実際にそんな役職はありません。なので、ギリギリセーフ……ということでお赦し下さい。御免なさい。
作品のフォローやハート、★以外にも、作者フォローやコメントをお気軽にして下さい。
特にコメントですね。アドバイスでも、アンチでも、全て受け入れる所存です。反応、反映するかはまた別ですが。
・topics(雰囲気で楽しもう)
ノドカが持ってきた漫画。
『スメラギ表裏』 作者:奈落の底は絶望
世界に「裏世界」があることを発見する。それは地球と酷似しており、所謂鏡の中のような反転世界だった。表と裏が繋がったことにより、実質世界は2倍に広がった。
だが裏世界には、人間に似た「半人類」が住んでおり──主人公は戦争に巻き込まれていく。
表裏一体のお話。
表の感情、裏の感情、本当の自分は何?
登場人物
・キリュメス・ディナハト・ローズクイーン
キツネ耳の女の子。裏世界の政府「界来(かいらい)」の戦闘部隊「月鬼会(けっきかい)」のリーダー。主人公の敵。性格自体は明るいが、それが本心とは限らない。
物語序盤から登場し、表世界と裏世界の戦争を引き起こそうと暗躍する。「界来」の穏健派を自ら殺害したりと、殺人に躊躇がない。表と裏に疑心暗鬼を植え付け、結果的に戦争を誘発する。
彼女の正体は、「キキキツネ」という裏世界に伝わる伝説の生物を、人間にくっ付けた融合体。キキキツネの感情と、人間の感情を持つ。
彼女は「界来」に復讐することを目的としている。
主人公とは一時期行動を共にし、怖がりであったり等意外な一面を見せる。
彼女は自分の本心が物語終盤で分からなくなり、主人公に尋ねる。結果、裏切りを計り、主人公サイドに殺害される。
彼女はただ、本当の自分を知りたかっただけなのかも知れない。
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