第16章 憧憬に捧げる一振の剣

 動けない。

 レンが時間を稼いでくれているのに、何も出来ない。

 情けない。

 不甲斐ない。


 慚愧に堪えなくて、でも砂を握るしか出来なくて。


「レン……レン……レン……!」


 悔しい。このままじゃコイツには勝てない。

 どちらかが逃げるなんてことすら出来ず、二人まとめて殺される。


 殺される。


 死ぬ?


 死?


 それは嫌だ。嫌だな。


 ――死にたくない。


「……あ?」


 身体が熱を帯びるのを感じる。体温が上がっているのか、それとも思い込みか。


「がぁぁぁぁあぁぁ熱いっ!!熱いっ!!」


 熱い。熱い熱い熱い。

 足が、顔が、胴体が。

 そして腕が、手が、その証が。


 ――熱い。


「ぐぅぅぅ……何……これ……!」


 痛い。その熱さは痛みに変わり、身体を蝕む。辛くて辛くて、しんどいけれど、今のレンに私を構う余裕は無い。


 だが、これは、もしかして。


「レン……が言ってた……やつ?」


 なら、ならば。


「私も……何か……役に……立てるかも……」


 本当かどうかなんて知らない。モンスターを倒せたなんてわからない。


 でも、私にレンを助けられるのなら。


「私が……レンをっ!あぁぁぁ!!」


 熱が、力が、一つに集約して行くのを感じる。

 足から胴に、胴から腕に。

 そして、右手の甲に。その証に。

 動かないと思った足は動き、力が入らなかった腕には力が。


「レェェェェンッ!!!」


 軽い。重く鈍かった足が、まるで全盛期の頃のように軽い。


「!……支援者サポーター?何故……立っている?」

「ライラさん!?ダメです!逃げてください!」


 千切られている蛇腹剣。凄い怪力だな。

 冷静に俯瞰する。


(レンをアイツから引き離したいな……)


「ふっ……ふっはははは!はなんだ!?面白い!」

「ガァッ……!」

「レン!!」


 レンの足が、折られた。これではもう引き離すとかの問題じゃない。

 アイツを叩きのめさなきゃならない。


「ライラさんッ!!」

支援者サポーターッ!!見せてみろッ!!」


「……レン、大丈夫だよ」


 大丈夫。大丈夫なのだ。

 根拠なんて無いけれど。絶対的な自信が、そこにはあった。


 そして何より――


「あ?」


 レンを傷付けたコイツは、絶対に許さない。


 拳を握る。素手での戦闘は初めてだ。


「ルールは守るものだよ、おバカさん」


 宙に舞ったコイツ……レンが名前を聞いていたような……。

 ……そうだ、アナテマだ。

 宙に舞ったアナテマは受身を取り着地する。


「面白い。面白いな支援者サポーター支援者サポーターだからと油断していたぞ」

「あっそ。アンタの言うことなんてこれっぽっちも興味無いから」

「生意気な口をっ!」


 短剣を逆手に持っての突撃。

 速い。だけど、見える。


「ふっ!」

「ガァッ!!」


 見えるのなら、受け流すのは容易い。


「流すか……ハァッ!」

「ぐっ……いったぁ!」


 短剣を受け流した隙にアナテマの蹴りが腹に炸裂する。

 威力が高い。吹き飛ばされた。壁に衝突する。


「受身!!」


 間一髪。ギリギリセーフ。壁を足で蹴って衝突を防ぐ。


「レンは……」

「余所見かァ!?」


 怒涛の追撃。


 躱す。

 躱す。

 躱す。


 身を捩り、躱す。受け流し、躱す。


(反撃が出来ない!!)


 正直侮っていたか。でも、ここで終わる程私だって!


「くらえッ!!」

「舐めんな!くらうかァッ!!」


 私が避けるのだから、当然相手だって避けるのだ。

 当たらない。


 慣れない素手での戦闘。病み上がりのこの身体。

 不味い。


 このままじゃ、ジリ貧だ。


 〜◯◎◉◎◯〜

 ライラさんが、戦っている。

 なのに俺は、動けない。


 俺が守ると言ったのに。

 俺が呪いを解く手伝いをするって。


「あ――」


 これが、ライラさんの気持ちか。

 情けなくて、不甲斐なくて。

 何かしたいのに、何も出来ない。


 だけど、ライラさんは。


「やっぱり……凄いなぁ……」


 防戦一方だけど、ジリ貧だけど。

 ライラさんは戦っている。


「俺にも出来ること……」


 何が出来る?

 今のライラさんに、俺が出来ることを。


「あの証……!」


 賭けてみるのもいいかもしれない。

 呪いに、ライラさんに。


「創造、形成。形作るは憧憬を救いし一本の剣」


「……導け。憧憬に捧げる一振の剣スパティ・ラフターラ


 一本の剣。それさえあれば彼女は、ライラさんは戦える。


「ライラさァァァん!!受け取ってくださぁぁぁぁい!!」

「!……了解!」

「何をっ!!」


 〜◯◎◉◎◯〜

 レンが叫ぶ、その声で私もアナテマも意識がそちらに向く。

 レンが何かを持っている。

 なんだ。あれは。


 ――剣だ。


 駆ける。レンに向かって。


 作ってくれたんだ。レンが、私に。

 呪いなんて知ったことか。私は例え弾かれてでも掴むぞ。


「レン……ありがとう、休んでて」

「はい……後は任せました……!」


 明確なアナテマの敵意を持ちながら、触れる。


 その剣に。


「――ふふっ」


「何をッ!しているッ!!」


 後ろから斬り掛かるアナテマを、剣で弾く。


「さあ、第二ラウンドといこっか」


 私の手には、しっかりと剣が握られていた。


 第16章

 憧憬に捧げる一振の剣

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