第6話 仕事

 今日も毎朝納豆タスクをクリアして、屋敷に出勤する。

「よぉー左近。」

「おはようございます!」

 玄関を開けたら、目の前に頭がいた。軽くホラーだな。

 いつも通りの服装ではあるが、少し雰囲気が違うな。俺が思っていると頭が指でジェスチャーをする。

「細いこった今ぁいぃ。こっち来い。」

「あ、でも二人のテストが……」

「今日はぁー無しだ。お前もたまにゃ"外"に出たいだろ?」

 元気印の喜ぶ顔が目に浮かぶな。

 それよりも外…か。厄介な奴だな?

「……うっす。」

 俺は覚悟を決めて頭についていった。





 連れられたのは頭の部屋だ。

 あ、あの六人もいる…ってことは。

「フゥー……察したかと思うがぁ、流水の件だ。」

 座布団に尻を落としてから、俺の六人への視線を見て喋った。やっぱり、よく見てるなぁ。

「えぇ、ですがこんなに早くですかい?」

 こいつらを連れてきたのはたかだか一週間前だ。一体何が……

 その時、頭が持っていた湯飲みが粉々に粉砕された。ちょうど飲みきっていたようで、畳が濡れることはなかった。

「あぁー。闇を使って調べた結果だ、見ろ。」

 "闇"とは、松井組が抱えている諜報部隊のことだ。

 頭が放り投げてきた資料を拾って一枚ずつ見ていく。

「……………こいつぁ、看過できねっすね。」

 流水の奴ら、逃げた六人がうちの組に入ったのを知って、松井組を騙って良からぬことをしていたようだ。そして、どんなことがされてきたかが、この資料につらつらと記されている。

 その中には、あたかも今起きている雷鳴事件の首謀者が頭であると吹聴しているというのもあった。

 評判落とす目的もあるだろうが、俺が雷鳴って異名を持ってるから目をつけられたってのもあるな。

 それって俺のこと、ひいては頭を舐めてるってことだよなぁ?それがどういうことか、キッチリ教えねぇと。

 俺の頭のなかで、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。

「頭。」

「なんだ?」

「今日、昼から吸いてぇんすけど、何本吸っていいですか?」

 多分、今の俺の苛立ちは隠しきれていないだろうな。何故なら周囲でバチバチと電気の音が聞こえる。俺の悪い癖だ。

「フッ、なくなるまで全部だ。遠慮するこたぁねぇぞ。存分に吸ってこい。安藤組も黙認してくれてるし、そこの新顔も使って良い。

俺達を下に見たらどうなるか、今一度教えてやれ。」

「っす。」

 相当頭、キレてるな。いつもならこんなに直接的な言い回しはしないんだがなぁ。

 …ん?あの六人震えて何してんだ?……あぁ、頭の圧にやられたか。頭怖ぇもんなぁ。






 俺は新顔六人を連れて外に出た。昼に出歩いてるため、近所のマダムの視線が痛いが、気にしない。

「お前ら、そういや名前聞いてなかったな。」

「へ、へい!そうっすね!俺は……」

「……いや、やっぱいいや。」

「へ?」

「俺が良い名前を付けてやるよ。感謝しろ。」

「……」

「文句?」

「ないっす!な!」

「おうとも!」

「もちろんでさぁ!」

 反対がなくて何よりだ。


 結果、二メートルの巨漢は狼。

 口臭い奴は海老。

 メガネは鳩。

 紅一点は栗鼠。

 チビは狐。

 最後の平凡な奴は佐藤。 

 なかなか良いのではなかろうか?

「どうだ?気に入ったか?」

「は、はぁ。」

「ん?」

「気に入りました!」

「最高です!」

「流石です!」

「ありがとうございます!」

「戸籍の名前変えます!」

「変なのじゃなくてホッとしました。」

 うむうむ、概ね好評だな!


 あと、驚いたことに、狼だけでなく、栗鼠と狐も異能力を使えるらしい。やはり、良い拾い物だったな。

 狼は怪力。ダンプカー位なら持ち上げられるらしい。なかなか頼もしいではないか?

 栗鼠は剣化。全身を業物の剣に変えるらしい。恥ずかしがって見せてくれなかったから、あまり期待はしないでおく。

 狐は火炎。火の玉程度だが、牽制には使えるだろう。




  六人を使って流水組の息のかかった奴らを探し、俺が潰すという作業を進める。これを繰り返していけば、トップに近い奴の情報を知ってる奴にぶつかるだろう。


「これで……十六人…………ハァハァ………」

 海老が根を上げるように尻餅を付いた。

「疲れたのか?」

「あ、えぇ。流石に……」

「そうか、なら休んでろ。俺は次に向かう。」

「ま、マジっすか!?」

「あぁ。鳩が当たりを引いたみたいだ。」

 俺は能力を使って走る。

「はえー……やっぱバケモンだなぁ。」

 海老はそう言うと、大の字になって地面に寝転がった。






「っと、鳩。どうだ?」

「あ、左近さん。あそこ分かりますか?」

 鳩が隙間から指を指した所を覗く。

「………何かの会食か?」

「はい、そこの……あれです!白いスーツのワインを持った角刈りの…」

「おぉー。見えたぞ。」

 なかなか厳ついオッサンだなぁ。

「はい、あれが流水組の右腕であり、政財界にも繋がりのある、臼杵です。」

「…ん。ご苦労。鳩も休んどけ。」

「え、ですが……」

「大丈夫だ。………そうだ、ならお前はここから見える情報を俺に送ってくれ。」

「あ、分かりました!

 ですが、左近さんはなにを?」

「決まってるだろ?……潜入だよ。」

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