第3話 アホの登場
「あぁ……うまー。」
屋敷では煙草が吸えないから、頭の夜食を買いに行く時に吸うしかない。帰る時もちゃんと消臭スプレーも忘れない。じゃないと姐さんにどやされる。
今日の夜食ローテは………チョコが入ったアイスモナカだったな。
コンビニの前で煙草をふかしながら今日の疲れを一通り癒す。
「いらっしゃいませー。」
聞き慣れた自動ドアの音と共に、深夜帯にいつもいる店員の声を聞く。
ええと……あったあった。
俺はそれを一つ取ってレジに置く。
「はぁーい、一点で百六十円でーす。」
素早い手付きでアイスが袋に入れられる。
「はい、これで。」
ポッケから直に入れていた百六十円を取り出す。
「ちょうど、お預かりでーす。
ありがとうございましたー。」
「うっす。」
あの人、毎日来る……って思われてそうだなぁ、と思いながら自動ドアを通った。
「さ、溶ける前に帰らねぇとな。」
「おい!」
俺が歩き出すと、横から声をかけられた。
「…なんだ?」
横から声をかけてきたのは数人の男達。
また?
「ちょっと面貸せや!」
「あ?知るか。」
俺は気にせず歩き出す。
学んだんだ。あーゆー奴らは無視して良いってな。
「おい!待て!」
やっぱ来るか……
俺は人通りの少ない道に進む。
「へ!お前ら、先回りしとけ!」
後ろからさっきの奴の声が聞こえる。
「ハァー……」
誘導しといてあれだけど、面倒くさいな。
「ちょっと話そうや。」
黄緑色の髪をした童顔の……男か。喉仏が無かったら女だと思った……が話しかけてきた。
多分こいつがリーダーだな。
「なに?お前ら。」
「分かってンだろ!?俺らが安藤組だってよ!」
傍らにいた下っ端が叫ぶ。
「知るか、有名でもないやつがよ。」
俺は差程詳しくないからあれだがな。
「な!?」
「てめー舐めてんな?」
下っ端が反応し、さっきのリーダーとおぼしき男の紹介を始めた。
「この方は、安藤組の十二番隊隊長の藤巻虎さんだぞ!」
とらさん?凄まれてもかわいい語感で相殺されちまうな。
「だから知らねーよ。」
「あぁ!?」
下っ端がさらに凄むと、チョンチョンとリーダーの男が下っ端の肩をつつく。
「よせよ、俺のもっと有名な名があるだろ?」
「あ!すいやせん!
おう!よく聞け!この方の異名は【走り屋】だ!これなら田舎モンのてめぇでも知ってんだろ!」
そう言われた走り屋?がドヤ顔で前髪をかきあげる。
「いや、知らねーって。何回も言わせんなや。」
ピキッ!走り屋の額からそんな音が聞こえた気がした。
「てめぇら!あの親の教育のなってねー生意気な奴を分からせてやれ!」
「「「「おう!」」」」
下っ端五人が前と後ろから迫ってくる。
腕時計をチラ見し、時間の猶予を確認する。普通ならさっさと逃げるのが一番だし、こいつら俺のこと知らねーみたいだから前の件じゃない。圧倒的に無駄な労力だ。
だが、俺の親を馬鹿にされちゃ黙ってらんねーな。
「スゥ……雑魚は引っ込んでろ!」
俺の雷を纏った回し蹴りに、下っ端五人が声もなく沈む。
「な!?てめぇ…何しやがった!」
俺の光速の一撃に動揺する走り屋。
「あー名乗ってなかったから言わせてもらうぜ?
俺は松井組の苫成左近、異名としては【雷鳴】って言われてる。」
「て、てめぇがあの【雷鳴】!?
ちょ、ちょうど良い、俺は安藤組最速って謳われてんだ。速度勝負と行こうじゃねぇ…か!」
言った瞬間駆け抜けてきたこいつは、俺にかかと落としを使ってきた。この音的に風を操るんだろうな。全くの空気が動いてる感じが無かった。
だが………
「なぁ!?」
「最速?あの最大級の異能力使いを抱え込んでいる安藤組でそれじゃあ、一瞬でその称号は俺の物だな。」
こちとら、光速なんでね!
走り屋の足首をすんでのところで掴み、壁に叩きつけた。
「が!?」
壁に激突した痛みで苦悶の表情を浮かべた後、重力により、走り屋は地面に身体を強打する。
「最速ってんなら、これを越えてもらうぜ!」
よろよろと顔を上げた走り屋に、俺は走り屋の顔目掛けて回し蹴りを放り込む。
「あぶ!?」
数メートル吹っ飛んだ走り屋は、気絶していた。
「これで喧嘩仕掛けてこなきゃいいなー。」
俺はゆったりとした足どりで表の道に戻る時、ふとアイスの入った袋を見ると、端から見て分かるほど形が歪んでいた。
「…………買い直そ。」
これは俺の責任のため、経費で落ちないし、また行ったことであの店員に少し驚かれた。
他の店行きゃあ良かったなぁー。
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