第6話 謎と可能性

 朝のうちに回っておきたい場所を一通り回ったイオナはノアと一緒に自宅に戻っていた。

 イオナの体力的にはそのままぶっ通しでも問題はないが荷物を抱えたまま行動するのは負担が大きくなるうえ、ノアのことを考えると休息をとった方が賢明だと判断したのである。


 玄関を開け、事務所を通って二階へと上がったイオナは荷物を床にまとめ置きしてお菓子を戸棚にしまい込んだ。

 ノアはそんなイオナの様子を静かに眺めている。

 

 「いやーたくさん買い物したわー」

 「イオナは知り合いがたくさんいるね」


 ノアはイオナの知り合いの多さに言及した。

 イオナは行く先々に知り合いがおり、移動中に声を掛けられることすらあった。


 「でしょー。仕事の間柄で知り合いやトモダチはたくさんいるんだよねー」

 「イオナって働いてるんだ」

 「働いてるよー。ウチは探偵やってるー」

 「探偵って何するの?」

 「誰からの代わりに何かを探したり調べたりかなぁ。ウチだけじゃ調べられないこともたくさんあるから、そーゆーのは他の人に助けてもらうってカンジでー」


 イオナは自らの職業をノアに明かした。

 仕事風景をノアに見せたことはないがイオナは自分の足で情報を集める探偵である。

 横のつながりを駆使し、様々な角度から多数の情報を集めて謎の真相へとたどり着く。

 それがイオナ流のやりかたであった。


 「イオナがお仕事してるところみてみたい」

 「見ててもあんまり面白くはないよー」

 「それでもいい」

 

 ノアはイオナの仕事に興味を示した。

 

 「じゃあ明日ちょっとだけ見せたげる」

 「うれしい」


 イオナはノアに仕事風景を見せることを約束した。

 ノアが好奇心を満たすことに喜びを感じるのを知っているため、こうするのが最適解である。

 

 「ねーノアちゃん。もしこのままノアちゃんの両親の居場所がわからないままだったらさ、ウチのところにいたい?」

 「うん。イオナと一緒なら何度でもユリウスのところに行ける」

 

 ノアはイオナのもしもの話に即答した。

 イオナの元にいれば好物のチョコクッキーを作ってくれるユリウスの工房を気兼ねなく訪れることができるという子供らしい単純な理由であった。


 イオナはノアが自分のことを好意的に見てくれていることに安堵したが、それはそれとしてノアに関する手がかりを何もつかめていないことに若干の焦りを感じていた。

 普段ならイオナの手にかかれば保護した迷子の親を特定するなど半日程度でできてしまうが今回は二日近くかけても何もつかめていない。

 これはイオナにとっては初めての経験であった。


 「ノアちゃんはさ、両親に会えなくて寂しいとかない?」

 「わからない」

 「そっかー」


 イオナの中でノアに関する疑問が浮かび上がった。

 それはノアの精神面のことである。

 彼女は要所要所で子供らしい挙動を見せはするが全体的に人間らしい感情が欠落している。

 普通ノアぐらいの年齢の子供であれば両親に対する愛着がまだ強く残っているはずだが彼女にはそれがまったく見受けられない。

 特に虐待などの痕跡もなく、至って健康な状態であることはイオナ自身も昨夜の時点で把握しており、健全な肉体に対して精神的な面があまりにも不可解であった。


 イオナの経験則では謎の答えは導き出すことはできなかった。

 だが、それと同時にイオナはノアの謎に関して何か知っていそうな人物のことを思い出した。


 イオナは再び外出の準備を始めた。

 心当たりのある人物の元を尋ねるためである。

 時間との戦いになることも多い仕事柄、思いついた可能性はすぐに検証したくてならなかった。


 「出かけるの?」

 「うん。今回はウチ一人で行ってくるけど戻ってくるまでここで待てる?」

 「待てる」


 イオナがノアに尋ねるとノアは自身満々な様子でそう答えた。

 その言葉の真偽はどうあれ、今はそれを信用することにして単身出かけることにした。


 「戸棚にあるチョコクッキー食べてもいいけど他のは食べちゃダメだから。あと一階には降りちゃダメだかんね」

 「わかった」


 イオナはノアにいくつか言いつけるともう一度外へと繰り出していった。

 そんな彼女の後姿をノアはチョコクッキーをつまみながら眺めていた。



 「とゆーわけで到着ー」


 家を飛び出して十数分、イオナは古ぼけた館へと訪れたのであった。

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