幕間 焦がれたその人 上

 ‪”‬‪守らないと、俺が”‬


 ずっと思っていた。ずっと考えていた。

 武器の持てない人間が迷宮に入るなんて前代未聞、危なくないはずがない。


 それでも彼女は呪いを解くために、進んで行った。


 始めこそ、俺はどんな形であれ、憧れた彼女と共に冒険ができることに内心歓喜していた。


 戦えないのにも関わらず、彼女は看板程度の支援者サポーターとしての役割を健気にこなそうとして、新たな一面を垣間見ることができた。

 膝枕をしてもらった時は、緊張と安心感が同居するおかしなことになったけど。


 十階層に着いた時、霧で逸れないようにと、彼女に抱き着かれた。俺は死んだ。

 手を繋ぐ程度に抑えてもらい、なんとか一命を取り留めたが。


 ここから俺達は、手を繋ぐのがデフォルトとなった。役得。


 ランドさん。十階層で出会った。彼女の友人らしい。

 彼は強かった。中級第一位冒険者らしいが、彼はとっくにその域を越えていると思う。


 そう言えば、俺はギルドに登録していないが、何級位なのだろうか?


 まあいい。


 彼との手合わせは実に有意義なものだった。

 彼の隠蔽インビジブルは精度が高く、およそ俺の魔力探知では見つけることは叶わなかった。

 それに双剣の扱いも長けていて、攻守共に隙がない。

 地形も利用したりと、彼からは学べることが沢山あった。また手合わせしたい。


 彼に彼女のことを任され、彼は去っていった。


 彼と別れた後、彼女から膝枕を提案された。勿論受けた。

 そこで聞かれたのは、彼女を助ける理由。

 そこで俺の中での全ての始まり、五年前の出来事を彼女に明かした。


 そこからだろうか、彼女の対応に変化が訪れたのは。

 簡単には身体に触れた無くなったし、目も合わせてくれない。

 どこか恥ずかしがっているようで、なんだかまるで、俺を意識し始めたような――


 自惚れちゃあいけない。


 十六階層。ついにそれは起きる。

 ここまで順調に進んできた中、アクシデントが起こった。


 バットファングの群れ。


 不運だったと思うしかないだろう。苦肉の策だったが、彼女を守れたと前向きに考えることにした。


 落下し、目的地より下に落ちてしまった俺達は、上を目指して散策するも、難航。

 なんだか彼女に焦りと疲れが見えて、自身の使えなさに落胆した。

 こういう時こそ俺が頑張らないと。

 そう反省し、律していると、彼女は俺の制止を聞かずに水を汲みに行ってしまった。


 嫌な予感がした。

 着いていけばよかったと未だ後悔している。

 少し考えればわかるだろう。武器の使えない生身の人間を一人にしたらどうなるか。

 疲労を言い訳に俺は行かせてしまったのだ。


 杞憂に終わることを願い、彼女追った。


 結果だけ見れば、彼女は無事だった。

 倒れ、意識を失っているが、外的損傷は無い。

 心底安心した。


 だが謎の魔石、強烈な光、そして彼女の手の甲の光る証。問題は山積みだ。


 まあ、あれもこれも全ては一つ戦いで吹き飛んで行くのだが。


 アナテマとの出会い。


 それが彼女を覚醒させた。


 ライラ・ブレイヴィは剣を握った。

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