第3話

 昨日のラインは全て既読スルーをして、私は学校に到着していた。全て夢だと思いたかったけど、どう足掻いても無理だった。

 まだ数人しか教室にはついていないようで、とても静かな空気だった。のは、束の間──。


「優香ちゃん」

「白瀬……。え!?」


 嫌な予感どころではない。手に抱えていたのは赤い薔薇の花束。それも百本はあるだろうか、それくらいの大きさ。


「付き合ってほしいです!」


 これは学年一のアホとも噂される予定の、白瀬奏だ。正直縁を切りたい。


「何してんの!?」

「考えたんだけど、私には分からなくて」

「友達から始めようって話したよね?」

「……駄目かな?」

「……っ!」


 ちょっと美人だから絆されそうになるのが、本当に嫌だ。こいつ、顔が良いから自信もあってこういう行動できるんだろう。


「駄目。てかどうするのそれ? 邪魔じゃない?」

「え、貰ってくれないの?」

「貰うには貰うけど、こんなにいらない……でしょ?」

「そ、そっか」

「なんでそんなにズレてるの? ていうか、これ結構値段するでしょうに」

「……あはは、家がお金持ちで」


 美女、成績優秀(多分)、金持ち。

 この世の全てを揃えてるじゃないか。嫉妬で狂いそうだ。そんな彼女がどうして私なんかに構っているのか謎が深まる深まる。


「ていうか、目立ちたくないって言ったよね」

「けれど、私なりにけじめをつけたくて。人も少ないからいいでしょ?」

「いや、二、三人に見られてるだけで大問題なのよ」

「あはは、言わないでねー」


 そんなふうに雑に口止めしても絶対広まるでしょうが!


「もう少し考えて、お互いについて分かって、それでも尚好きなら、また告白して」

「……うん。」


 白瀬奏は、常識外れだ。多分、お嬢様で何らかの理由でこの学校に来たから、何も知らないのだ。


「ていうか、優香ちゃんに嫌われたかと思ったよ。返事してくれないから」

「しないわよ、朝まじまじとLIME見てる隙もないし」

「本当に良かった」

「で、よく告白できたよね」

「まあ嫌われてはないとは思ってたから」


 可愛げ無さすぎでしょ。なんでこんなにすぐに矛盾するの?


「さっき嫌われてるかもって」

「そう簡単に出会って二日のちょっと気持ち悪い人なんて嫌わないでしょ?」

「…………」

「ご、ごめん。っていう信頼かな。私自分にはそれなりに自信があって」


 まあ、その顔面で生きていけばそうなる。それで勉強もできて、運動ができそうなスレンダーな体型だから、向かうところ敵なしだ。


「なんでうちの高校に来たの? 公立だし、お嬢様が来るにはあんまりイメージが湧かないんだけど。しかも偏差値も普通くらい」

「ほら、新しい生活がしたいと思って。あんまり普通っていうのは知らなかったから、知見を深めるためにもね。高校なんてどこ行っても大学には影響しないでしょ?」

「確かに……ね」


 賢そう。将来安泰って感じの雰囲気。


「そういえば、中学は女子校から来たりした?」

「なんで?」

「余裕というか自信というか、なんだか常識外れで」

「女子校だったね。お父さんが過保護で、まあ……良いところ通ってたかな」

「モテたの?」

「はは、まあ、それなりに?」


 と、いうことだ。

 まあ大凡自分がアタックすれば簡単に落ちるとでも思ってるのだろう。しかし私はそうはいかない。共学姉妹持ち常識はある、彼女とは違う。そう簡単には落ちない。

 この常識外れっぷりは蝶よ花よと甘々と育てられてきて培ってしまった性格なのだろう。まあ治せたら治してあげたい。


「お父さんはここに来て反対しなかったの?」

「うん、猛反対! 将棋で勝って認めてもらったよ」


 独特である。変人の父も変人か。


「そっか、大変だったね」

「そうだね。でも優香ちゃんに出会えて嬉しかったよ」

「それは、ありがとう」

「ううん! ねえ部活動一緒に見に行こうか。放課後空いてるよね?」

「まあ」

「やった。何に入るかは決めた?」

「全然、でも文化部かな。運動が得意って訳でもないし」

「そっかあ」


 そうして話しているうちに段々と教室に人が増えてきた。もうすぐ朝のホームルームが始まるみたいだ。

 そこで、私は失念していた。


「なあ、浅見さん、そのバラ何?」


 たった今来た隣の席の小野田くんにそう言われた。そう、赤い薔薇の花束。しまい場所にも困るが、白瀬はずっと持つのが疲れたのか私の机の上に置いていた。


「な、なんだろね。白瀬が持ってきて」

「そう、あげたんだよね」

「どういうことだよ、プロポーズでもしたのか?」

「…………」

「そう、そんな感じかな」


 小野田くんは笑っていた。心底信じられないという顔で。でも、昨日の会話を少し聞いていたのもあるのだろうか、全く疑いはしなかった。そして何より、薔薇の花束がそれを確約されていた。


「そう、お幸せに」

「ちょっと、違うの! これはお見舞い? の花で」

「薔薇なんて見舞いに持っていかないんじゃない?」

「し、白瀬……!」

「……何か困ることでもあるの?」

「あるでしょうが馬鹿! これお金持ちジョークらしいから、あんまり真に受けないで。馬鹿にされるよ」

「あはは、そっかそっか。俺は偏見ないけど」

「……っ」


 白瀬のことを睨むが、全く怯まない。どうして入学三日目でこんな目にあわないといけないんだ。


「ごめんね優香ちゃん、でも牽制しておかないと」

「何からよ!」

「え〜? 全部?」

「本当に常識外れ……そんなに人って恋愛しないから」

「ごめん、でもこれで誰かが優香ちゃんのことを好きになっても、私のことが脳裏に浮かぶよね?」


 重。これはいつか刺されちゃうんじゃないかな。


「ひゅ〜」

「ほんと最悪……」

「ごめんね」

「思ってないでしょ……」


 こうして、白瀬奏が私のことが好きだという情報は瞬く間に広がったのだった。

 ちなみに、花束は五本貰って、あとはみんなにお裾分けした。




***


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@hanihaya828

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