第10章 死にたくない

「――さん!ライ――さん!」


「ライラさん!!」


「はぁっ!?……よかった、私生きてる……!」


 確か、レンと十六階層で……。


「あっ、えっここどこ!?」

「……すいません、崩れ過ぎたみたいで、多分十八より下の階層だと……」

「うそぉ!?」


 辺りを見渡す。

 流れる水、洞窟内は水が反射し全体的に青がかっている。

 ここは多分、二十階層より下だ。


「仮にここが二十階層だとして……四階層も落下したの!?」


 レン迷宮破壊し過ぎでしょ。


「ソロじゃかなりキツい領域まで来ちゃってるよ……」

「とにかく、上を目指しましょう」


 〜◯◎◉◎◯〜

 一向に上に続く道が見つからない。


「広い、広過ぎるよっ!」

「モンスターに遭遇してないのは幸運ですね……」


 空いた穴から登ろうとも考えたが、元々地盤が緩んでいたせいもあって、穴を塞ぐように崩れてしまっていた。

 幸い近くには水も流れている。水分には困らなそうだ。


「……はぁ……はぁ」

「ライラさん、一旦休みましょうか」


 目覚めてから何も補給せずに動き続けていたこともあり、自分でもよく分かるくらいには疲れていた。

 ここはレンの言葉通り休もう。


「ごめん、レン。やっぱ体力落ちてるや……あはは」

「謝るのはこっちの方です……ごめんなさい、逃げるためとはいえ、あんな無理矢理な手段で……」


 戦う術を持たず、ただ守られているだけの私に、どうしてレンを責めることが出来ようか。


「ううん、ああするしか出来なかったんだから、しょうがないよ」

「でも……」

「うーん……そうだ!水汲んで来るね!」


 ずっと凹まれるのもあれだし、一旦保留ということで。


「水場は気をつけて下さい!俺も行きます!」

「いーよいーよ、レンは休んでて!水汲むだけだし!」

「あっ、ライラさ〜ん!」


 少しくらい、レンの役に立たないとね。


 〜◯◎◉◎◯〜

「久しぶりに二十階層辺りまで潜ったかも」


 現役の頃だって、ここまで潜るのは余程のことがない限りなかったし、そもそも私は迷宮の最前線を走る人でもなかった訳で、深く潜るメリットがなかったんだよね。


「さ、水汲み水汲み……」


 確か迷宮の水は身体に害となる成分とかは無くて、そのまま飲めるそう。初めて飲んだ人は凄いと思う。

 だけど問題もあって、水中にモンスターが潜んでいることがあるらしい。


「パッと済ませば大丈夫かな」


 水筒の口を開き、水を入れ――


「ひゃあっ!」


 水流に伸ばした腕を、ジメッとした何かが、

 それは。

 その正体は。


「ダンジョンオクト!」


 赤黒く、八本足にそれぞれ吸盤の付いたうにょうにょとして気色の悪いモンスター。

 咄嗟に水辺から離れるも、絡み付いた足は離れない。

 反射的に剥がそうと水筒で殴ろうとするも


「あ痛!」


 私の手から弾かれカーンと音を立て転がる。

 忌々しい呪いだ。時と場合を選ばす発動してしまう。


「くっ……うぅあっ……」


 腕に一本、二本と絡み水中へと引っ張る。次第に私は力負けしていき、徐々に距離が縮まっていく。


「やだ……こんなところで……!」


 折角進歩を得られたのに。

 折角呪いを解けるかもしれないのに。


 こんなに呆気なく、終わるなんて。


 認めたくない。


 信じたくない。


 死にたくない!


「足が……絡み付いて……うぐぅ……!!」


 腕から肩、そして首。


 キュッ。


「カヒュッ……」


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 死にたくない。

 生きたい。

 まだ、生きていたい。


「はな……せぇ!」


 精一杯の力を振り絞り、片手で足を掴む。

 握り潰せるなんて思ってはいないけど、これが私の最大限の足掻き。


「うぅ……うぉぉおぉぉぉおぉぉ!!」


 その時、手の甲の証が輝いた。


 辺り一帯は強い光に包まれ――


 〜◯◎◉◎◯〜

「ライラさん……様子を見に行こう」


 思っていた以上に遅い。俺自身疲れがあったこともあって任せてしまったけれど、やはり軽率だったかもしれない。


 水が流れている方へと向かう。


「ここらへんだろうか……」


 そうして見回すと、突然、奥から強烈な光が。


「なっ……」


 急いで向かうと、そこには――


「ライラさん……?」


 倒れているライラさんと――魔石が一つ、転がっていた。


 第10章

 死にたくない

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