第17章 後の因縁生まれし時

憧憬に捧げる一振の剣スパティ・ラフターラ……」


 白銀に輝き、私の半身程の長さをしているこの剣。

 呪いで弾かれることはなく、しっかりと剣を握ることができる。

 驚く程に手に馴染む。私のための、私のためだけの剣。


「軽くて……扱い易い」

支援者サポーター……テメェ!!」


 激情のままの突進。まるで猪か、闘牛か。

 振りかぶる短剣。興奮してるせいか、単調で読みやすい。


「ぐっ……重っ!」

「押し潰してやるよォ!」


 剣で受け止める。勢いのままに振られた短剣は、剣諸共私を押し潰そうと、‪”‬斬る‪”‬より押し付けてくる。


「あのガキが作った武器だろ?それ。ならよォ」


「簡単に折れちまうかもなァ!?」


 しまった。狙いは私ではなく剣だった。

 剣を折ろうと一回二回、短剣を叩きつける。


 折れ――


「ない!」


 腹を蹴られた仕返しに腹を蹴り返してやる。アナテマ程の威力は出ずとも、体制を崩し、少し飛ばす程度ならできる。


「剣が折れるかどうかは、その主人の力量次第だよ」

「アァ!?」


 バックステップで距離を取る。接近戦より更に近い距離は私が飲み込まれる。

 剣の間合いを把握しろ。リーチは私の方が上だ。


「ハァッ!」


 横に一閃、躱される。想定内。


「オラァ!」


 反撃の斬り上げ。想定内。


 回避能力が高い。伊達に暗殺者アサシンをやってないということか。


「オラオラどうした!?こんなもんじゃねぇだろ!?」

「うるっさいなぁ!」


 アナテマは加速し辺りを走り回る。

 速い。見えるが、予測ができない。


(どこから来る……)


 壁や天井を蹴り、減速することなく、一定のスピードを保って走っている。

 そのせいで隙や癖が掴めない。


「――ここだよバァ〜カ!」

「うぐっ……!」


 脇腹が、斬られた。

 深くはない。ヒリヒリする。痛いが、戦闘は続行できる。


「掴めるかァ!?俺の動きがよ!!」


 落ち着け、焦るな。レンが見てるぞ、みっともない。

 こんなもの、感覚で――


「……」


 余計な情報をシャットアウト。アナテマに、その動きに、耳を傾けろ、身体で感じろ。

 接近する瞬間。私を斬る瞬間。


 脇腹の一撃、やろうと思えば深くいけたはず。

 それをしないのは、甚振るためか?

 なら次は――


「ここッ!」

「ガバッ……!!」


 剣を持った右手。狙ってくると思った。

 予想した軌道通りに来てくれて、あとは柄頭を添えるだけだった。

 アナテマの右胸に、柄頭が食い込む。

 相当な速さでぶつかれば、そうなるのは必然。

 骨、イッただろうか。膝を着いて倒れている。


「適当な部位を浅く斬って、恐怖を覚えさせる」


「ガバッ……ゲホッ……」


「次に武装を解除させる」


「テメェ……わかって……」


「あとは足の筋、アキレス腱辺りを斬って逃げられなくして、弄ぶ。そんなところでしょ」


 こういう手合いは暗殺者アサシンというより、殺しを楽しんでるタイプの人間だ。


「さて、レンの足を折ったケジメは、つけてもらうからね」

「……」


 黙ったまま、動かない。項垂れているアナテマ。


「じゃあ――」


「んべっ」


 あ。

 口。

 舌。

 魔法陣。


霧煙スモーク


「くっ……トドメをっ!」


 辺り一帯が霧に包まれる。トドメを刺そうとしたが、既にいない。


「今死ぬわけにゃいかねぇからな。支援者サポーター、名前は?」

「どこからっ……はあ、ライラ、ライラ・ブレイヴィ。私の名前」

「ライラか。覚えたぜ。必ず俺が殺す。じゃあな」

「また返り討ちにしてあげるよ」


 霧が晴れる。アナテマの気配は消えており、追うことはできない。

 レンの手当をするために近付く。


「レン!大丈夫!?」

「……えぇ、大丈夫です。足を折られただけなので……」

「だけじゃない!……一旦地上に戻ろう」

「でも十七階層に……!」

「でもじゃない!……あ痛!」


 バチンと剣が弾かれる。呪いが機能し始めた。


「痛……また呪いが……あぁ〜脇腹ヒリヒリするぅ……」


 アドレナリンが切れて身体が痛い。


「ライラさん……わかりました。戻りましょう」

「……うん、戻ろ」


 疲れ果ててヘロヘロな私達は、十七階層をスルーして地上を目指すことにした。


 アナテマ。この時に殺しておくべきだったと、後に後悔することになるとは、今は思ってもいなかった。


 第17章

 後の因縁生まれし時

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