回り終わるころには

 夏、燦々と輝く太陽、うだるような暑さ。それでも僕らは遊園地に向かう!

 ということでやってきたのは最近できたと言われている少しだけ郊外から離れたところに建てられた遊園地。

「わーーっ!」

 彩乃がはしゃぎながら中に入っていくのに朱莉も混ざる。。暑さにやられた男子組は、その後ろを汗をタオルで拭きながらなんとかついていく。

 夏休み前と言ってもその人の数はもう数えるのが嫌になるほど。加えて快晴の今日はもう楽しむのには最適なのかもしれないが、暑さという点を含めたら最悪ではあった。

 申し訳程度のミストがあちこちで人々の体を冷やすが、子供たちがはしゃいでその周りにいるので中々近寄り難い。

「彩乃、今日はどれに乗るつもりなんだ?」

 当日まで何も知らされていなかった人志は、彩乃がこの遊園地に来たいということだけは知っていたが、具体的に何に乗りたいかなどは全く知らされていない。 

 だがそれは僕たちも一緒で、彼女と一緒に行こうということになったが当日まで部室などに何度か集まる機会があったがそこでも彼女はどれに乗ろうかとずっと考えていて知らない。

「それは安心して、ちゃんとどの手順で乗るかとかも考えてきたから」

 そう言って彼女は朱莉の手を引いて先に乗り場に行ってしまった。ぼくらもあとから乗り場に向かって着いたのはジェットコースターだった。

「これに乗るの?」

 僕は一応確認のために彩乃に聞く。

「遊園地に来てジェットコースターに乗らないわけないじゃん」

 それもそうだ。僕は苦手なので外で待っていようかな、みたいなことをほのめかしていると朱莉が彩乃のところから離れて僕の隣に来ると腕をしっかりとつかんで離さない。

「いいじゃん、今だったら楽しめるかもよ?」

「いいよ。僕は外でみんなのこと見てるから」

「でももう出られないけどね」

 途中で抜けられる場所はすでに過ぎていて、次の周回が終われば自分たちの番という状態。判断するのが遅かったと思いながら緊張で鼓動が早くなっていくのを感じる。

 そしてその番は意外すぐにやってきて、下げられたレバーを必死に握りながら僕は声を張り上げながら落ちて行った。

「………もう死ぬ」

 終わってから僕はベンチで膝に手を置きながら俯いている。

 朱莉が自販機で買ってきてくれた水を飲みながら少しづつ酔いが覚めてきたので次に向かうために立つ。

「大丈夫?ごめん、無理矢理乗らせて」

「別にいいよ。僕もノリわるいなと思ってたたから。乗ったほうが正解だっただろうし」

 彩乃や人志にも心配されてしまったのでこの通り心配ないと見せて次に行こうと彩乃に促したら、まだ心配そうにしていたが時間もあるので次に行くことにする。

「メリーゴーランドか」

 それならゆっくりしてるから僕でも楽しめそうだ。四人でそれぞれよさそうなのを選ぶと、曲が流れて動き始める。初めて乗って気づいたけど、これって意外に高いんだな。つるつるする触り心地を味わいながら曲が終わるとキャストさんに誘導されて降りる。

「意外と楽しかった」

「だよね!」

「乗ってるだけでも意外と楽しいもんなんだな」

 なんかよく分からないけど楽しかった。ゆっくりと回っているだけだったのでさっきの酔いも完全になくなって元気になり、どんどん次に行こうとする。

「じゃあ、次はどっちがいい?」

 そう言って彩乃は人志に二枚の裏返しになったカードを見せた。

「俺が選ぶのか?」

「そう!だから人志に見せてるんじゃんか」

「じゃあ、こっちだな」

 彼が引いたカードに書かれていたのはお化け屋敷だった。

 入口はいたって普通のお化け屋敷といった印象で彩乃と人志は迷うことなく入っていく。僕もそのまま入っていこうとしたら急に朱莉に袖を掴まれた。

「どうしたの。早く行こうよ」

「ちょっと待って」

 だけどいくら経っても彼女が動こうとしないので僕はしびれを切らしてそのまま振り切って行こうとしたらさらに強い力で袖を握られたので振り返って言う。

「袖が伸びちゃうって。どうしたの、まさか怖いってわけじゃないんでしょ?」

 それを聞くと彼女は顔を赤くしながらうんうんと頷いていた。

「え、」

「私だって苦手なものくらいあるよ。春くんだってさっきのジェットコースター苦手だったじゃん」

「でもさっきは無理矢理乗せられて」

「それはそれ、これはこれだよ!」

「まぁいいや、行こう朱莉」

「え、ちょ、待って待って春くん!」

 そうして僕の袖を掴む彼女をそのまま一緒に連れて中に入った。

 残念ながら僕は怖いのは全然得意なので中ではほとんど怖がることは無かったが、隣にいた朱莉は仕掛けごとに叫んだりビクッとしたりしていて、僕は途中から彼女の反応を見るのに楽しんでいた。

「次行こうか」

「少しだけ休憩、良いでしょ?」

 もうほとんど泣きかけみたいになっていたので可哀想に思ったぼくはゆっくりと歩くことにする。とはいってもけっこう朱莉には気を遣って進んでいる方で、ゆっくり進めば進むほど出口までの時間は長くなるから早く行こうと僕は言ってるけど彼女はそれよりも怖くて足がすくんでしまうのだという。

 結局十五分くらいかけて脱出したが、彼女はもうヘタヘタになって腰が抜けそうになっていた。

「大丈夫?そんなに怖かった?」

 外で待っていた二人は暑かったからかアイスを食べていて彼女を見るや否や声をかけたが、当の本人は大丈夫と言いながら僕に支えてもらってる。

「少し休憩にするか」

 人志がそう言って僕は時間を確認するとちょうど昼前。今からレストランに行くならちょうどいい時間帯だ。

「朱莉も死にかけだし、ちょうどいいんじゃないか」

「そうだね。じゃあ先にお店だけ決めちゃおっか」

 四人で地図を開いた裏側にあるお店一覧から食べたいところをそれぞれ言い合って、二つに絞ったのちに向かった。

 まだ時間帯としては昼じゃないのでそこまで人がいるわけじゃない。僕と朱莉は席取りで彩乃と人志には注文を頼んだ。

 僕らは良い感じの席を見つけると、そこに荷物を置いて二人が注文を終わらせるのを待つ。少し時間がかかりそうだったので僕は朱莉に少し聞いてみた。

「あの二人、このままいい感じになると思う?」

「別に今のところはいいんじゃないかな。思っていたよりも二人の間に隔たり?みたいなのが無かったから。私はもっとぎくしゃくしちゃうんじゃないかなって心配してたくらいだから」

 それは確かに。あんなことがあったあとだと考えたら全然今の雰囲気は悪くない。むしろいい方向に進んでいるんじゃないかと思えるくらいだ。

「お待たせ」

 それから全員分の料理が運ばれてきて昼ごはんを食べた。

 値段はまぁまぁそれなりにしたと思うけど、遊園地補正だと考えたら妥当な金額だと思う。食べてるうちに人がどんどんと集まってきて、先にご飯を食べるの選んでおいてよかったなと思う。

「さて、けっこうお腹も見たされてきたところだし次はどこに行く?」

「もう少しここでゆっくりしてもいいんじゃないか?すぐにアトラクションとか乗ったら絶対気分悪くなるぞ?」

 彩乃はすぐにどこかに乗ろうとしていたらしい。事前にそれを思った人志に指摘されて確かにと納得すると、さっき食べようとしていたもう一つの飲食店のところに向かうことにした。

「ここなら良いでしょ?」

「そうだな。甘いものを食べたい気分だしな」

 さっき二人ともアイス食べてたけどね。

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