幕間 レンの内情
あの時、まず思ったことは、”変わってないな”だった。
自身のことより誰かを優先し、何でも一人で解決しようとする。
彼女は強い。そこに、惹かれた。
でも、今の彼女は――
〜◯◎◉◎◯〜
「なんで剣を抜かないんですか!?」
ウェアウルフの追われているライラさん。
(そんなモンスター、貴女なら瞬殺でしょう!?)
逃げる背を家々の屋根を渡り、追う。
しかし、ライラさんに手を引かれ一緒に逃げるあの受付嬢。
ギャーギャー泣き喚いて、なんだ??
ライラさんと一緒なんだから安心だろうが。
「……むかつくな」
複雑な道に入っていく二人を、見逃さないように追うのだった。
『ライラさん!無茶です!無謀です!無鉄砲過ぎますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
『だからって何もしない訳にはいかないでしょ!?』
遂に追い詰められてしまった二人。
「……なぜ、ライラさんは戦わないんでしょう」
意図が、意味があるはず。
(民間人の避難を優先?いや既に済んでる。あの受付嬢?非戦闘員一人いる程度じゃ逃げに徹する理由にはならない…なら――)
「剣を……使えない?」
その腰に下げた剣を使わない理由としては、残念だが納得してしまう。
じゃあ何故使えない?
俺の知っているライラさんは、剣を華麗に操り、ばったばったとモンスターを斬り伏せる姿。あの格好良い姿。
一体なにが――
「アルムちゃん!立てる!?」
ライラさんの大声でハッとする。
今、すべきことはなんだ?
「私が引き付けるから、アルムちゃんは救援を呼んできて!!」
流石はライラさん。状況判断が早い。
でも救援…やはり使えないのは確かなようだ。
だとしたらマズくないか?
当たり前な話、地上の生物…多くは人間だが、それと迷宮内のモンスターでは、戦力差が違う。
圧倒的にモンスターの方が上になる。
しかし、その戦力差を埋めるのが武器になってくる。
生身では勝てずとも武器を持っていれば命の取り合い、対等に戦うことができる。
逆に言えば、武器を持たない人間は、モンスターにとって対等ではないということ。
言わば餌である。
あのライラさんと言えど、生身で戦えば只では済まないだろう。
そんな時、受付嬢を逃がすために投げたであろう小石が、弾かれた。
(!?)
「「呪いか!」」
見事にライラさんと被る……がその正体がわかった。
(呪い……武器の使用を封じる効果?小石すら弾くとなると…シビアだな。そもそも何故地上で呪いが続いている?)
謎が謎を呼ぶが、今気にすべきは助けに入るかどうかだ。
(救援と鉢合わせたら面倒だな……身分とか聞かれるよね――なっ)
壁を蹴り方向転換。勢いそのままにウェアウルフの爪が、ライラさんに。
悟った瞳。諦めたようなそんな目を、していた。
ダメだ、ダメだよ。ライラさん。そんな顔しちゃ。
まだ諦めるには早すぎますよ。
だから、俺が。
足に力が入る。踏み込み、魔力を込める。
創造、形成。
形作るは邪悪を貫く大剣。
「ふんっ!!!」
高く舞い上がり、ウェアウルフを目視、ロック。
風を切り、重力に押され加速する。
狙うは奴の背。
「貫け!!」
あ。
(着地格好良くしなきゃ!)
人の印象は出会って三秒で決まると言われている。
ここで着地をミスってダッサいところなんて見せたら……。
『助けてくれてありがとう!でも…ダサっ』
「ぐはぁ!!」
冷静に着地して声を掛けよう。それが無難で警戒されなさそうだ。
態勢を整え、既に貫かれ息絶えているであろうウェアウルフをクッションに、灰になってしまう前に着地する。
「……大丈夫ですか……ライラさん」
ライラさんとの初コンタクト。
〜◯◎◉◎◯〜
(
少し、見つめ合う。
「き、君は一体……」
まぁ忘れられてると思ってました。悲しいけど、これが現実。
「あー……まぁ覚えてませんよね……。身長も伸びたし」
身長を引き合いに出しちゃう辺り結構傷ついてるなぁ俺。
それにしてもライラさん、六年も経ってるっていうのにそこまで変わってないなぁ。
返り血が付いて尚劣ることのない緋色の髪は、あの時よりもサッパリとしたショートになっている。かわいい。
髪色と同じ緋色の瞳はじっと、俺を見つめて――は??
頬に傷が、血が、付いている。
瞬間、魔石を踏み潰し、躙る。
「ライラさんの顔に傷を付けた罪は重いぞ……って死んでるか、うん」
もっと早く行くべきだった。
考えが甘かった。そもそもさっきだって危なかったのだ。
どこまでいっても人間なんだ、彼女は。武器が無くちゃ戦えない。
俺が守らないと。
「俺、レン・ファンドって言います。……覚えといてください」
「……うん、わか……った?」
彼女を、ライラさんを守ろうと、決めた。
幕間
レンの内情
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