第9章 包囲、そして落下
早いもので十六階層。目的地である十七階層までは目と鼻の先。
そんな中私達は現在――
「嘘……」
「囲まれた……!」
モンスターに囲まれていた。
〜◯◎◉◎◯〜
「もう十六階層かぁ……」
「あと一階層です。頑張りましょう!」
これといったイレギュラーに遭遇することも無く、ここまで来た。
あまりのトントン拍子に、少し拍子抜け。
このままの勢いで呪いも解いちゃって?
なーんて、十七階層行ったからといって、呪いが必ずしも解けるとは限らないんだけど。
そんなフラグじみたことを言ってみたりしたり。
「ライラさん!」
「へっ?」
「バットファングの群れが進行してきてます!」
「うぇ!?」
的中。最悪。あまりの回収の速さにため息も出ない。
ウェアウルフより1.5倍程大きいバットファング。その群れ、五六七……八体が私達を狙っていた。
「流石に……数体のバットファングを相手にするのは…っ!」
「一旦引こ――なっ!?」
後方、私達が来た方向からの追撃。プラスでバットファング四体。
計十二体のバットファングに取り囲まれてしまった。
口からはみ出た殺傷力の高そうな牙を伝い垂れる涎は、まるでご馳走を前にしてるが如く滴っていた。
この場合、ご馳走とは。
「私達だよねぇ……!」
悲しいかな、こんな状況でも今の私は役立たず。
レンに頼らざるを得ない。
「大丈夫です。必ず守ります」
「レン……」
だけど状況は絶望的。近くに他の冒険者の気配も無い。
レン、一体どうするつもりなの?
「一体。一体だけ狩ります」
「一体だけ……どうして……?」
「バットファングの牙が欲しいんですッ!」
そう言うと、レンは少し他のバットファングと孤立していた個体をすぐさま狩る。ドロップ品として落ちた二本の牙を拾い、私の元に戻ってきた。
この間僅か五秒程度。なんという早業。
「よしっ、これで……手荒い方法になりますが……ライラさん!」
「ふぇ!?」
いきなりグイッと抱き寄せられる。
突然のことに思考が追い付かない。
そんなこと気にもせずにレンは詠唱を始めた。
「創造、形成。形作るは自在に地を抉る錐」
バットファングの牙がレンの魔力を纏う。それはまるで錐のように鋭く、尖っていた。
「響け!
レンと私を中心に、半径2m程の円を描く。
円をなぞるように、牙削錐は回転を始めた。
「このまま十七階層まで落ちます!衝撃に備えて!」
「え、えぇ……えぇぇええぇぇ!!」
牙削錐は回転し地面を削る。砂埃が起こり、視界が悪い。
やがて削られた地面、その深い溝は、バットファングと私達を別つ境界線のように。
「ハァアッ!!」
「レン!?何を――ひゃあ!」
震脚。いや脚に魔力込めた魔震脚と言ったところか。
踏みつけられた地面はあまりの威力に耐えることが出来ず、崩壊。
深い溝が防波堤になり綺麗に円形に崩れていく。
そして、落下。
そして、十七階層。
第9章
包囲、そして落下
用語解説
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