第8話 力VS力

バルガスside


 俺は傭兵のバルガス。

B級傭兵ギルド『鉄虎てっこの牙』に所属している。


 とある商人に雇われ、エルフの村まで護衛任務に就いている。


 俺の長所はパワー。

ヒューマンの中ではパワーという点では誰であろうと絶対に勝つ自信がある。


 一つ目のB級魔物『サイクロプス』ともこの間張り合った。


 まぁ最終的には俺のパワーの前に屈したがな。


 今回の長旅も道中、様々な魔物や盗賊にあったが全てこのパワーの前に為す術もなく命を散らした。


 エルフの村へと到着し、エルフの村長が何やら雇い主の旦那と話をしている。


 奴隷商人だということは勿論知っている。

今回もエルフの奴隷を秘密裏に買い取り、貴族どもに高く売りつけるのだろうな。


 色んな噂は聞いているが、売られたエルフ達は奴隷の首輪という主人に歯向かう事が出来なくなる魔道具をつけられ、一生を性玩具として生きなければならないと聞く。


 はっ。そんな事は俺の知ったことではない。


 弱者は強者に平伏すのがこの世の理だ。


 パワーがあればその魔道具も捩じ切って逃げ出せるのにな。


 そして、村長一家と旦那のやり取りが終わりかけた頃、一人の男エルフが怒鳴り声をあげていた。


 こっちは早く依頼を終えて帰りテェんだよ。


 エルフが話を終えて、この場から去ろうとした。


 この場から消えようってか?

俺の仕事を邪魔しやがって、痛い目にあわせてやる!!


 エルフにラリアットを喰らわせ、吹き飛ばす。


 細くてか弱いクズが。

エルフなど魔法だけが取り柄の貧弱君だとは知っていたがここまで雑魚だとはな。


 あのマリーとかいう女も魔法でこの俺を倒そうとしやがったが、全て俺の強靭な筋肉の前に虚しく散ったが。


 アシュルとかいうこの男もまた同じだな。

いや、魔法だけで言えばマリーとかいう女の方が断然マシだ。


 いい加減に雑魚の相手はつまらない。

さっさと潰してやる。


 

 「もう良いだろ。商人のおやっさん、連れてくぞ。腹減ったぜ」


 その瞬間、腹部に今まで味わった事のないほどに強烈な衝撃が走る。


 ぐふっ。

口から血を吐きながら、吹っ飛ぶバルガス。


 こんなのありえねぇ。

次々と木をへし折りながら、100mほど吹き飛び、やっと地へと倒れ込む。   

 くそが。気絶寸前。イキそうになったぜ。


 身体強化を瞬時に発動しなければ、腹に大穴が開くところだったぜ。


  

           ✳︎


「何してるの? この俺の友達に」


 ミトスは拳を握りしめて、吹き飛んだバルガスの方向を向く。


 「な、なんだお前は!! どこから現れやがった!!」


 奴隷商人がビビりながら、叫ぶ様に疑問符を投げかける。


 「え、エルフ!? こんなエルフは村にはおらん!! どこの者なのだ!?」


 天を指さすミトス。


 「上だよ」


 天空樹の上から来た。

つまりは選ばれし者であり、下界のエルフとは隔絶した存在だと言える。


 「まさか、そんな、あの方達がこんな村へと下りて来るわけがない!! ハッタリはよせ!! 嘘をつくんじゃない!!」


 天空樹に住むエルフ。

それは王族に始まり、選ばれしモノだけが住まう事が出来る楽園。


 人々から隔絶され、下界のストレスから解放されて生きられる理想の地。


 圧倒的に自分達より身分が上のエルフ。

それが本当ならこの瞬間に自分達が行ってきた仲間を売るという大罪がバレたということだ。


 それは確実に死刑となり、家族全員で地獄へ堕ちるということだ。


 「み、認めん。嘘に、嘘に決まってる」


 「親父、どうしたんだ? そんなに慌てることかよ。ただのエルフじゃないか。村長である親父が一番偉いだろ」


 冷や汗をかく村長に、まるで状況が理解できない長男と妻。


 「そうよあなた。こんなエルフ、さっきの傭兵が殺してくれるわよ。安心なさいな」


 未だその傭兵は戻ってこない。


 「いつまで帰ってこないのですかバルガスさん!!」


 必死に叫ぶ奴隷商人。


 ミシミシミシと木が倒れ、物凄い音を立てて、男が戻ってきた。


 「旦那ぁ、ちょいと静かにしてくれや。こちとら頭が痛いんだ。そこのエルフにぶっ飛ばされてな」


 口から血を流し、余裕のある顔で戻ってきた。


 パキパキっと首の骨を鳴らし、戦闘態勢に入るバルガス。


 「不意打ちとは卑怯な真似しやがって。つぎは俺の番だ」


 全身に身体強化を発動し、凄い速度でミトスの背後に回り込む。


 「死に晒せ」


 ゴツい右手を握り締め、ミトスの右腹部へと後ろから殴りかかる。


 ボディーブローが入り、くの字に曲がり、吹き飛ぶ。


 「ふははっ。さっきのお返しだ。ざまぁみやがれ」


 殺ったとバルガスは確信した。

今までの経験で命の終わりというものがわかる。


 土煙が消え、ミトスの遺体が見つかる。













 と思っていた。


 「なるほど、大した事ないね。これなら筋トレした方が俺の筋肉は喜びそうだ」


 目をひん剥き驚く一同。


 何を言っているのか。

筋肉が喜ぶ?意味がわからない。


 「な、なんで!?」


 渾身の一撃に確信を覚えたが、平然としているミトスに衝撃が走る。


 「なんで攻撃を喰らったかって? それともなぜ生きてるのか? それはね筋肉を鍛えるためさ。筋肉は傷付けば傷つくほど強くなるんだよ。生きてる理由はね、君よりパワーがあるからさ」


 パワーはバルガスの誰にも負けないはずの長所だ。


 脆弱なはずのエルフにパワーで負ける?


あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない

 

 怒りを力に変え、殴りかかるバルガス。


 ミトスはバルガスの拳に自身の拳を合わせた。


 バキバキバキッと骨が微塵に砕ける音が聞こえた。


 「ぐわぁ!! いでぇ!! なんだこの硬さは!!?」


 敗北濃厚。

傭兵として経験したどんな相手より、勝てるビジョンが思い浮かばない。


 「む、無理だ、勝てねぇ、俺は逃げさせて貰う!!」


 持ち前の身体能力で逃げに転ずるバルガス。

脱兎のごとく、素早い身のこなしで、その場からどんどんと遠ざかっていく。


 商人達の姿が見えなくなるほどに遠くまで逃げてこれた。


 「はぁっはあっ。流石にここまで来りゃ逃げ切っただろ。しかし、何だったんだアイツは」


 エルフのくせに自分よりも身体能力が異常に高く、勝てる目処が立たない。


 理解を超えた存在。


 「絶対に力をつけて、奴を殺してやる。惨めに這いつくばらせ、虫ケラの様に潰してやる」


 完全なる逆恨み。


 しかし、こういう人間が一番手強いのだ。

執念深く、蛇の様に獲物は逃さない。


 「誰を許さないって?」


 「何で…お前がここにい、かひょっ」


 ミトスによる首への手刀でバルガスの胴と頭は完全に切り離された。


 「さて、次は元凶を潰すかね。さっと行ってさっと終わらすよー」


 ぐぐぐぐっと足に力を込め、弾かれる様に文字通り飛ぶ。


 たった一歩で元の場所へと到着した。


 「さてさてお待たせ。で、なんだっけ? 奴隷商人さんと村長さん?」


 全身が震え、圧倒的強者による罪人への天誅が始まる。

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