第4話 必ずしも完璧な解明が救いとは限らないと思うの
「俺の悩みは悩みが分からないことです」
俺はそう言いながら、おかずを口に運ぶ。食卓に出されてから、かなりの時間がたっているのでおかずは冷めきっていた。
「ん?どういうこと?」
お姉さんはそう言いながら、おかずを指でつまむ。手は洗ったのか?
「あー、簡単に言うとやる気がわかないってことです。それと手を洗いました?」
「すまない。お腹が減っていてね。それで?最初に「悩みが分からないこと」って言ったのはどう言う意味が?最初から「やる力がわかない」だけでは駄目だったのかい?」
「それだけだったらいいんですけどね。「やる気がわかない」にも種類があるじゃないですか」
俺はお姉さんに箸を渡すべく立ち上がりキッチンで箸を入手し、お姉さんに箸を渡しながら
「やる気が一切わかない、やる理由が見つからない、やらないといけないと思いながらも手が付けられない、別のことが楽しすぎて手を付けられない。いろんな「やる気がわかない」があるんですよ」
と答えた。するとお姉さんは箸を受け取りながら
「君はどのタイプなんだい?」
そう質問してきた。やっぱ聞かれるか、、、まぁ予想をしていないわけでもないが。
「俺は今上げたどのタイプでもないですね」
「と言うと?」
「やる気はある。やらなきゃいけない理由もある。けど何故かやりたくないってタイプですね」
「それは矛盾してるように感じるんだけど?」
「けど事実そうなんですよ。本人にすら「何故やりたくないのか」が分からない、そんな悩みを解決ができるわけがないじゃないですか」
「悩みが分かれば解決できるじゃないか」
「それができたら苦労しま」
「「死ぬ予定」だったんだろう?」
そこ突かれるの痛いなぁ。そう思いながらもともと座っていた場所に戻り、味噌汁で箸を濡らしごはんを食べる。
「まぁ、少なくともいつからその状態になったかはわかるはずだ」
「えーと……」
思考をめぐらす。確か……
「2年生の中間考査が終わったあたりですかね?」
「芸能学校のテストってどんなものがあるんだい?」
「普通に5教科だけですけど……」
「演技の実技試験はないのかい?」
「月一で小テストはありますけど、大きいのは期末だけですね」
「ふむ……」
お姉さんは一通り質問を終えると、悩むように腕を組み黙り込む。しばらくの間沈黙がこの場を支配する。なんとなく、気まずくなりお味噌汁を音を立てて啜る。
「ズズッ」
「あっ!!」
「ごほぉ!!おぇ……なんですか急に……」
「あっすまない」
急にお姉さんが叫ぶのだから味噌汁が詰まってしまった。俺は呼吸を整えお姉さんの方を向くと。
「いきなりだが、君に質問だ。ズバリ学費と生活費はどこから、どうやって出ている?」
「え?」
俺はお姉さんにその話を一度した気がするのだが、どうしてまた聞いてきたのだろう。
「さっき君は親の仕送りって言っていただろう?」
「まぁそうですけど……」
「そして、この家の立地……普通、高校の近くの場所に住むはずだ。しかしこの家は遠い場所にある」
「んまぁどのご家庭もそうだと思いますけど、学校近くの物件って高いですし、できるだけ家賃を安くしたいですし」
「確かにそうだ。ただ、ここの地価と学校近くの地価に大した差はない。たしか大体1000円くらいだっけな?」
何が言いたいんだ?
「当時の値段と今の値段は変わってるかもしれないし、家賃はできるだけ少なくした方が……」
「1000円つまりは、高校三年間と考えると、単純計算で36000円の差。芸能学校に通わせるような親がためらう金額かな?」
「何が言いたいんです?」
俺は少しイラついた声で質問した。
「私は昔から遠回しな表現が苦手でね。失礼だけど言わせてもらうよ」
そう言うとお姉さんは少し間をおいて口を開いた。
「君の家は貧乏だろう?」
「はっきり言いますね。」
「そうじゃなきゃ、最初にあんなこと言わないよ……話を戻そうか結局どうなんだい?」
「まぁそうですけど……」
「しかし君は芸能学校という私立高校にに通えている。そのお金はどこから来たんだい?」
「……じぃちゃんが遺言で遺産を使っていいって言っていてそれで、それで俺は」
また逃げたくなってきた。いつもそうだ。俺はよく逃げるという選択を取る。俗に言う「逃げ癖」と言うものだろうか、たとえ「立ち向かう」と言う選択肢があっても……
「そこまででいい」
「え?」
お姉さんにそう言われ現実に戻ってきた。戻されてしまった。
「そこまででいい」
「どうして……?」
夏なのに汗をかいてるからか、クーラーの風がやけに寒く感じる。
「私は「どこからお金が出ているのか?」しか聞いていないよ?それ以上は聞いていないし興味もない」
「それで次の質問は……」
俺は覚悟を決めた。もう逃げない、向き合って見せる。今まで悩んでいたのは向き合っていなかったか……
「いや別に大丈夫。もうわかったから」
「へ?」
「うん。今から君の悩みを晴らしていこう」
「俺の覚悟とかは……」
「うん。意味なかったね」
「そうですか……」
「それじゃあ、君の取るべき行動について話そうじゃないか」
「はっはい!」
なんだか少し緊張する。なんだかんだ今まで人生相談とか、占いとか一度もやったことないから、こうして、ちゃんと人にアドバイスをもらうことなんて、、、
「とりあえず、このまま学校に通いながら、私の協力者になってよ」
「は?」(疑問)
「よーし、前哨戦は上々ってところかな?」
「は?」(驚愕)
「と言うか、今日はアイス食べてな……」
「馬鹿にしないでください!」
「どうしたの?そんな声を荒げて」
「なんも解決してないじゃないですか!まさか、わかったフリをしてこの場をやり過ごそうとしています?俺は本気で役者を目指し……」
「本当にそうなのかい?」
「え?」
「本当にそうなら自分から荒療治でもするだろうし、第一私は「悩みを晴らす」と言ったんだよ?何も「悩みを解決」するなんて言っていない」
お姉さんは「何言ってんだコイツ」みたいな目で俺を見つめてきた。
「さっきも言ったと思うけど、私は無慈悲に真実だけを告げる名探偵になりたいわけじゃないんだ。人を救う事を目的とした救世主になりたいんだよ」
「それじゃあ!俺はまだ救われてません!自分の悩みが分かるまでは決して気分が晴れることもない。だからどうか、どうか」
正直、自分でもみっともないと思った。言ってることが無茶苦茶だとも思った。けど必死だった。だってそうだろう?目の前にずっと悩んできたことの答えを知っているかもしれない人がいるんだ。俺はすがるように頭をさげた。
「わかった。これが君の為になるのかはわからないけど、教えよう」
お姉さんは少し疲れた様子でいった。
※※※
「初めに言っておくけどこれは憶測に過ぎないからね?」
「憶測なのになんであんなに自信満々だったんですか……」
「私は別にエスパーじゃないしね。直接本人に問いたださない限り、残念ながら私の予想は憶測の域を超えてくれないんだよ。それに……」
「それに?」
「当の本人がこれだしね?」
「一応、元自殺志願者ですよ?もうちょっと優しくしても罰は当たらないと思うんですけど?」
「「元」だから大丈夫、大丈夫」
「救世主ってなんでしたっけ?」
「今から救うから大丈夫、大丈夫」
なんだこの人?
「そろそろ閑話休題といこう。君が悩んでいることはズバリ、「プレッシャー」ってやつだ」
「プレッシャー?期待ってことですか?それはありがたいことなんじゃ……」
「そういう考え方もあるね。けどそれが他人からのものじゃなくて、自分からのものだったら?」
「自分?」
「そう自分。君はなぜ役者を目指しているの?」
「それは、子供からの夢で……」
「今は?」
「今?」
「そう今。高校生って言ってもある程度の常識はついてきただろう?子供の時とは考え方が違うはずだ」
そう言われても、特に変わったことは……
「お金のことや、進路のこと……中でも進路のことが引っかかっているんじゃないのかい?」
「進路って俺は役者になる以外の進路は……」
「本当にそうかい?君が悩み始めたのは、二年生の中間テスト後ってい言ったよね?」
「そうですね。ですが特にすごいことが起こったわけじゃないですしあまり関係がないように感じるんですけど」
「君の学校に臨時時間割りはあるかい?」
「まぁありますけど」
「それじゃあ進路学習もやっただろう?」
「やりましたけど。さっきも言いましたけど、俺は役者になるので、、、」
「本当にそうかな?正直今、役者になりたい願望ってあるのかな?」
そう言うとお姉さんは俺に箸を向けると
「さっき君は、「やる気はある。やらなきゃいけない理由もある。けど何故かやりたくないってタイプ」って言ってたけど、本当は違うんじゃないのかな」
少し辛そうな顔をしながらそういった。
「なんであなたがそんな顔をするんですか」
「だから言ってるじゃないか、私は救世主を目指しているんだ。あまり人を悲しませたくないんだよ」
「そうですか。俺も察しが悪い方ではないので続きの言葉は言わなくても大丈夫ですよ」
嘘だ。正直言うと、なんなのかお姉さんはあの後何を言おうとしたのか、まったくわからない。けどこれ以上この空気にいるのが耐えられなかった。さっき覚悟を決めてきたはずなのにこれ以上考えたくなかった。
「ごはん冷めきちゃったんで、チンしてきますね」
「あぁわかった」
※※※
あとがき
投稿遅れてすいません。近況ノートにも書いたとおり何度書いてもチープな仕上がりになってしまって……
感想、アドバイス、いいね、フォローをくれると嬉しいです。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ごめんさい「とある機能」まで書き上げられませんでした。いまから書き上げるので許してくれると幸いです。
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