第10話 子守りの大変さ
「おはようございます。」
いつも通りの時間に出勤する。確か、頭が話しがあるとか言ってたかな?
家から持ってきた鞄をいつもの部屋に置いて、頭の待つ部屋に向かった。
「頭!苫成左近、参上しました!」
「おう、入れ。」
部屋の中から低く、腹の底に響く声が耳に入る。
「失礼します!」
俺は障子を開けて部屋に入った。
「よぉ、良い朝だなぁ?え?」
朝から日本酒。流水を追い詰めることが出来て上機嫌なようだ。それも沖縄産の黎明。頭の一番好きな銘柄だ。
「そうですね。俺も一仕事終えて、肩の荷が下りました。一杯付き合って良いですか?」
俺は右手で呷る仕草をした。
「ふ、バカ言え!おめぇは仕事しな。」
頭は黎明の瓶を抱えて睨みつつ喋る。
「こいつは手厳しい。
それで、臼杵とあの二人はどうするんで?」
俺が話題を変えたことで真剣な目付きとなる。
「臼杵は安藤組に放り投げた。貸しが作れたとなりゃ万々歳よ。お前が拾った二人は転がしてる。うちで雇うか、安藤組に引き渡すかは考え中だ。」
畳を三回指で叩く。
どうやら悪くは扱わないようだ。
「……ありがとうございます。仕事してきますね。」
「おう、よろしく頼むぞ。」
頭はお猪口に入った酒を飲み干して、嬉しそうに笑った。
「へい。」
俺は障子を閉めて部屋に戻り、テスト製作に取り掛かった。
「…………はい、今日も問題ありません。」
「「やった!」」
元気印が嬉しそうに両手を上げる。
今日もお菓子の配分は問題なく、お互い満足出来たようだ。
「では飴玉をどうぞ。」
ポッケから取り出した巾着を広げて、元気印に選ばせる。
「僕、イチゴー!」
「私……メロン!」
二人は嬉しそうに口の中で飴玉を転がす。
「そういえばしゃ近ー。」
飴玉を入れてるせいで、少し発音しきれてないお嬢が、俺のスーツの裾を引っ張って上目遣いでこちらの気を引いた。
「なんでしょう?お嬢。」
俺が目線を合わせて聞いてみると、お嬢が頭を左右に振って、思い出しながら喋り始めた。
「今日ねー学校終わりにちかちゃんのお母さんから飴玉もらったの!その飴玉がシュワシュワしててとっても美味しかったのよ!次からあれも用意して!」
お嬢は俺の手を取って、ブンブン上下に振る。相当美味しかったのか、興奮している。
お嬢は頭と一緒で食べるのが大好きだからな。
「良いなぁー!僕もそれ舐めたい!左近お願い!」
坊も未知の食べ物を想像して、目を輝かせて俺に抱きついてきた。
「そ、そっすね。じゃあ今日の夜、探してみますよ。」
「うん!お願いね!」
お嬢は納得したのか、楽しみーと呟きながら身体を揺らしている。
「ねぇーいのりーどんな感じだったの?」
自分は想像しか出来ないという不満から、坊はお嬢に詳しく聞く。それで少しでも自分と姉の差を埋めようとしているのだろう。
「えっとねー……シュワシュワしててー甘くてー…」
二人が話し込んでる間に、スマホでその飴の情報を調べる。説明している途中で包装紙の色等も教えてくれたため、検索は楽だった。
これかな?
「お嬢。」
「なーにー?」
「その飴玉の袋ってこれでしたか?」
俺はスマホの画面に表示された飴玉の画像を見せる。
「……そう!これ!買える?」
「えっと………はい、頭の夜食を買ってるところに無いか探してみますよ。あそこなんでもありますんで。」
「そうなの?私も行ってみたーい!」
「あ!僕も僕も!行ってみたーい!」
お嬢は俺の右手、坊は俺の左手にしがみつき、体重をかけてきた。
「………ごめんなさい、すぐにとはいきませんが、頭に話をしておきます。」
「「むうー。」」
俺が折れてくれないと悟ったのか、二人でプイッと顔を背けて座布団にドスッと座った。
「すみません。」
流石に今、不要な外出は出来ない。流水を追い詰めてるとはいえ、一度狙われた以上危険に晒すことは出来ない。
「左近意地悪ー!」
「ブーブー!」
そんなことはお構いなしと、元気印からブーイングの嵐が飛ぶ。
「ちゃんと買ってきますから。さ、ゲームでもやりましょう。」
「えー?元と徹はー?」
「二人は……ちょっとやることがあるんです。今日は三人で遊びましょう。」
迎えが終わった後、二人は流水の動向を探るためにさっさと出掛けた。俺に頑張れと、サムズアップをして。
「ふーん!なら、左近のことボッコボコにして上げる!」
「ねー!ギタギタにして罰ゲームさせちゃお!」
「………お手柔らかに。」
結果は…………全て負けた…………
「ほらー速くー速くー!」
「遅いよ左近ー!」
「へ、へい…………」
「あら、二人とも………?」
「あ、姐さん。お疲れ様です。」
「あ、お母さん!見て見てー!」
「僕達のお馬さんだよー!」
「あら、二人とも楽しい?」
「「うん!」」
「そ、なら良かったわ。左近も二人のこと、よろしくね?」
「お任せ下さ…」
「左近ー!進めー!」
「いけいけー!」
「は、はいさー!」
「ふふふ。今日は左近の好きなニンジンケーキでも作りましょうかね。」
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