第7章 命の恩人 下
当時の俺は、好奇心旺盛で、何にでも突っ込んで行く子供でした。
無知ゆえに恐れ知らずで、一人でどこまでも行ける気がして。
そんな俺が迷宮に興味を示すのは、必然だったのかもしれません。
「母さん!迷宮ってところに行ってみたい!」
母は街で青果店を営んでいるシングルマザー。父は俺が生まれる前に亡くなったそうで、冒険者だったそうです。
「ダメよ〜レンが行ったらこわあ〜いモンスターに食べられちゃうわよ〜!」
「わぁ!」
子供ながらに母が怖がらせて迷宮に近寄らせないようにしたのはわかりました。
ただその時の俺には、更に興味が深まるだけでした。
〜◯◎◉◎◯〜
一度付いた火は簡単には消えず、どうしても迷宮に行ってみたかった俺は、行動に出ることにしました。
「ここが迷宮……!」
街で見つけた冒険者の後をつけ、子供の小さい身体を利用して迷宮まで転がり込んでしまったんです。
「わぁぁぁ……!」
どこを見ても初めての光景に、俺はいつになく興奮していました。
後先を考えないほどに。
気付けば深く潜ってしまっていました。
六階層。俺がライラさんと初めて出会った場所。
運が良かったんだと思います。
モンスターにも出会さず、冒険者にも見つからず、順調に進めてしまった。
「あ、あ、うぁああぁあぁああ!!!」
ウェアウルフ。当時の俺からしたらどんなモンスターより恐ろしかったと思います。
腰を抜かし逃げることも出来ず、助けを呼んでも冒険者は来ない。
子供にとって曖昧な”死”という概念をはっきりと感じました。
『ガルルルルッ……』
「ひっ、だッ誰かぁ!!」
心の中で母に謝りました。
ごめんなさい。言うこと聞かなくてごめんなさいと。
『ガゥルッ!!』
その時です。
「え……?」
ウェアウルフが縦に一閃、薪割りが如く割れたんです。
困惑と助かったのではという感情の渋滞に追いつけないでいると。
「君っ!大丈夫!?」
ライラさんが声を掛けてくれました。
「なんでこんなとこに子供が……ってそんなことより!怪我!してない!?」
「……してない……です」
「よかったぁ……ダメだよ!君みたいな子供が迷宮なんか来ちゃ!」
正直にいうと、この時のライラさんのお説教は全く聞いていませんでした。
――ただ、貴女に、ライラさんに見惚れていたんです。
「まぁ来ちゃったものは仕方ないか。じゃあ地上まで連れてったげるからほら」
「うん……」
ライラさんにおぶってもらい、地上まで連れってってもらいました。
その後、ライラさんはついでと言って家までおぶってってもらい、母に挨拶をして帰っていきました。
「もう!二度とこんなことしちゃダメよ!!……でも無事で良かった……本当に」
「ごめんなさい。母さん……」
これが、ライラさんに協力する理由であり、俺の恩返しです。
ライラさんは俺の命の恩人であり――初恋の人、なんです。
第7章
命の恩人
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