第12話 何食わぬ顔

「失礼します!」

 頭に呼ばれて俺は部屋に入った。頭の他に元と徹もいる。

「よぉ、流水で進展だ。見ろ。」

 頭が放り投げた資料をキャッチして中を確認する。

 流水の構成員一覧?こりゃ完全に潰す気だな。

 名前に住所、電話番号、出身地、顔写真、親類の電話番号に表に出てないようなものを含めた犯罪歴に得意な得物や異能力など。 履歴書かと思えるような情報が書かれた膨大な量のページを捲ってざっと目を通していく。

「俺と徹と闇の皆で調べたんだぜ?大変だったよ。」

「あぁ、誰か一人でも欠けていれば成立しない作戦だった。生きた心地もしなかったが。」

 二人の苦労話を聞き流しつつ、資料を見ていく。

 そうしていく内に、最後に気になる情報があった。

 名称、住所、電話番号、出身地、親類、犯罪歴全て不明。あるのはフードを目深に被った写真一枚と、雷と書かれた異能力。

「……頭、この最後の奴。」

「そいつあぁ、あれだ。お前の成り済ましヤローだとよ。」

 頭が不機嫌そうに呟いた。

「は?元!徹!……それは本当か?」

 俺が顔を向けると元が肯定するように頷きながら喋る。

「マジだぜ。俺達が調べてる途中にヤロー感付きやがってよぉ、雷ぶっぱなしてきやがったんだよ。

 なぁ?」

 元が隣に座る徹の肩に手を置いて同意を求めた。

「あぁ、あの威力、かなりの物だろう。」

 徹も首肯して呟く。

 徹にそこまで言わせるとか相当ヤバイな。電圧とかがあっちの成り済ましヤローの方が高いとかだろうか。それにぶっぱなすって言ってたし、奴は放出系と見て間違いなさそうだ。俺は自分や触れたものにしか電流は流せない。放出しようとしても十センチが限界だ。

「そうか……頭、流水の案件、俺も混ざって良いですか!?濡れ衣着せられて終わりってぇのは全然納得いかねぇ!どうか、俺も!」

 俺は土下座で頼み込む。

「………無理だ。」

「な……!?どうして!」

「俺が出るからだ。」

「………え……?頭が……出向くんですか!?」

「あぁ。」

「……かしこまりました。」

 ならば、俺のやるべきことは決まった。

「聞き分けが良いな?どういう心境の変化だ?」

「……元気印と姐さん、そして松井組を守る任務、しかと拝命致しました。」

 俺に背中を預けるって言われたんだ。期待に応えなくちゃ漢じゃねぇよな?

「……そうか。子分が舐められてんだ。親分が出るのは当然だろ?

 後は任せた。死んでも守れ。」

 頭が俺の背中を叩いて耳元で囁いた。

「必ずや、御武運を。」

 俺は土下座で頭達を見送った。

「ハッ!誰に言ってやがる。」

 頭は元と徹、気配的に後三人を連れて屋敷を後にした。


 俺は立ち上がってやるべきことを整理した。

「………日向、豊後。」

 俺の声に反応し、天井から二つの影が降りてきた。

「日向はお嬢を、豊後は坊を任せる。抜かるなよ。」

「「は!」」

 二つの影はまたどこかへ消える。

 後は……

「……筑後。」

「は!」

 今度は軒下から一つの影。

「姐さんを守れ。決して気取られるな。」

「お任せあれ。」

 一つの影も消え、周囲にいた気配は完全に消えた。

「さてと、テスト作りますか。」

 俺は伸びをして、肩を回しながら部屋に向かった。










「「ただいまー!」」

 元気印が揃って帰ってきた。

「さこーん!今日ねー!」

 お嬢が満面の笑みで駆け寄ってきた。

「はーい、落ち着いてください。まずは手を洗ってからです。」

 俺はお嬢様さの頭を撫でて落ち着かせる。

「はぁーい。」

 後ろにいた坊は素直に返事をした。

「むぅ!絶対聞いてよ!」

 お嬢は少しむくれつつも、素直に従ってくれた。

「分かっています。」

 二人はどっちが先かと競争しながら洗面台に向かった。


「日向、豊後。」

「「は!」」

「二人がこの部屋に来るまで見張れ。部屋に来たら二人には屋敷の外を任せる。姐さんは筑後が見ているから表を中心に。」

「「は!」」

 二つのの影が部屋の窓から飛び出していった。


「さこーん!」

 手を洗い終えたお嬢がやってきた。

「お嬢、どうしたんですか?」

 今度こそ話せると、さっきよりも興奮しており、俺の手を握りながらピョンピョン跳ねている。

「あのねー!今日迎えに来た人ってあれだよね!お母さんと一緒にお買い物してる人!」

「えぇ、そうですね。彼女は日向と言って、屋敷にいる数少ない女性ですから。そういうこともあるでしょう。」

 姐さんが着ている服や化粧品は全て日向が見繕っていて、姐さんはセンスが抜群と手放しに褒めていたのを思い出した。

「私ね!お迎えは元よりあの人が良い!」

 ブフゥ!………は、元……お前は何をしたんだ?

「えっと……それは頭に言ってください。それを決めるのは頭なので。」

 流石に俺の一存で決められるハードルを易々と越えてきた。

「そっかー、今日ね?ひゅうがさん?とお話ししたんだけど楽しかったの!美味しいケーキとか可愛いアクセサリーのお話しもしたの!それとね、お化粧のお話しもしたのよ!」

 きゃー!と言いながらとても嬉しそうに話す。

 やっぱり女の子なんだな~。

「それは良かった。俺からも頭に伝えておきますね。」

 頭は結構子どもに甘いから聞き入れるかもしれない。またはそれでも心を鬼にして、安全重視の元続投の可能性だってある。

「うん!お願いね!」

 でもなー、日向はあれでも闇の一人だし……でも一番表に出てる回数が多いから大丈夫かな?顔バレしても変装の達人だしなんとかなることもあるだろう。

「左近、手ぇ洗い終わったよ。」

 坊も手を見せながら部屋に入ってきた。

「はい、坊は今日迎えに行った方は問題なかったですか?」

 豊後に限ってそんなことはないと思うが一応。

「そうだね?特になにもなかったよ。でも、徹より無口な人は初めて見たかも。」

 坊は思い出しつつそう答えた。

「あぁー、彼はそういう性分ですから、気にしないでやってください。」

 豊後は隠密に長けているから、音を出さずに生きるくせがある。

「うん、分かった。」

「さ、プリントと宿題を出してください。やることやって遊びましょう!」

「「はぁーい。」」

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