第8章 意識

「ふ、ふーん ? 」


 いや、いやいや。 思い出した。思い出したよ。 あの時のちびっこが?レンだって?


 結び付かない!


 人って変わるんだなあ。

 どちらにしろ、ここまで想ってくれるのは素直に嬉しい。


 それに


「は、初恋って……」


「……はい。俺はライラさんのことが――好きです」


「めいきゅうでいうことじゃないよぉ……」


 改めて言われるとヤバい……頭が茹で上がっちゃいそう……!

 生まれてこの方告白なんてしたこともされたことも無い私にそれはマズいよぉ!


 心臓の鼓動が速い。緊張してるんだ、私。


「あっそうだ!返事 !」

「いりません」

「えっ」


「まだ、恩返しの途中なんです」


 恩返し。呪いを解くことが恩返しってこと?


「それが終わってから、返事をもらってもいいですか ? 」


「いい……けど」

「はい!」


 拍子抜けしちゃった。てっきり今返事を出さなきゃいけないものかと。

 とにかく、呪いを解くまでは判断する時間があるってことだよね。


「それに、迷宮で告白なんてロマンチックじゃないですもんね」

「そう……?そうかも……」


 じゃないも何もされたことないからわかんないんだけどね。


 そして休憩を終え、先に進むことにした。


 〜◯◎◉◎◯〜

 十五階層。十四階層までの大森林から一転、木々なんて一切無く、まるで九階層までの洞窟が 戻ってきたような地形。

 違いがあるとすれば、水気が多く、洞穴水がところどころに溜まっていることくらい だろうか。


「んー涼しいねぇ」

「ですねぇ」

「…」


 なんかすっごい気まずい。

 でも わかってる。私が勝手に意識してるだけだって。

 思い返すと手を繋いでたのが助ずかしくなってくる。

 なんだかレンの顔を見れないし、近いと距離を取っちゃう。


「あ一っと、前にモンスター。3体かな?」

「了解です!」


 駆け出していくレン。颯爽とモンスターを切り裂き、駆け足でこちらに戻ってくる。


「大丈夫です。進みましょう」

「う、うん……」


 まるで弟みたいと思っていた青年に、ドキドキさせられている。

 なんだかぼーっとしちゃう。


「ライラさん?大丈夫ですか?」

「……えっあっうん、大丈夫……大丈夫」

「無理しないでくださいね」

「うん……ありがと」


 ここまで己は初心だったのかと、反省する。

 たかが年下の男にここまで情緒を乱されるとは思いもしなかった。


 実際、私は彼のことを、レンをどう思っているのだろうか?


 弟みたいな存在?


 お友達?


 それとも――


 明確な答えが出ることはなく、モヤモヤした気持ちを抱えながらも迷宮を進む。


「ライラさん、モンスターが多そうです。下がってて下さい」

「…」

「ライラさん!」

「あっ!ご、ごめん、下がってるね」


 壁の方に寄り、眺める。

 素早い身のこなしでモンスター達の攻撃をヒラリヒラリと避け、得意の創造魔法で敵を切り伏せる。


「ハァッ!」


 変幻自在に武器を変え、手数の多さでモンスターを圧殺する。

 その姿に思わず――


「格好良いなぁ、レン」


「!?」


 今、自分はなんと言った?

 格好良い。確かに、レンの戦う姿に格好良いと言った。

 認める。レンのその姿に見蕩れていた。

 なんだかおかしい。


「今は呪いを解くことに集中しなきゃでしょ!」


 頬をパチンと叩き、引き締める。

 レンが呪いを解くことに付き合ってくれているんだ、私が真剣に考えなくてどうする。


 呪いを解いて、応えを出そう。

 それがレンにとって嬉しい応えになるかどうかは、私にもわからないけれど。


「最後ッ!」


 最後の一匹を狩り終えたレン。


「返り血、付いてる……あ」


 顔に付いた返り血を拭こうとする。だけど途端に緊張してしまう。


「こ、これ、渡すから……拭いて」

「ん?はい、わかりました」


 これから、慣れることは出来るのだろうか?


 そんな心配を胸に、十七階層を目指すのだった。


 第8章

 意識

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