第1章 ライラと呪いと冒険者
「ライラさんが無事でぇ……ほんとうによかったですぅ〜!」
「はいはい、抱き着かない抱き着かない」
私の胸辺りほどの身長のアルムちゃんは、泣きながら私の胸に顔を埋める形で抱き着いている。
華奢で丸っこく、守ってあげたくなる受付嬢ランキング1位(当社比)のアルムちゃん。
私のお腹にたわわメロンが当たっているのが、ランキング1位(当社比)をかっさらっていった理由を物語っている。
そのダークブラウンのサラサラロングヘアーを優しく撫でて宥めると、にっこりと笑う。可愛い。
レン・ファンドと名乗ったあの青年の行方は知れず、世間は街に漏れ出たモンスターの話題で溢れていた。
「ライラんとこ以外にもよォ、何ヶ所か被害出たらしいぜェ」
「……ぐすっ。それなのにランドさんは呑気にお酒呑んでましたぁ」
「ア”ァ”!?基本
それはなんか違くない……?とツッコミそうになるが抑える。余計なことに噛み付くと問題を増やしてしまうものなのだ。
「ンなことよりよォ、ライラ、お前これからどうすンだ?」
「どうするって……何が?」
「呪いだよ、呪い。本来なら今回の
何も言い返せない。
冒険者としての義務を果たせていないのだ、私は。
それはアルムちゃんは思っているようで、静かに頷いていた。
呪い。迷宮に潜っていると稀に生じるデバフの1つ。モンスターや迷宮のギミックによって陥る。
その多くは
「お前、解呪出来てねぇンだろ?」
「……うん。知り合いの魔術師にも、それらしいポーションも使ってみた」
「でもダメだった……ですよね?」
「……うん」
どれも効かない、効果が無い。
手の甲に刻まれた呪いの紋章は、消えることは無かった。
「そもそもよォ、なんだよ”武器が使えない呪い”って」
「私に言われても……」
”武器が使えない呪い”、私に刻まれた呪い。
名の通り武器の使用が出来なくなる。剣も弓も何もかも。
弾かれるのだ、こうバチッと。
武器の定義が難しく、様々なものを試してみた。
例えば、包丁。普段使い…料理などは平気なのだが、モンスターや人に向けるとなると弾かれる。
極端な話、戦闘に使用しようとすれば、紙切れ一枚だって武器として認識され弾かれる。
「このままだとライラさんは冒険者に復帰できないですよぉ……。
「……そうだよねぇ」
このままだとマズいのは私も理解している。
でも手立てが無いのだ。
唯一のヒントは迷宮で呪いを刻まれた時の記憶のみ。
「というかよォ、呪いを食らった原因はなんなんだァ?」
「えっと……迷宮……17階層かな、確か。そこで人型の見たことも無いモンスターと戦って……それで……」
「意識を失っていたところを、偶然発見した1パーティに運ばれたんでしたよね……」
「そして目覚めたらこの紋章が……」
「なに1人で潜ってンだよ!」というランドの指摘は華麗にスルーし、思い返す。
人型のモンスターと対峙した時点で記憶が曖昧になっていて、逆に怪しいのだ。
確信できる。そのモンスターと呪いは関係ある。
「当面はそのモンスターの捜索……なんだけどなぁ……」
「武器がなきゃ迷宮は潜れねェ、か」
基本的に特別な許可がない限りは手ブラでの迷宮探索は禁止となっている。
それは雨の日に傘、メモ帳にペンくらい当たり前のことで、当然私も例外ではない。
そのため、手掛かりを掴もうにも物理的に無理なのだ。
実に難儀な呪いで、私の頭を悩ませる。
「まァなんだ、今日は色々あったからなァ。
落ち込む私に、気を使ってくれたのか、ランドは「今日は解散だァ」と言い去っていった。
「私は本部に戻りますね……今回の件で色々やること出来ちゃったのでぇ……」
「そっか。ありがとね」
「お気を付けて〜」とアルムちゃんも行ってしまった。
「ほんと、どうしようかな」
ここで深く考えても切りが無い。ランドに言われた通り帰路に着いた。
〜◯◎◉◎◯〜
「こんにちは」
「わぉ」
何の変哲も無い閑静な住宅街。空き家ばかりで閑静過ぎるという点を除けば、だが。
そんな家々が立ち並ぶ中、明らかに異質な存在が、あろうことか私に声を掛けてきた。
黒黒黒黒。
デジャブを感じざるを得ないその風貌に、思わず間抜けな声を上げてしまった。
レン・ファンドと名乗り去っていったその青年は、今、私の目の前にいる。
「こんにちは、ライラさん」
「レン・ファンド……」
「覚えてくれてたんですね。嬉しいなぁ……」
にっこりと、彼は笑った。
第1章
ライラと呪いと冒険者
用語解説
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