第1話

世の中は金だ。


僕がそう言うと必ずと言っていいほど反論して来る奴がいる。


「世の中お金だけじゃない」


僕から言わせれば、「お金だけ」とわざわざ言ってる時点で金がいると言ってるのも同義。


「世の中お金じゃ買えない物がある」


そんな事は知っている。

だけど大半の物は買える。

これは紛れもない事実。


「経験こそが財産だ」


その経験を積む時間も金があった方が多く取れる。


「あの世にお金は持って行けない」


あるかどうかわからないあの世の事なんて知った事では無い。

僕は今を生きている。

今を楽しく生きる為にもお金はあった方がいいち決まっている。


総じて金は無いよりあった方が絶対にいい。

綺麗事を言ったってこの事実は決して変わらない。


だから僕は金を稼ぐ。

僕の持てる全ての力を駆使して。


僕は100万円の入った封筒から1万円だけを抜いてポケットにねじ込むと、残りをATMに放り込んだ。


そして帰り道にスマホで操作して送金完了。


「白夜!」


後ろから走る足音と共に僕を大声で呼ぶ声が聞こえる。

だけど面倒くさい相手だから無視だ。


「おーい!

白夜ー!」

「……」

「おーい!

聞こえて無いのか?」

「……」


そいつは諦めずに僕を追い抜くと、真ん前に回り込んでまるでドリフトのようにターンを決めた。


「よお、白夜!

元気か?

ボクは元気だ!」


メンズのジャージを来た小柄なこいつは幼なじみ。

と言うか腐れ縁。

とにかく熱苦しい奴だ。


「耳悪くなったのか?

全然振り向かないじゃないか!

耳は大事だ!

そうだ!

病院行こう!

まだ間に合うかもしれない!」


そしてポジティブ。

自分が無視されているなんて微塵も思っていない。


「聞こえていて敢えて無視してたんだよ。

気付けよ」

「無視?

そうかそうか!

聞こえていたのか!

なら耳は大丈夫だな!」


さらに超お人好し。

普通は怒る所のはずなのに、微塵も怒っていないのが笑顔から分かる。


この笑顔に大学内では女にモテるだけで無く、同性愛に目覚めそうになる男が続出してるとかしてないとか。


それだけこいつは可愛い。

下手な女よりも断然。


まあ、それは仕方ない事。

何故ならこいつは男として生きているが、実は女だ。


本人は僕がそれを知ってる事は知らない。


こいつの家は複雑で、本人の意思と関係無く無理矢理男として生きる事を強要されている。


そんな事出来るのかって?

それを可能にするだけの金がこいつの実家にはある。

そしてそれに抗えるだけの金をこいつは持っていない。


やっぱり世の中金である。


「お前、全然大学来てないみたいじゃないか!

そんなんじゃ卒業出来ないぞ!」

「別に最低限はこなしている。

その内卒業も出来る」

「せっかくのキャンパスライフ楽しまないと!」

「興味ない。

僕は忙しい」


そもそも大学に通っているのは仕方なしだ。

本当は金が勿体ないから行きたくなど無かった。


「そう言うなよ。

ボクと一緒にキャンパスライフ楽しもうや」

「無視された相手に良く言えるな」

「そういやそうだったな」

「お前こそ病院行くべきだ」

「頭の病院にか?

酷い言いようだな」

「違う。

体痛めてるんだろ?」


それはもう目をまん丸にして驚く。

それからまたあの笑顔を見せた。


「よく分かったな」

「走り方が少し変だったからな」


これは嘘だ。

分かった理由はこいつが体を痛めている理由を知ってるから。


「ちょっとあってな。

でも大丈夫だ。

すぐに治る」


困った顔で誤魔化している。

それもそのはず。

僕には言えない理由だからだ。


なにせ未確認生命体と戦うヒーローの1人、レッドナイトなのは秘密だからだ。

そして、先日の戦いで敗北をしている。


ふと、幼なじみが怪訝な顔をして両手を後ろに隠した。

そしてすぐに笑顔に戻る。


「ちょっと用事が出来たから行くわ。

また大学でな」

「殆ど行かないけどな」

「まあ、そう言わず来いよ。

じゃあまたな」


多分、また未確認生命体が出たんだろう。


手負なのに良く行くな。

一円の特にもならないのに。


そんな事を思いながら走りさる幼なじみを見送っていたら僕の電話が鳴った。


「もしもし白夜君?」


電話の相手はさっき金を送金した相手だ。


「なんだいこの大金は?

もう仕送りは必要無いと言っているだろ?」


電話の先の男性は悟すように言ってきた。


「あの子ももうすぐ成人なんだ。

私達にも充分な稼ぎはある」

「大学の授業料がかかるでしょ?」

「それぐらい私達でなんとか出来る。

そう言っているじゃないか」

「約束したはずですよ。

僕が大学に在籍するなら仕送りを受け取ると」

「それはそうだが、こんな大金どうやって――」

「それも聞かない約束です」

「……わかった。

これは受け取ろう。

だけど、君には君の人生がある。

それは忘れないでくれ」


全く。

素直に受け取っとけばいい物を。

金なんてあればあるだけいいに決まっているのに。


僕は電話を切って帰路についた。

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