第7話 村長アスカテ
村の外へと飛び出していったアシュルを追い、森の中をひた走る。
追いつく事は簡単だが、それは一人の場合。
クルトは息が切れ、この状態で魔物の前に置いてはいけない。
ひたすらに走りながら、気配感知は忘れない。ようやくアシュルの足が止まったようだ。
その位置へと向かうと、木の影に隠れているアシュルが見えた。
そーっと近づくと、目線の先に村長と長男、奥方とヒューマンの男の四人で話していた。
耳を澄ませると会話が聞こえてきた。
「アスカテさん、こっちも商売なんだよ。早くしてくれないか? 約束の期限はとっくに過ぎてるんですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! もうこれ以上は皆にバレる危険がある!! バレたら俺たちはもうこの村には居られないっ」
「そんなもん知ったことではない!! 今更ビビるのか? あれだけ同胞を売り飛ばしたのにな。もうお前はこちら側だ」
顔中から冷や汗が出る村長。
「そうよあなた。バレなきゃ良いのよ。上手くやればもっと金持ちになれるわ」
「そうだよ親父。俺は選ばれたエルフだ。ここで築いた金で王都で商売をしてみせる。そうしたらママも親父も幸せだろ? それにデカいオッパイのオンナを掴まえるには金よ金金!!」
「ほら、ご家族もそう言ってますよ? あなたは黙って村のエルフを奴隷として売り飛ばせばいいんだ。魔物に殺されたということにしてね。そうすればあなた方は大金を貰えて幸せ、私達も幸せ。Win-Winじゃないですかぁ」
「わ、わかった」
「そ、れ、と、若いエルフだけですからね。女は下衆で金持ちな貴族に売れる。男は年増の女貴族に売れますからね。今頃、どうなっているかは分かりませんがねぇ」
「…それと、例のブツは貰えるのか?」
村長が目をキメながら奴隷商人へと訊ねる。
「例のブツ? あーあぁ、これの事ですかぁ?」
商人はそう言うと、白い粉が入った布袋を取り出す。
「はぁはぁ、これだ。これはどれ程貰えるんだ?」
「ふふっ。勿論金さえ頂ければどれだけでも。その為にもお仲間さんを売らないとねぇ」
「致し方ない。また例の方法でよろしいか?」
「えぇもちろん。では頼みますよ」
密談が終わると其々帰る場所に戻ろうとする。
今が問いただす好機であるとアシュルが物陰から飛び出す。
「おいっ!! どういう事だ村長!! 俺たちを、仲間を裏切るのか!?」
「ア、アシュル!!! なぜここに!?」
全身から汗が止まらなくなる村長。
それを見て村長の長男がしゃしゃり出る。
「誰かと思ったらアシュルか。親父、良い機会じゃん。こいつ売り飛ばそうよ。若いエルフは売れるんだろ?」
「そうよあなた。こんなエルフいくらでも村にいるじゃない。それよりも金よ金金」
金に目が眩み、もはや欲望だけを優先させる村長の家族。
「ふざけるな!! マリーもそうやって売ったのか?」
ほくそ笑む村長家族。
「マリー? あぁアイツか。当たり前だろ、あんな俺に靡かない奴なんてな。売り飛ばして金にするくらいしかこの俺の利益にはなんねぇんだよ」
「おやおや、仲間同士で喧嘩ですか。いけませんねぇ。仲間っていうのは仲良くなきゃ。でなければ裏切って売り飛ばすのが難しくなりますからねぇ」
「マリーは!! マリーはどこへやった!!」
「マリーさんねぇ、さて何処でしょう。前回売り飛ばしたエルフは今頃、キルバスト王国ですかね。無駄ですよ、あの国の貴族に売りましたから」
「なんだと!? くそがっ!! 今すぐ後を追わないと!!」
走ってこの場を去ろうとするアシュルが何者かに吹っ飛ばされる。
「いってぇな。誰だ!?」
「ふんっ。貧弱なエルフが。軽く体を当てただけで吹っ飛んじまったぜ」
「それはヒューマンでも吹き飛びますよバルガスさん」
奴隷商人にバルガスと呼ばれたスキンヘッドの男は筋肉隆々でおよそアシュルが力比べをして勝てる道理はない。
「この場でボコボコにされて奴隷となるか、抵抗せず奴隷となるか選べ」
「奴隷になんてなってたまるか!! ウィンドランス!!」
風魔法のウィンドランスを放つ。
「こんな魔法はきかん!! マリーってやつの魔法は少しだけ痛かったがな。だがこの筋肉には通用しねぇ!!」
その後も魔法を放つが全て通用しない。
「ハァッハァッ」
魔法の使いすぎで息切れを起こすアシュル。
「もう良いだろ。商人のおやっさん、連れてくぞ。腹減ったぜ」
アシュルを手で掴もうとしたその時。
「何してるの? この俺の友達に」
男の腹部にかつて感じたことのない衝撃が走る。男は吹き飛び、木々を薙ぎ倒してゆく。
その距離、100mはあるだろう。
「あああ、ミトス…助けに、来てくれたの…か」
最強エルフの反撃が今始まる。
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