第7話 対話

 皆は潜入ってどう思う?すごく大変だよね?分かるよ、スッゴク分かる。だから皆は、俺がどうやるか気になるよね?

 簡単さ。

 まず、建物から少し離れたところで異能力を使います。

 注意点として、音を最小限にする、人の近くをあまり通らない、物陰に隠れるとき以外は能力で移動する。するとなんということでしょう!誰にもバレません!さぁ、開始数秒で潜入に成功しましたぁー。

 明日にでも試してみてね!責任は負えないケド!


 お、このローストビーフうまそ。おぉ、このスープカレーもなかなか………


『あの、左近さん。』

 豪華なグルメを楽しんでいると、鳩が無線で話しかけてきた。俺は急いで人気のないところまで向かい、応答する。

「どうした?」

『臼杵が奥の…入り口から見て左奥の部屋に入りました。』

 細かく言い直したのはかなり高ポイントだな。脳内メモに記しておこう。

「了解。お前は他の奴らと合流しろ。……最初に通った公園分かるか?」

『はい、覚えてます!』

「俺の指示があるまで他の奴らとそこで待機だ。回しとけ。」

『承知しました!御武運を!』プツッ


「さ、真面目に動くか。」

 腹ごしらえも終わったし、それも含めてお礼をしないとな。






 左の奥………ここか。明らかにカタギじゃねぇ奴が二人、ドアの前で見張ってやがる。あそこが当たりだな。

「にしても…」

 片方が口を開く。情報収集のためにも少し聞いてくか。


「あ?また愚痴かよ。」

「だってよぉ、臼杵さんのやり方最近おかしいだろ?他の組に喧嘩売ったりとかさ、前も犯罪擬きはしてたけどよぉ、流石に流水が潰されちまうんじゃねぇかな……」

「ハッ、そうなる前に俺らが全て潰すだけだ。」

「ばっ、おめぇ何言ってんだよ!そんなこと出来るわけねぇだろ!?臼杵さんも頭も、アイツが来てからおかしくなったんだ!」

「……だとしても、俺は流水組のために働く。それだけだ。」

「そうかよ。……けど、臼杵さんはなんだってこんなところに来たんだ?今はこんな悠長なことしてる暇なんてねぇってのに。」

「あの人は何かしらの理由がないと動いたりはしない。なんかがあんだろ。」

「ハァー、そーかよ。」


 もう良いか。アイツ……ね。まぁ今は考えても仕方ねぇな。

 俺は高速でさっきの二人を沈める。

コンコンコン

 俺はドアをノックした。

「入りたまえ。」

 やけに落ち着いてるな。俺はゆっくりとドアを開けた。



「やぁ、ようこそ。」

 鳩が言っていた白スーツの厳ついオッサン。………それ以外に人は無し。妙だな?

「どうかしたのかい?雷鳴くん。」

 やっぱり、俺を誘き寄せていた訳だ。

「いや?あんたみたいなオッサンが護衛もつけずにソファで寛いでいるのを見てたら、俺も休みたくなっただけさ。」

 俺はそう言って臼杵の対面のソファに腰を掛ける。

「そうかい。」

 臼杵は気味が悪いほどの笑顔だ。

「ここ、禁煙か?」

「いーや。」

「そうか。」

 俺は懐から赤マルを取り出して一服する。

「アイツらは元気にしているのか?」

 アイツら、新顔のことだろう。

「あー元気さ。あんたらに恩返ししたいって息巻いてたぜ?よほど、良いことしてたんだろうな?」

「ハハッ、殊勝だな。」

 お互い、煙草とコーヒーで一息つける。


「あんた、俺を連れ込んで何がしたい?」

 ここはさっさと切り込むのが良いと見た。

「警戒するなよ、軽くお喋りがしたいだけサ。」

「へぇーそれで?他の流水組はどこにいる?」

 俺はさっきよりも視線を鋭くして臼杵を見つめる。少しは圧力になんだろ。

「んー?なんの話だい?」

 効果無し、やつぱ場慣れしてるやつはメンドイな。

「さっきの二人、どちらとも不満があった。お前は組の要らないやつを連れて俺をここに留めている。

 他の連中は……」

 声を張り上げていた方もだが、かたくなに組のためと言っていた奴も、あれは何処かに不満を持っていた。何となく分かるんだよなぁ。表情や目の動きを見てると。

「そこまで分かっていて察しが悪いなぁ。」

 臼杵はやれやれといった態度を取る。

「何?」

 その瞬間、お調子者然としていた臼杵が俺達と同類の表情を浮かべた。

「俺らがあの六人を監視してないとでも思ったか?お前らの情報は手に取るように分かるぞ?」

「脅しか?」

「俺はやさしーからよぉ、お前ら松井組の弱点を教えてやるよ。……子ども、だ。」

 臼杵は愉悦に歪みきった表情を露にした。

「てめぇー、二人に手を出そうってのか?」

 流石に学校の間はまずい……

「もちろん、現在進行中だ。」

 今は……十六時。ちょうど下校のタイミングか。

 フッ。

「ふん、はたしてうまく行くかな?」

「はっはっは!あの護衛二人のことを言っているのか?俺達が差し向けたのは一人あたり五十は軽く越えてる。あんな雑魚に何が出来ると言うのか。」

「……………」

 そうか………それは全く。

「驚いて声も出ないか。」

「ふ……ハッハッハッハッハッ!」

 笑えるな!

「なんだ?」

「なんだ、はこっちのセリフだぜ?臼杵ぃ。」

 プルルル……プルルル……

「おや、出てやれよ。臼杵ぃ。」

「チッ、気味悪ぃ。

 なんだ?」

『う、臼杵さん!あいつらヤバイっす!どう見てもバケモ……』

 ツーツーツーツー

「ハハハ!暴れてるなぁ。」

「ど、どういうことだ!?調べでは異能力者は雷鳴だけで、あれはただの……」

 臼杵が見るからに動揺している。

 これは見ていて面白いが、話が進まないから答え合わせでもしてやるか。

「あんたら、うちの組がどっかとバトッたとこ見たことねぇだろ?そんな状況で、能力なんか使うわきゃねぇだろ?」

「くっ!だが、たった一人だぞ!?流水組の精鋭が!」

 護衛が異能力を使えると悟ったようだが、まだ察しが悪いな。さっきの俺より滑稽じゃないか?

「アッハッハッハッハ!それこそ笑いモンだな!」

「何だと!?」

「頭は大事な大事な、子どもを任せた人材を、名が知れてる雷鳴ではなく、あの二人にした理由って何だと思う?」

「そ、それは……」

「そんなの、俺より強いからに決まってンだろ?」

 悔しいがな。

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