幸せになれない呪い

霜月葵

第1話

最後に幸せだと感じたのはいつだろうか。

そう考え、これまでの自分の軌跡を振り返ってみると、心が粘液質な黒い感情に飲み込まれる。


普通の家庭に生まれたかった。

しかし、俺が生まれたのはクソみたいな親の家庭だった。

父も母もギャンブル依存症でアルコール中毒だった。

暴言は普通。暴力だって毎日のようにされた。

飯抜きも当たり前、酷い時には家の中で寝ることすら許されなかった。

そして、奴らは夜逃げした。俺が5歳の時だった。

両親が夜逃げしたことに気付いた時、俺の心中で渦巻いたのは年不相応な解放されたことに対する喜びだった。

それからしばらくは平和に暮らすことが出来た。

孤児院では暴力を振るわれることもなかったし、寝る場所も毎日確実に与えられた。

友達も出来た。

でも、その幸せも長くは続かなかった。

里親が見つかり、友達がみんな孤児院から去っていく。

そんな中で俺は一人"売れ"残った。

身体中には一生かかっても消えないような痣がたくさんあった。

それに加えて孤児院の先生たち以外の大人には恐怖を抱いていた。

痣も恐怖心もきっとあの両親が残した呪いみたいなものだ。


幸せになれない呪い。

ソイツはずっと俺を苦しめた。

学校に行っても誰も話しかけてくれない。声をかけられるのは嘲笑と同情の声だけ。

会社の採用試験でもそうだった。孤児院育ちで里親がいないと分かるとあからさまに俺を採用することだけは避けようという表情をされる。

これで俺は察した。

俺にはこの世界には居場所なんてないんだと。

どれだけ必死に勉強しても、働いても。

俺に向けられるのは忌避の感情だけ。

それに気づいた瞬間、俺は全てがどうでもよくなった。

ここは賽の河原。つまり地獄そのものだ。


もしもこんな世界に神が居るのなら。

俺はソイツを死ぬまで、いや、死んでも恨み続けるだろう。

何故金持ちになりたいというただの自己満足な欲望が通って。

何故人並に暮らしたいという切実な欲求が通らないのか。

こんなことを言っている時点で俺の欲求すら自己満足なのだろうが、そんなことはもうどうでもいい。



そんな苦しみの続くある日、俺は突然気を失った。

そして、目が覚めると雲の上に立っていた。

夢だろうか。

しかし、そんなのは些細なことだ。

目の前には如何にも神のような服装をしている男が立っている。

俺の右手にはナイフが一振り。

俺はその男に対して右手を力の限り振り下ろした。



さようなら。

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幸せになれない呪い 霜月葵 @shimotsuki_aoi

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