幕間 焦がれたその人 下

 暗殺者アサシン。よく出来た気配遮断だった。

 でも俺が気付けるということは彼女も気付いていたと思う。

 所謂三下。


 彼女を抱え、彼女の出す指示に従う。すると流れるように避けることができる。

 彼女は足枷だとか、私が足を引っ張っているとか言っていたが、彼女がいてこその勝利だと思っている。

 謙遜抜きで、本当に。


 突如彼女は俺から離れ、一人暗殺者アサシンの攻撃を避ける姿を見て、俺は――


 憧れたあの人の期待に、期待に応えなければと奮起した。


「だから守って!私が殺される前に……暗殺者アサシンを倒して!!」


 狡いと思う。そんな言い方。

 頑張らないといけないじゃないですか。

 失敗、できないじゃないですか。


 必死に避けて、避けて、避けて、体力が衰え呪いに蝕まれているというのに、彼女は。

 どこまで俺を信頼しているんだ。


 そして、結果的に暗殺者アサシンを捕え、彼女も無事だった。



 ――まあ、これは前座に過ぎなかったのだが。


 縛り上げた。縛り上げていたはずの暗殺者アサシンは、自由を手にしていた。


 最も、首だが。


 アナテマ。俺達の元に現れた最悪。

 出会って早々捕えた暗殺者アサシンを殺し、あろうことが彼女を傷付けた。


 許せなかった。ただ無闇矢鱈に突っ込んでも勝てないのは目に見えていた。

 だからといって、彼女を置いて逃げるなんてことは鼻から頭に無かった。

 とにかく彼女から離す為に距離を取る。が、速かった。見えなかった。

 ほぼ本能とも言える勘でその一撃を躱す。


 次は無いと思った。


 彼女を逃がす為に、隙を探す為に、時間を稼いだ。

 アナテマは慢心からそれに乗った。蛇腹剣を千切れた時には心が折れかけたが、俺は時間を稼いだのだ。


「レェェェェンッ!!!」


 俺の名を叫ぶ彼女。地に伏せていたはずなのに、立っていた。

 右手の甲を煌々と照らしながら、堂々と。


 瞬間、足を折られ、戦えなくなった。

 終わった。守れない。何も出来ない。

 これでは彼女が、死んでしまう。


 俺の心配は全て杞憂だった。


 彼女とアナテマの戦いは壮絶なもので、とにかく速かった。

 目で追うのがやっとな程に。

 ただ一つわかることは、彼女がジリ貧で押されているということだけだった。


 ――なら、何が出来る?


 守ると違った人が、目の前で俺を守る為に戦っている。

 なんて滑稽な話だろうか。


 何か。


 何か出来ることを。


 そう思っていると、証が目に付いた。

 突然の能力向上、輝く証、それを見て、俺は賭けることにした。


 ――憧憬に捧げる一振の剣スパティ・ラフターラ


 彼女の為に、彼女の為だけの剣。残存魔力を活動限界ギリギリまで込めた逸品。

 それを渡した時、俺は役目を終えた。


 こんな状況にも関わらず、俺は見惚れていた。

 華麗に、迷宮とは思えない程に、それはまるで芸術で、美しかった。


 憧れが、押し寄せる。

 そのせいか、はたまた体力の限界か、俺は地に伏せ、少し眠った。


 気付くとアナテマは、撤退しており、彼女が立っていた。


 俺の憧れた人――ライラ・ブレイヴィは勝利したのだ、あの最悪に。


 改めて、そして更に、彼女に憧れてよかったと、心底思った。


 ライラ・ブレイヴィは俺の憧憬。


 幕間

 焦がれたその人

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