第8話 俺の流儀

ー鈴木元ー


「オバチャーン!ふ菓子!」

「また来たのか、クソ坊主。」

 新聞を片手に茶を啜る婆さんが変わらず悪態をついてきた。

「まァたも何も、もう十数年は通ってるぜ?そろそろ名前覚えろや。」

「ハン!ワシから見りゃ、大体の奴らはガキさね。」

「へいへい、ほい十円。」

 ポケットに直に入れていた硬貨をオバチャンの目の前に置く。

「バァーカ!お前は消費税も知らんのか!」

 婆さんとは思えない速度で俺の手をひっぱたく。

「痛っ!?知ってるわババァ!」

「じゃあそれも払えぇい!」

「はぁ!?………チッ、えーと。」

 俺は胸ポケットから財布を取り出して硬貨を探る。

「今まで消費税無しで営業してやってたんだ、そのことに感謝して欲しいね!」

「へーへー、ほら。」

「フン!次からはちゃんと一回で出しな!」

「分かったよ!ったく。」

 ついでにもう少し出してふ菓子を囓る。

「って、アンタ!なんだいこの札束は!」

「むぐむぐ……ハァ?そんなの今までの消費税分に決まってンだろ?」

「くれなんて言っちょらんき!」

「っるせーな黙って受け取れや。ここが無くなったら俺が困んだよ。」

「ったく、不躾なガギだにゃ………まったく。」

 俺はふ菓子を囓りながら外に出た。順調に食べればお嬢の学校に着く頃には食べ終わる。これ程ピッタリな食いモンはないぜ。

 ………にしても、駄菓子屋が消費税かぁ。

「世も末…ってか。」










「ふぃー食った食った。えーと………」

 ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。後二、三分ってとこだな。

 お嬢も年頃なのか、学校の傍だと友達にからかわれて不機嫌になる。だから、学校の門の通りの曲がり角でいつも待ってなきゃなんねぇ。


 まぁその気持ちは分かるから仕方ない。



「お、来た。」

 クラスでは学級委員長らしく、基本帰りは遅めだ。俺がいるってのも見越してそれを選んだのかもしンねぇけどな。


「お嬢、お疲れ様です。」

「あ、元。スンスン、甘い匂い!」

「あ、またですかい?よく分かりますねぇ。」

「当たり前よ!それで?なに食べたの?」

「ふ菓子。お嬢も後で…」

「ごめん、趣味じゃないわ。」

「………っすか。」

 屋敷だと全然なのに、外だと大分ませてるなぁ。

「そいじゃ、行きやしょ。」

「えぇ、そうn………」

 お嬢が喋ったと思ったら、黒い影と共に消えた。

 目を擦って冷静に消えた方を見ると、黒ずくめの不審者がお嬢を担いで走っていた。

「………待てぇやゴラァ!!!」

 この俺から逃げられると思ってンのか!?ああん?

 小学校の頃、音速のはっちゃんと言われた俺に走り勝負たぁ良い度胸だ!

「な!?何て速さだ!?」

「元早く!給料減らすよ!」

「何でお前はそんな態度なんだ!?」

「分かってやすよ!」

 不審者に追い付き、顔をよく見る。

「ひ!?」

 知らんやつ。確認終了!

「よっと!」

 不審者に足払いをする。

「ぐわ!?」

 不審者が無様にこけて、お嬢が空を舞う。

 ついでに不審者の後ろ首に手刀を落とす。

「ぐべっ!?」

 

 そして、お嬢をフワリと、まるで漫画のようにお姫様抱っこで受け止める。………決まった!

「どうでしたかぁお嬢?俺の華麗な…」

「元。」

 お嬢の神妙な顔付き……只事ではないな!

「はい?」

「………パンツ見た?」

「………………………別に熊さ…ぶべら!?」

「最ッ低!」

 くうぅ…お嬢からグーパン食らった……流石頭の娘だぜ……

「元!」

「ん?……おぁ!徹!」

 徹が坊を連れてこちらに走ってきた。

「祈理ー!大丈夫!?」

「道理!あんたこそ怪我してない?」

「うん!徹が守ってくれた!」

「私は…………うん。大丈夫。」

「ちょっとお嬢!?何でそこで悲しそうな顔するんで!?」

「「元………」」

「道理坊も徹も!誤解ですって!」


 ゾロゾロゾロゾロ…………


「ん?何か足音が……」

「あぁ、スマン。俺は守れるが戦えないから、逃げるついでにそこら辺にいるネズミは全員連れてきた。」

「……ハアァァァァァァァ!?!?!?」

「それじゃ、俺は嬢と坊を連れて屋敷まで向かいながら連絡も済ませておく。殿は任せたぞ。」

「………ハァー。ま、こういう時様に決めてたことだしよ、文句は言わねぇさ。」

「よし祈理嬢、道理坊。お早く参りましょう。元の邪魔になっちまいます。」

「うん!元、頑張って!負けないでねー!」

「はい!任せてください!」

「元!帰ったらお父さんとお話させてあげるねー❤️」

「嬉しくないです!」


 あ、行っちまった…………

 お嬢…絶っ対!根に持ってるなぁ?

「も、もしもお嬢のパンツ見たってバレたら……」


 「なぁに?俺の娘の…だと?嫁入り前の娘に何して

  んじゃわれぇ!」


「……ヒッ!」

 さ、寒気がしてきやがった………



「福島さん!あんなとこで震えてる阿保がいやすぜ!」

「お?今はあったけぇってのに。ピーピーなんでちゅかぁ?」

「「「「「アッハッハッハッハ!!!」」」」」

「あん?」

 こいつらが二人を狙ったネズミ共か。リーダーの福島?ってやろう、鉄バットなんて今時物騒なもん表で振り回しやがって。

「今更凄んでやがるぜ?」

「無駄無駄!厚着してそれなんて、体質なのか!?可哀想でちゅねぇ!」

「「「「「ギャハッハッハッハ!!!!!」」」」」

 下品な連中だな。俺の爪の垢煎じて飲ませてやりてぇくらいだ。


 つーか何人だ?五十は軽く越えてんな。……あ?つまり俺は今五十近い数に笑われてるってことか?

 何か…イライラしてきたな………そうだ!どうせ頭に怒られんだし、折角なら本気でオモテナシしてやるかなぁ?


「ハッハッハッハ!ハァー笑った笑った。で?お前松井組の……高橋?だっけ。」

「違いますよ福島さん!佐藤っすよ!www」

「あれぇ?そうだったか!かぁー!俺も年かぁ!」

「そんなわけないじゃないっすか!福島さんは現役バリバリっすよ!」

「んなもん、オメェ。シャブッてるからに決まってンだろ?」

「っすね!」

「「ギャッハッハッハッハッハ!!!」」



 あいつら…ずっと喋ってんな。あの太鼓持ちも全然こっち見ねぇしホントにこいつらか疑わしくなってきたし。なんか、やる気が削がれるっつーか、力が抜けるっつーか……

「はい、すぅきぃ(隙)❤️」

「っ!?」

ガッ!

 殴られた!?ってぇ………アノヤロー、思い切り鉄バットでやりやがったな。久し振りに頭から血が出たぜ。

 俺は身体をほぐしながら立ち上がる。

「けっ!異能かなんか知らねーが。決めた。」

「なんでちゅかぁ???」

「消す。」

「はぁぁ?なにダボ………」

ドスッ

 一先ず、こいつは片付いたな。後はどんだけ異能力持ちがいるかだな。

 それなりの巨体が何も言わずにコンクリートの上に転がる。

「て、てめぇ!ドスゥ出しやがったな!?」

「うるせーなぁ……今どき鉄バットだってドス見てーなモンだろ。」

「な、な……」

「でも、一つ謝っとくぜ。」

「は…何だよ……」

「今許可が出た。異能力、使わせて貰うぜ?」

「は?……じゃあさっきの………」

「覚悟しろよ?クソザコ共。」

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