第4話

 白瀬奏は、休み時間になると毎回席に来て、次の授業の持ち物やら何やらを確認してくれる、言わば召使いのような存在だった。

 そしてお弁当を食べる際も、椅子を取ってきて一緒に食べてきた。そして美味しそうな唐揚げを乗せてきた。まあ本当にいい人ではあると思う。

 と思ったのも束の間。


「卵焼き、好きでしょ」

「好きだけど、なんで知ってるの? ストーカー?」

「え、いやいや違う違う。みんな好きでしょ卵焼きなんて。ほら食べてどの味が好き?」


 と言い出し取り出したのはタッパー。そこには大量の卵焼きが。


「味付けがそれぞれ違って、どの味が好きなのか教えて欲しいんだけど、いい?」

「駄目。怖いんだけど。一番好きな食べ物なの知ってたの?」

「え! 知らなかった」


 と、ニコニコしながら言う。この反応は本当に知らなかったっぽい、か。いや知ってたら怖いし普通は知らないはず。でも自己紹介カードには書いたか。先生に提出しただけで白瀬が知っているのはおかしいけど。


「まぐれ?」

「卵焼きって家庭の味でしょ? 胃袋を掴むためには、好みの味を把握しておかないと。てことでこれ」

「……甘めのやつかな」

「あ、じゃあここら辺が甘いよ」


 と、何個も並ぶ卵焼きを指差す。縦六つ、横四つでざっと二十四個くらいだろうか。全て味が違うのかはわからないが、こんなにも食べたらお腹がいっぱいになる。


「じゃあ一つ貰うね」

「……どう?」

「美味しいよ」

「お母さんのとどっちが好き?」

「お、お母さん。」

「甘すぎたなら左側で、もう少し甘いほうがいいなら右側のやつ食べて、一番好きな卵焼きを教えて」

「ええ……」

「じゃあ私残り物をみんなに配ってくるから」


 そう言って鞄から卵焼きの入ったタッパーを出すから驚きだ。

 そうして白瀬は「余ったから」と言って、クラスのみんなに分け隔てなく卵焼きを渡しに行っていた。何気にコミュ力がある。


「白瀬ってやばいやつだよな。なんで好かれてるんだ? 知り合い?」


 遠巻きに白瀬を眺めていたら小野田くんに声をかけられた。

 

「全然知らないのよ。一目惚れって言ってたけど、あり得なくない?」

「あり得なくないはないと思うけど、だって好かれてるんだろ?」

「白瀬みたいな美貌なら分かるけど、こんな私のどこが」

「うーん、なんていうかな、」


 と、じっと小野田くんに見つめられる。

 そんなにまじまじと見られたら恥ずかしいんだけど……。


「浅見さんは、スルメみたいな。ハマってくタイプだと思う」

「尚更白瀬に好かれてるのが謎じゃん!」

「何か輝くものがあったんだよ。白瀬さんって価値観独特みたいだし、やっぱ選球眼も良いんだろうな。浅見さんの未来が見えたんじゃないか」

「上手いこと言ってるようで、そんなに言えてないからね」


 そう言って私は自分のお弁当を口にした。


「何話してたの?」

「どうして私のことを好きになったのかなって」

「難しいことを話してるね。うーん、どうしてだろ、面倒見がいいからかなあ」

「出会って三日なのに」

「そう言えばそうだったね。結論は出たの?」

「うーん……」

「浅見さんの光る何かを、白瀬さんの目には見えたって思ったけど、どうだ!?」

「いい線言ってるね、小野田君も卵焼き食べる?」

「まじ? いただきます!」


 うまー、と口をこぼした小野田くんは「こんな嫁もらっとかないと損だぜ」と言ってきた。こやつ……。

 そんな白瀬の卵焼きはもうなくなっていて、凄いなあと感心するばかりだった。


「てか優香ちゃん全然食べてないじゃん!」

「お母さんのでいい」

「今度お母さんにレシピ聞いておいてくれない?」

「それならお母さんに作ってもらうからいらないわよ」

「……打倒お母さん?」


 白瀬が真剣な表情でそんなことを言い出したのでつい呆れてしまった。早く食べないと、昼ごはんの時間はなくなってしまうけど。

 そんなことを気にしていないのか、思考にふける白瀬を横目に、私はお弁当を食べ終えるのだった。


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